リーダーシップ

一部報道によると、年内の解散を発表したSMAPをめぐり、解散を惜しむファンによる「草の根運動」が続いているそうです。CDの購買運動に加え、テレビ局にはメンバーがそろって出演した番組の再放送を求める声が殺到。新聞の有料伝言板がメッセージで埋め尽くされる事態も起こるなど、国民的グループ解散の衝撃は、未だに尾を引いているようです。

■SMAP関連事業の事業価値
筆者も先月、「SMAPの『上場・売却』でファンとメンバーと事務所は皆ハッピーになる。」というタイトルの記事を配信したところ、全国のSMAPファンから、沢山のメールやコメントを頂戴しました。その反響に驚くとともに、改めてSMAPの存在の大きさを再確認する機会となりました。

上記の記事の中で、筆者はSMAPの解散を回避できた場合、「SMAP関連事業の価値は、130億円程度と推定されること。」「SMAP関連事業をジャニーズ事務所本体から切り離して別会社化し、適切な経営を行った場合に、近い将来、株式上場や売却などにより、130億円程度の資金を調達できる可能性が生まれること。」等について指摘をするとともに、「SMAP解散は、ジャニーズ事務所の経営面においても大きな損失になるのではないか。」といった懸念についても言及しました。併せて「SMAPの事業価値は、SMAPファンが産み出している。よって、SMAPファンの支持は約130億円の資産価値に匹敵する。」といった趣旨の指摘もさせていただきました。

しかしながら事態がこのまま推移した場合、ジャニーズ事務所はSMAP解散により、SMAPが産み出していた事業収益のみならず、全国のSMAPファンの支持をも同時に失いかねません。また今後のジャニーズ事務所の対応によっては、多くの「アンチ」を生み出しかねない危険な状況に陥っているようにも感じます。

このような状況に陥った場合、一般企業ならば、どのような対応を取るのでしょうか?今回は一般企業の「事業承継」の側面から考えてみました。

■経営者の高齢化と事業拡大意欲との関連
ジャニーズ事務所の経営面における特徴として挙げられることは、経営者の高齢化が際立っていることです。ジャニーズ事務所の経営者は社長、副社長共に80歳台後半であり、2015年の一般企業の経営者の平均年齢が60.6歳であることと比較しても、極端に経営者の高齢化が進んでいる企業であると言えるでしょう。

中小企業庁は「2016年度中小企業白書」の中で、「経営者の年齢が若い企業ほど、生産性が高い。」といった指摘をしています。また2012年に中小企業庁が実施した「経営者の成長意欲に関する調査」の中でも、経営者の年齢により事業拡大にも影響を与える傾向が明らかになっています。
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上記のグラフは、経営者の年齢が上がれば上がるほど、「現状維持志向」が強くなり、事業拡大意欲が減退する傾向が強くなることを示しています。 つまり経営者が若ければ若いほど事業拡大に対する意欲が高く、かつ経営革新等にも積極的に取り組むため、収益向上を実現しやすい傾向が見られるのに対し、経営者の高齢化が進んでしまっている企業ほど、事業環境の変化に対応しようとする意欲が薄れ、事業拡大機会を逸してしまう傾向が顕著になっているようです。

今回SMAPが解散に追い込まれた背景にも、高齢の経営者特有の「強い現状維持志向」があったのかもしれません。「現状のやり方を変えたくない。変えられたくない。」という経営者の強い拘りが、中長期的な収益の低下や企業イメージの悪化をもいとわない、極めてリスキーな経営判断に結びついた可能性を、完全に否定することはできないと思います。

なぜ「リスキーな経営判断」なのかと言うと、通常複数の事業を行っている企業は、事業を以下のようなポートフォリオを用いて管理しており、安定して収益を生む「金の生る木」に属する事業の利益を、「問題児」の象限に属する新規事業等や、「花形」に則する成長中の事業に投資することで、事業の拡大を図っているからです。

ポートフォリオをジャニーズ事務所の所属グループやタレントに当てはめて整理してみると、凡そ以下のような分類になるものと考えられます。
プロダクト・ポートフォリオ・マトリックス


上のポートフォリオから、SMAPが解散するということは、SMAPが生み出す収益が失われるだけに留まらず、その利益を投資することで成長してきた「問題児」に属する新人タレントや、人気上昇中の「花形」に属するグループ等への投資が、不十分になるリスクが懸念され、今後のジャニーズ事務所の成長に影響を与えかねない経営判断であったことが容易に想像できます。よってジャニーズ事務所も、SMAP解散が与える経営面への影響等について、再度冷静に検証してみる必要があるように思えます。

■SMAP解散時期の先延ばし
誠におせっかいながら私見を述べさせていただくと、ジャニーズ事務所が今後も上記のようなポートフォリオを運用して成長を遂げていくためには、ここは一旦「SMAP解散時期の延期」を先送りする「勇気ある決断」が求められると思います。まず「年内解散の延期」を決断することにより、経営者やSMAPメンバー、元女性マネジャー等を含む関係者全員が、改めてSMAP解散について冷静に話し合う時間ができると同時に、関係者同士の信頼関係を再構築できる機会が生まれると期待されるからです。

参考になるのは、小池百合子東京都知事が、築地市場の豊洲への移転延期を決めた決断です。この決断の特徴としては、様々な問題の原因追求のために、あえて豊洲移転延期の時期を明確にせず、また最終的に移転を行うか否かについてもファジーにしている点が挙げられます。通常、移転延期の時期等を明確にしない決断は、好ましくないことと思われがちですが、反面移転時期等をファジーにしておくことにより、各種制約条件にとらわれずに時間をかけて検討できる、というメリットが生じます。今回小池知事は、あえてファジーな決断を為されたのだと思います。

このような小池知事の決断をヒントにすると、ジャニーズ事務所もSMAPの解散時期等をファジーにしたままで、まずは「SMAP の年内解散を先送りにする。」という決断を下すことが望ましいと思います。その上で、多くのSMAPファンが望む解散回避の意思を尊重し、まずは経営陣やSMAPメンバーを含む関係者全員が、本当にSMAPの解散を望むのかどうかについて、本音で話し合える場を設ける必要があるように感じます。 それにより関係者間の信頼関係を再構築できる可能性も生まれるため、解散を回避できる環境も次第に整うものと予想されます。

私見ですが、ジャニーズ事務所が行った「SMAP解散」という決断は、企業イメージや収益に与える影響についての検討が不十分なままに下された、やや拙速なものだった可能性を否定できないと思います。よって、ジャニーズ事務所も再度多くのファンがSMAPの解散撤回を望んでいる現状を認識した上で、まずは「年内解散」とされている解散時期の先送りを決断されることが、現時点における最良の策だろうと考えます。

■後継者への権限移譲
一般企業に於いては、企業経営者が高齢になった場合に陥りやすい弊害を防ぐために、経営者は適当な時期に、「最高執行責任者(COO)」としての業務遂行に関する権限を後継者に委譲した上で、自身は代表権を持つ会長などの立場から、社長(COO)の業務執行をサポートするといったケースが、多く散見されます。

ジャニーズ事務所にこのスキームを当てはめて考えてみると、後継者と目されている人が代表取締役社長に昇格してCOOとしての業務を遂行し、創業者であるジャニー喜多川社長とメリー喜多川副社長は、それぞれ代表取締役会長と代表取締役副会長等に昇格した上で、後継者の業務遂行を支援する形となります。仮にこのようなスキームを採用した場合、社長に昇格した後継者の発言力は、今までよりも高くなると予想されます。

仮に経営全般に関する業務執行権を移譲された後継者が、創業者を説得した上で、元女性マネジャーの復帰や、解散回避に関するSMAPメンバーを含む関係者全員のコンセンサスを得ることに成功した場合、どのような成果を得ることができるでしょうか?想定される成果の代表的なものは、以下の通りです。

1)今後もSMAP関連事業が生み出していた収益を失わずに済むため、SMAP解散による事業収益の悪化を防ぐことができる。

2)SMAPファンの支持離れを回避でき、併せて良好な企業イメージの復活も期待できる。

3)新人の発掘や育成等に関する投資環境が維持できるとともに、グローバル化やIT化などが進む業界の変化にも対応できる余地が生まれ、ジャニーズ事務所の中長期的な成長が期待できる。

4)SMAP 解散回避により、後継者は企業経営者として高い評価を得られる可能性が高くなる。また、創業者お二人の「SMAPを解散に追い込んだ張本人」的なイメージも払拭できる機会が生まれる。

仮にジャニーズ事務所の後継者がリーダーシップを発揮して、SMAP解散を阻止することに成功した場合、以上のような「大きな成果」を得られる可能性があります。但し、これを本当に実現できるかどうかは、ひとえにジャニーズ事務所後継者の熱意とリーダーシップにかかっていると言えるでしょう。よってジャニーズ事務所の後継者には、強いリーダーシップを発揮していただき、SMAP解散回避を実現することにより、上記のような「大きな成果」を上げていただきたいと思います。

【参考記事】
■SMAP問題を解決に導く「事業価値」という概念
http://takaokawasaki.blog.fc2.com/blog-entry-37.html
■「SMAP解散」を契機に考えたい、芸能界の近代化
http://takaokawasaki.blog.fc2.com/blog-entry-36.html
■「SMAP解散」で気になる、ジャニーズ事務所のマネジメント
http://sharescafe.net/49358085-20160822.html
■「営業部長 吉良奈津子」が軽視する、広告業界の職業倫理
http://sharescafe.net/49220144-20160803.html
■企業風土改革に失敗した、三菱自動車の末路
http://sharescafe.net/48502678-20160502.html

株式会社デュアルイノベーション 代表取締役
経営コンサルタント 川崎隆夫 

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