第27弾写真

女性の社会進出の後押しとなるように配偶者控除の廃止と夫婦控除の創設が議論されてきましたが、急きょ先送りとなりました。そのような中、社会保険では、短時間労働者の一部について適用拡大政策が始まりました。平成28年10月からパートで働いている方も条件を満たせば社会保険に強制加入となります。共働き夫婦の場合や独身の場合では、いったい得なのか損なのかそれぞれについて試算してみました。

■パート勤務でも社会保険加入となる条件
政府広報オンラインや厚生労働省のホームページでも広報されていますが、条件は下記の通りです。
・所定労働時間が、週20時間以上
・月額賃金8.8万円以上
・勤務期間は1年以上の見込み
・学生でないこと
・従業員規模501人以上の企業に勤めていること
上記の条件のほか、細かな例外規定もありますので、ご不安な場合はお勤め先か年金事務所に確認が必要です。

■夫の給料400万円、妻パート給料103万円(社会保険非加入)の場合
夫の年間給料を400万円とし、そのうち配偶者手当を年間12万円として仮定してみました。夫は社会保険に加入し、妻は当然に被扶養者です。配偶者控除38万円ももちろん受けられます。この条件を元に夫の手取り額を計算すると約333万円となります。

妻はパート給料全額の103万円が手取りとなります。世帯の手取り額は約436万円です。

■夫の給料388万円、妻パート給料120万円(社会保険加入)の場合
夫の年間給料に含まれていた配偶者手当が社内規程に基づいてもらえなくなったと仮定し、年間給料を388万円と仮定します。夫の社会保険加入に変動はありませんが、妻は夫の会社の社会保険から外れました。所得控除は妻の所得が増えたことで、配偶者控除から配偶者特別控除に変わり、控除額は21万円となります。この条件を元に夫の手取り額を計算すると約324万円(-9万円)となります。

妻は103万円の壁を越え、給料は120万円となるように労働時間を増やして働くことにしました。新たに社会保険料を支払うこととなったため、手取り額は約102万円と、労働時間が増えたにもかかわらず扶養控除内で働いていた方が多かったという結果となりました。世帯の手取り額は、426万円(-9万円)です。

以上から、夫の扶養範囲内で働く妻が社会保険に加入すると世帯手取り額は減るということがわかりました。

第27弾図表


■独身でパート給料103万円の場合
独身の場合で、諸事情によりパートとして働き、年間のお給料が103万円の場合は、居住地の国民健康保険と国民年金に加入することとなりますので、手取り額は約70万円となります。夫のいる妻と同じ条件で働いても、手取り額が30万円以上少ないこととなります。優遇されていると言われている部分ですが、数字で見るとその差は明らかです。

■独身でパート給料120万円の場合
少し事情が変わり年間のお給料が120万円となったと仮定します。収入は単純に17万円増え、さらに、国民健康保険・国民年金から社会保険に切り替わったことで、保険料が半額に近い約14万7,000円となります。その結果、手取り額は102万円(+31万円)に増えました。

国民健康保険・国民年金の負担が重く、社会保険加入により保険料が会社との折半となった恩恵がとても大きいことが良く分かります。独身者の場合は、労働時間が増やせるのであれば社会保険加入は必須です。

■損得勘定のまとめ
今回始まった社会保険の適用拡大政策は、配偶者がいる場合といない場合とで損得勘定は180度異なります。夫がいる場合は、扶養控除内で抑えたほうが得ですし、独身の場合は、社会保険に加入したほうが圧倒的に得です。

夫の給与がもう少し多い場合、例えば500万円の場合(配偶者手当12万円のカット、妻の給料が120万円という前提条件は同じ)でも試算してみました。妻が扶養内で働いた場合の世帯手取り額約520万円に対して、妻の社会保険加入後の世帯手取り額は約506万円です。差額は約13万円になります。月々1万円強ですが、家族会議の結果夫の小遣いで調整しようとなった場合には厳しい金額ではないでしょうか。

■損得勘定のほか、社会保険加入のメリットと天秤にかけてみる必要もあり
今までは手取り額の面から損得勘定を見てきましたが、社会保険加入による将来のメリットというのも忘れてはならない部分です。

一番のメリットは、将来受け取れる年金が増えることです。自分で掛けた保険料と同額の保険料を会社も掛けますので、年金が増えることは疑いようのない事実です。しかも、年金は生涯にわたって受け取るため、長生きすればするほどそのメリットは大きくなります。

次に、けがや病気で仕事ができなくなった場合に、傷病手当金という一種の給与補てんが国から行われます。給料の3分の2程度ですが、受給期間は最大で1年6か月ですので、決してばかにできるものではありません。

ところで、今回の社会保険加入の適用拡大政策は、会社側にとってはコストの増大です。福利厚生が良くなったとポジティブに捉える経営者もいれば、なんとかして免れようとネガティブに捉える経営者もいます。対象となった企業の誠実さが問われています。

■冷静になって将来を話し合うキッカケかも
国が進める介護保険制度は、私たちには決して優しくない改定が予定されています。とりわけ、介護サービスを受けた時に利用者負担分を支払うのですが、その負担割合は1割から2割に、ゆくゆくは医療保険のように3割負担になるかもしれません。全員が高齢者となった時に介護保険を利用するわけではないですが、介護を受ける時に不労所得や財産がなければ年金収入に頼らざるを得ない状況となります。

現在の暮らしを支えるお給料と将来受け取る年金とを比較することはとても難しいですが、一度冷静になって家族の将来について社会保険という観点から考えてみる必要がありそうです。

【参考記事】
■子育て世代直撃! 配偶者控除廃止? 介護保険料徴収? (藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)
http://sharescafe.net/49467522-20160905.html
■配偶者控除の廃止について、税理士に聞いてみた。 シェアーズカフェ・オンライン編集部
http://sharescafe.net/38791870-20140513.html
■パートの社会保険、新しく発生した「106万円の壁」をめぐる3つの誤解(加藤梨里 ファイナンシャルプランナー)
http://sharescafe.net/49688346-20161003.html
■介護保険はやっぱり保険ではなくなった(藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)
http://sharescafe.net/48977075-20160701.html
■介護が必要になった!どうする?(藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)
http://sharescafe.net/49045000-20160709.html

藤尾智之 税理士・介護福祉経営士

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