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先日、私立大学がもっとも取り組んでいる施策が「就職支援」が第1位となった、という記事を目にした。

■就職支援は学生募集の有力なツール

日本私立学校振興・共済事業団私学振興事業本部は、2015(平成27)年度「私立大学・短期大学教育の現状」を公表。私立大学が行っている取組みのうち、もっとも多かったのは「就職支援」で89.0%。卒業後の進路や心身のサポートまで、私立大学が学生を細かくケアしているようすがわかった
リセマム「私大がもっとも取り組んでいること、1位は就職支援」2016/10/21

大学全入時代を迎え、各大学はあの手この手で学生集めに奔走しているが、その有力なツールとして「就職支援」が活用されていると言える。

■キャリアコンサルタントとは何者なのか
さて、上記の「就職支援」の主体は各大学のキャリアセンター(就職部等、大学によって呼称は異なる)である。そして、キャリアセンターで個別の相談を行っているのが、キャリアコンサルタント(キャリアカウンセラー等とも呼ばれるが、本稿では国家資格名称であるキャリアコンサルタントで統一する)である。

「キャリアコンサルタント」という言葉は、どこかで聞いたことがあるかもしれないが、その実際について熟知している人は少ないだろう。「就職をあっせんしてくれる人かしら?」くらいの認識かもしれない。

厚生労働省の定義によれば、「 「キャリアコンサルティング」とは、労働者の職業の選択、職業生活設計又は職業能力の開発及び向上に関する相談に応じ、助言及び指導を行うこと」を指し、「キャリアコンサルティングを行う専門家をキャリアコンサルタント」としている(厚生労働省HP「キャリアコンサルティング」2016/10/27確認)。

上記をわかりやすく言えば、単に就職や転職のあっせんではなく、ある人が(職業)人生を豊かに生き抜くために、相談や助言を行い支援していく専門家がキャリアコンサルタント、となるだろう。思いのほか壮大な使命を持った資格だなあ、と思われたのではないだろうか。

なお、後述するが、本稿で紹介するキャリアコンサルタントは資格名称であり職名ではないことにご留意いただきたい。

■キャリアコンサルタントの求人は?
平成28年4月より、キャリアコンサルタントが国家資格化された、というニュースが報じられた。それまでは、民間資格として「標準レベルキャリアコンサルタント」及び国家検定としての「キャリアコンサルティング技能士」が存在した(後者は現在も国家資格と併存している)。

元々は長引く景気の悪化を受け、厚生労働省が決定した「キャリア・コンサルタント5万人計画」を受け、民間資格としての「キャリア・コンサルタント」資格認定が開始されたことによるものであった。平成28年3月末日現在で、45,785人のキャリアコンサルタントが存在する(キャリアコンサルティング協議会「標準レベルキャリア・コンサルタント等 有資格者数」)。

しかしながら、相当数のキャリアコンサルタントが確保される一方で、彼らの受け皿、すなわち就職先が不足している、という実態がある。踏み込んでいえば、「安定した」就職先の不足、ということだ。例えば、冒頭の記事のように大学におけるキャリアコンサルタントの求人を見てみても、そのほとんどが有期雇用又は嘱託等の非正規雇用である。

別記事「ハローワークでサービス残業が起きた理由」でも紹介したが、多くのキャリアコンサルタントが勤務するハローワーク相談員もほとんどが非常勤だ。

非常勤相談員の待遇は、インターネットの求人サイトで複数検索してみたところ、月収で15万~25万円ほどであり、ボーナスは無しのため、年収で180~300万円程度となる(勿論、勤務条件には程度の差があろう)。ちなみに、人事院勧告の資料によれば、正規の国家公務員における35歳係長で、モデル年収が460万円弱であり、専門職であるにもかかわらず、キャリアコンサルタントの年収が極めて低額に設定されている。

■キャリアコンサルタント資格取得は「魔法の杖」ではない
そもそも、キャリアコンサルタントの資格は、キャリアコンサルタント的な仕事をしている人が先にいて、後付けにその技能等を認定する、というものであった。そのため、国家資格化された後も「業務独占」資格位置づけにはなっていない。

分かりやすく言えば、医師や看護師等は、それらの資格を保有していなければ医療行為や看護に従事できない。業務につくためには資格がマストである「業務独占」資格ということだ。

一方キャリアコンサルタントは、相談の腕が良ければ資格の有無は問わない。腕さえ良ければ、あなたも今日から「エクゼグティブ・キャリア・コンシュルジュ」等と名乗って業務を開始することは可能だ(ただし、「名称独占」資格のため、「キャリアコンサルタント」と紛らわしい資格名称を名乗ってはいけない)。

資格認定前から、キャリアコンサルタント業務を行う実務家がいたため、既得権は侵せないのだ。もちろん、資格の有無に限らず、すばらしいキャリアコンサルタントは大勢おり、今さら資格を取得しない人も多い。転職支援会社の求人を見ても、キャリアコンサルタントの資格は必ずしも求められていないようだ。まだまだ「資格より腕」の世界なのである。

キャリアコンサルタント養成講座を主催する団体の多くは、資格取得が就・転職や独立開業につながる、と謳っている。もちろんそれが過大広告である、というつもりまではないのだが、上述の現状により、例えば新卒者や再就職を希望する人が資格を取得し、即就職や開業につながるかというと、極めて難しいですよ、と言わざるを得ない。

医師が医師免許取得後、インターンや病院勤務を経てようやく独立開業に至るように、資格取得と同時に実務経験や研さんを積む、というプロセスは、当然必須なのである。いまや弁護士ですら資格取得だけでは飯を食うのに困るという。資格取得は魔法の杖ではないのだ。

■キャリアコンサルタントの地位向上を図るのは自身の言動である
問題は「安定した就職先の不足」という問題に改めて立ち帰る。「現職を定年後、第2の職場として若者にキャリアを語りたい」シニアであるとか、「配偶者に十分な収入があり、やりがい重視で手軽に働きたい」人の場合は現状でも良いかもしれないが、「自身や家族の生活を守りながら専門職として働きたい」というキャリアを志向するならば、キャリアコンサルタント資格の取得により誰もが無条件でそのような未来を描けるか、といえば、腕が伴わなければかなり厳しいですよ、ということになるだろう。

キャリアコンサルタントが自らのキャリアを描けない、という笑えない現状は、受け皿もつくらずキャリアコンサルタントを量産し続けた政策に端を発した問題だ。少なくとも、キャリアコンサルタント資格取得によって一番利益を得たのは、ほかならぬキャリアコンサルタント養成団体であろう。

そしてこの現状は、博士号取得者、すなわちオーバードクターの雇用不安の問題にも類するものだ。国策として量産された博士たちの多くが非常勤としての身分しか得られず、将来に不安を抱えながら生活している現状は、キャリアコンサルタントの多くがおかれている現状と重なるものがある、と筆者には思えてならない。

フリーターやニートなど雇用不安を抱える若者を支援する、というのもキャリアコンサルタントに期待される使命である。しかしながら、当該キャリアコンサルタントの多くが非正規雇用であるとはなんとも笑えない現状だ。

勿論、「政策が悪かった」「我々を好待遇で雇用せよ」と言ったところで、それは建設的な議論とは言えないだろう。やや理想論であるが、キャリアコンサルタントの社会的な価値や地位を高めるのは、他ならぬキャリアコンサルタント自身の日々の活動そのものなのではないか。

自身がそれぞれのフィールドで、他人には代替不可能な価値ある仕事を成したとすれば、それはその人自身、ひいてはキャリアコンサルタントのキャリア向上につながるはずだ。現状を変えるのは、他ならぬ自分自身の言動なのだ、という気概を持って、筆者も恥をかきながらキャリアコンサルタントとして雑文を発信するのである。

【参考記事】
■電通新入社員自殺、「死ぬくらいなら辞めればよかった」が絶対に誤りである理由。 (後藤和也 産業カウンセラー/ キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/49739049-20161010.html
■公務員の給与引き上げは正しい。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/49293753-20160812.html
■男性の育休取得率、過去最高なのにたったの2.65%なのは何故? (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/49241912-20160805.html
■サザエさんの視聴率が急降下した本当の理由とは。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/49055679-20160711.html
■「圧迫面接」は御社の経営を「圧迫」します!(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/48964354-20160629.html

後藤和也 産業カウンセラー キャリアコンサルタント

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