レール

「レールに沿った人生はつまらない」と語り、夢を追い求める人がいます。一方で、「自分は人生のレールから外れてしまい、やり直しがきかない」と、悲観的に語る人もいます。

このように語る人たちの発言を聞いていると、大多数の人が「レールに沿った人生」を送っているような印象を持ってしまいますが、実際のところはどうなのでしょう?

■レールに沿った人生とは?
一口に「レールに沿った人生」といっても、いろいろな定義がありそうです。

医者の父親を持つ子供が、親の希望を汲んで医者になることを目指すように、親の職業を子供が継ぐことも、「レールに沿った人生」だと言えるでしょう。一方で、大学に進学し、正社員として企業に就職し、定年まで勤めるといった人生像を「レールに沿った人生」と考える人も多いかと思います。

本記事では、後者を「レールに沿った人生」と仮定して考えてみることにします。

■大卒・大学院卒から正社員になる人の割合は?
総務省統計局は15歳以上の人口における就業状況などを調査する「労働力調査」を実施しており、毎月、調査結果を公表しています。そこで「労働力調査」の2015年度の結果をもとに、大学、もしくは大学院を卒業し、正規職員・従業員として働いている人の割合がどれぐらいかを、みてみることにしましょう。

就業者人数        6,367万人
内 大卒・大学院卒人数 1,646万人(25.9%)
内 正規職員・従業員数 1,209万人(18.9%)
※役員は除く
※比率は、就業者数に対する比率

就業者人数全体に対して、大学、もしくは大学院を卒業して正規職員・従業員として働いている人は18.9%で、5人に一人程度ということになり、この結果だけをみるとかなり少ないようにみえます。しかし「労働力調査」は15歳以上を労働力とみなしているため、中学・高校を卒業した時点で就職した人や、一般的には定年となり正社員として働くことの少ない65歳以上で働いている人も就業者数に含まれています。

そこで年齢層別の調査結果をみてみることにします。

    (大卒・大学院卒のみ)
年齢層  正規職員・従業員  就業者   比率 
15-24     74万人    492万人  15.0%
25-34     358万人   1125万人  31.8%
35-44     339万人   1498万人  22.6%
45-54     273万人   1394万人  19.6%
55-64     149万人   1130万人  13.2%
65-       17万人    730万人  2.3%

年齢層のうち、15歳以上24歳以下と65歳以上の層を除外すると、もっとも比率が高い層は25歳以上34歳以下の層で31.8%です。全体と比較すると高い比率ではありますが、それでも3人に一人程度であり、大多数とはいえない比率でしょう。

また年齢層が上がるごとに、比率は下がる傾向にあり、55歳以上64歳以下の層になると、25歳以上34歳以下の層と比較して20%近くも減少します。

■男性と女性の違いはどの程度か?
年齢層が上がるごとに、比率が下がる原因としては、様々な理由が考えられますが、特に女性は結婚や出産により働き方が変わる可能性が高く、比率の減少に大きく影響を及ぼすと考えられます。そこで、男女別の年齢層別の調査結果もみてみましょう。

【男性】
    (大卒・大学院卒のみ)
年齢層  正規職員・従業員  就業者   比率 
15-24     37万人    249万人  14.9%
25-34     232万人   634万人  36.6%
35-44     270万人   858万人  31.5%
45-54     231万人   774万人  29.8%
55-64     128万人   657万人  19.5%
65-       13万人   441万人   2.9%

【女性】
    (大卒・大学院卒のみ)
年齢層  正規職員・従業員  就業者   比率 
15-24     37万人    243万人  15.2%
25-34     116万人   491万人  23.6%
35-44     69万人    640万人  10.8%
45-54     41万人    619万人   6.6%
55-64     20万人    473万人   4.2%
65-       3万人    288万人   1.0%

男性と女性を分けてみると、男性は年齢層の上昇に対して、減少幅が緩やかになったのに対し、女性は25歳以上34歳以下の層と35歳以上44歳以下の層で、12.8%と大幅に減少しています。年齢層から推測しても、結婚や出産などの理由が大きく影響していることは想像に難くありません。

また男性は55歳以上64歳以下の層では19.5%と、5人に一人程度は正規職員・従業員として働いていますが、女性は、わずか4.2%でしかありません。女性で、大学・大学院を卒業して定年近くまで正規職員・従業員として働くという「人生のレール」を歩める人は、かなり少数派といえるでしょう。

なお、労働力調査は継続して正規職員・従業員として働いているかどうかは調査していないため、継続して、正規職員・従業員として働いている人の比率はこの調査結果より、さらに少なくなるはずです。

■まとめ
このように調査結果をみていくと、大学に進学し、正社員として企業に就職し、定年を迎えるまで勤めるという「レールに沿った人生」を過ごせる人は、決して大多数ではないといって、差し支えないでしょう。

夢を追い求める人にとっては、「レールに沿った人生」は、つまらなく映るかもしれませんが、かといって「レールに沿った人生」ですら、誰もが送れるような人生ではないことも、留意しておいた方がよさそうです。

《参考記事》
■承認欲求が満たされない社会が原因?なぜ「一流」が書籍や記事で使われるのか?(村山聡 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49594313-20160920.html
■働き方は「人並みで十分」と考える新入社員に教えたい人並みの給与額(村山聡 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49126099-20160720.html
■テキストマイニングでわかる!経営理念、企業理念には何が書かれているのか?(村山聡 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/48670625-20160523.html
■新入社員のうちに覚えておきたい!仮説思考の重要性と重病性(村山聡 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/44386900-20150421.html
■あなたの会社にもいるかもしれない?ビジネスメソッドマニアに気をつけろ!(村山聡 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/40838018-20140914.html

村山聡 中小企業診断士

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