ファミリーレストラン大手のロイヤルホスト(運営会社はロイヤルホールディングス株式会社)が、24時間営業を完全にやめると伝えられています。 ファミリーレストラン「ロイヤルホスト」を運営するロイヤルホールディングス(HD、福岡市)は、来年1月までに24時間営業をやめることを決めた。早朝や深夜の営業短縮も進めており、定休日も「考えるべき時代が来ている」(黒須康宏社長)として導入を検討していく方針。(『ロイヤルホスト、24時間営業廃止へ 定休日も導入検討』朝日新聞デジタル 2016/11/17付) ネットのコメント欄を見ていると、このニュースに対する反応は、「長時間労働を改善する良い取り組みだ」という積極的な評価と、「単に深夜帯の採算が合わなくなっただけでしょ」という冷めた意見に大別されます。私の感覚だと、前者が7割、後者が3割、といったところでしょうか。 私は、このニュースはもう少し深堀りできる話だと感じています。今回はこのことについて書いていきます。 ■ファミレス大手の中では低いロイホの利益率。 まず、数字から現状をしっかり把握しておきましょう。ロイヤルホストの直近の業績である今年度第3四半期の決算によると、売上高は968億円、営業利益率は3.9%となっています。 売上高の数字は、競合のサイゼリア(1,077億円)と拮抗していますが、サイゼリアの営業利益率は5.5%ですから、ロイヤルホストの数字はやや見劣りします。また、ファミレス業界最大手のすかいらーくの営業利益率は9.0%で、ロイヤルホストの倍以上の収益性を誇ります。 ロイヤルホストの利益率が低くなっているのは、人件費などの販管費率が高いからです。販管費率はサイゼリアが57.2%、すかいらーくが60.7%なのに対し、ロイヤルホストは66.7%。客単価が比較的高く、粗利率は競合2社と遜色ないのに、この経費率の高さが収益性の足かせになっています。 ■営業時間短縮による採算性の変化を試算してみる。 今回のロイヤルホストの動きが、この経費率の高さを改善するためのものであることは間違いないでしょう。しかし、営業時間短縮という施策は、人件費などの店舗経費が節約できる反面、他の条件が変わらなければ間違いなく売上減につながります。 ロイヤルホストのケースで試算してみましょう。グループ全店の平均営業時間を1日14時間として、それを1時間、約7%短縮したとし、それに伴い他の経費も見直して販管費全体も7%削減できたと仮定します。この条件で、現状と同じ営業利益を維持できる売上高低下率のリミットは3%です。 ロイヤルホストの経営陣に、「既存店の営業時間を短縮しても、売上の減少率は3%以内に収まる」という判断があったことは確かだと思います。 ■利益率改善が急務な事情。 ここまでなら、「なんだ、ただの採算の話じゃないか」ということになります。しかし、ここにロイヤルホストの経営戦略の視点を入れると、ちょっと違った見方ができます。 今年6月の話になりますが、ロイヤルホールディングスが、傘下の天丼チェーン「てんや」の店舗数を大幅に増やすと報じられました。 外食大手のロイヤルホールディングス(HD)が、国内消費の低迷を受け、低価格路線を強化する。グループでは客単価が安い天丼チェーン「てんや」の国内店舗数を、2020年末までに現在の1.7倍、300店に増やす方針だ。(『「てんや」店舗数、20年までに1.7倍 消費低迷受け』朝日新聞デジタル 2016/06/04付) 記事によれば、「てんや」の店舗数を増やす一方、ファミリーレストランの店舗数は現状を維持するとのことです。その結果、近い将来、グループ内の店舗数で「てんや」が「ロイヤルホスト」を抜き最も多くなることは確実です。もちろん、それに伴い売上シェアも上昇することが予想されます。 「てんや」の客単価は約620円で、ファミレスの半分程度と言われます。つまりそれだけ薄利多売のビジネスモデルで、構造的に近いのは牛丼チェーンでしょう。仮に吉野家の数字をベンチマークと考えるならば、同社の直近の営業利益率は1%ですから、ロイヤルホストが現在の収益構造を放置したまま「てんや」の店舗数を増やしてしまうと、ただでさえ低い利益率をさらに下押ししてしまう可能性があります。 そう考えると、今回のロイヤルホストの営業時間見直しの動きは、消費環境の再デフレ化を見越した経営陣が、低価格路線を進めるために取った総合的な施策の一部ではないか、というのが私の見立てです。 単に、深夜に客が来なくなった既存店舗の採算性の話にとどまらず、ましてや「従業員のことを思って長時間労働と決別した」というようなヒューマニズムにあふれた話でもないと考えます。 【参考記事】 ■富士フイルムの事業転換は、本当に"華麗な転身”なのか。 (多田稔 中小企業診断士) http://sharescafe.net/49986760-20161112.html ■伊藤忠商事が中国で病院経営に乗り出した理由。 (多田稔 中小企業診断士) http://sharescafe.net/49594165-20160920.html ■マイナス金利下でもローソンが銀行をやる理由。 (多田稔 中小企業診断士) http://sharescafe.net/49724245-20161008.html ■シン・ゴジラでビルを破壊された三菱地所のBCPを勝手に考える。 (多田稔 中小企業診断士) http://sharescafe.net/49222132-20160802.html ■『さんまのまんま』終了で考える、テレビ局の苦境と明石家さんまのこれから。 (多田稔 中小企業診断士) http://sharescafe.net/49277606-20160810.html 多田稔 中小企業診断士 多田稔中小企業診断士事務所代表 シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |