第31弾写真

介護保険の自己負担割合は長らく1割負担でした。しかし、平成27年8月から一定の基準を超える所得者は2割負担と変わりました。その2割負担もつかの間、ついに3割負担となる日がやってくるようです。

■長らく介護保険の個人負担額が1割だったわけ
家族の介護期間はどのくらい続くのでしょうか。数か月の場合や十年以上の場合もあります。内閣府が公表した平成28年版高齢社会白書に平均寿命と健康寿命の記載があります。平均寿命から健康寿命を差し引いた期間は、日常生活に制限のある期間です。今回、この期間を平均介護期間と仮定しました。

(男性)
平均寿命(80.21歳) - 健康寿命(71.19歳)= 平均介護期間(9.02年)
(女性)
平均寿命(86.61歳) - 健康寿命(74.21歳)= 平均介護期間(12.40年)
~出典:内閣府 「平成28年高齢社会白書」健康寿命と平均寿命の推移より~

上記の計算式から平均介護期間は10年前後だとわかりました。この期間中、介護保険を継続して利用する可能性があります。利用料総額はどれくらいになるでしょうか。例えば、要介護3の居宅サービスの利用限度額は約27万円(1ヶ月)です。限度額上限を利用した場合の1割相当額は27,000円です。1年間で324,000円(27,000円×12月)、10年間で324万円(324,000×10年)となります。もしも負担割合が1割ではなく、3割だったらその場合は1,000万円近くとなります。ぞっとする金額ではないでしょうか。

国は、介護保険利用が長期にわたることを想定し、その間の経済的負担を考慮して1割負担にしたと考えられます。しかし、利用者が想定以上に増えて財政が逼迫し、制度の維持が難しくなりました。結果として、国民の経済的負担よりも制度の持続性を高めることが必要となり2割、3割と負担割合が増えていくことになります。

■1割負担か? 2割負担か? 線引きとなる金額
2割負担となる方は、65歳以上の方で合計所得金額が160万円以上(年金収入でいうと280万円)の人です。ただし、年金収入とその他の合計所得金額の合計が280万円未満の場合は1割負担となります。その他、世帯に65歳以上の方が2人以上いる場合は、これら65歳以上の方の年金収入とその他の合計所得金額の合計が346万円未満の場合は1割負担のままとなります。

厚生労働省は、2割負担となる方は、65歳以上の上位20%に当たる層が該当する水準と発表しています。実際には、在宅サービスを受けている方の15%、施設サービスを受けている方の5%が影響を受けると推計されています。

なお、現在の介護保険制度は、利用者の負担割合が1割から2割となっても、単純に事業者からの請求金額が2倍になるわけではありません。介護事業者から請求される金額には、1割負担分の他に食費やホテルコスト、日常生活費などがあります。食費やホテルコスト、日常生活費などの金額は従来通りで変わりません。

また、高額介護サービス費制度という介護保険利用者の1か月の負担限度を決めた制度があります。市町村への事前申請が必要ですが、負担額がこの負担限度額を超えていたら超えた分が払い戻されます。市区町村民税が課税されている世帯の負担限度額は37,200円です。ただし、65歳以上の方で収入が383万円以上ある場合や、世帯に65歳以上の方が2人以上いる場合には、これら65歳以上の方の収入の合計額が520万円以上となると負担限度額は44,400円と上がります。

なかなかわかりにくい制度ですが、2割負担となったからといって単純に2倍にならないように制度設計されています。

■発表となった3割負担となる所得の線引き
介護保険の負担割合増の話は、いつかは来るとは思っていましたが、突如発表されました。
厚生労働省は、現役世代並みの所得がある高齢者が介護保険サービスを利用した場合、自己負担する割合を現行の2割から3割に引き上げる検討に入った。膨らみ続ける介護費を抑制する狙い。3年に1度の介護保険制度の見直しにあわせた制度変更で、来年の通常国会で法改正をめざす。<ヤフー>介護保険3割負担、厚労省検討 現役並み所得高齢者対象 朝日新聞デジタル 2016/11/17

報道によると3割負担となる方は、年金収入だけで383万円以上ある方のようです。世帯に65歳以上の方が2人以上いる場合については、2割負担導入時のように別途基準が設けられる可能性があります。一方で高額介護サービス費については、平成27年8月に変わったばかりであり、医療保険とのバランスがあるのでしばらくは現状維持を期待したいです。ただし、負担割合が上がっても負担限度額が据え置きであれば、3割負担の目的が達成されないので、高額介護サービス費制度の行方も気になります。

■市区町村税が課税されている世帯の場合、食費やホテルコストが高いかもしれない
食費やホテルコストなど利用料とは別にかかる費用があります。利用日数に応じて負担額は増加していきます。食費は実費負担の感覚があるのでわかりやすいですが、ホテルコストは介護保険改正に伴って誕生した新たな負担であるため、わかりにくい追加負担です。そのホテルコストは、一般的に特別養護老人ホームの多床室で1か月あたり25,200円、ユニット型個室で60,000円です。なお、低所得の方については、軽減措置が用意されています。

施設側は、市区町村税が課税されている世帯については、国の基準額に基づく食費やホテルコストではなく、施設側の積算根拠に基づく負担額を請求できます。つまり、収入が多い方は、さらに多くの負担を求められることになります。応能負担ができる方には、それなりの負担をしてもらうという流れは徐々に始まっています。

■さらに利用料が増加するかもしれないケアプラン作成料
ケアプランを作成するのはケアマネジャーです。現在の介護保険制度では、ケアマネジャーを利用してもその費用は全額介護保険から支出されるため、ご利用者の負担はありません。利用しても負担がないということであれば、当然にケアマネジャーを利用することになります。

ところが、このケアプラン作成についても利用者負担を求めてはどうかという議論があります。ケアマネジャーのケアプラン作成料は1月当たり1万円から1万3万円程度です。仮に1割負担となった場合には1,000~1,300円程度の追加負担となります。

じわりじわりとですが、着実にご利用者の負担額は増加しています。一般的に負担額が増えれば、サービスは充実するものです。しかし、介護保険の場合は財政が逼迫しているため、サービスの充実どころがサービスの縮小が待ち構えています。

■私たちはこれからどうすれば良いのか
近年行われている介護保険の改正内容は、介護保険制度の維持存続のために行われているとしか理解できない状況です。介護保険からの支出を減らすために、介護保険を利用できる人の範囲が狭められています。要支援や要介護度が低いうちは自分でなんとかする時代がすぐそこまで来ています。

冒頭にも書きましたが、平均寿命と健康寿命との差が縮まれば介護保険にお世話になる期間は短くなります。健康寿命をいかに伸ばすかが私たちができる最大の予防策です。先日76歳の男性の方にお会いしました。その男性は、今でも冬になるとスキーをされているそうです。しかも今年は検定試験に挑戦するとお聞きしてびっくりしました。

男性のお話を聞いて、わたしたちの日常生活は目的を持つことで変えられるのではないかと思いました。この男性の場合は、スキーのために、日常的によく歩いたり、階段をのぼったりと体を動かすように心がけていました。この日常的に繰り返す小さな運動が、いつまでも体を元気に保つ秘訣ではないでしょうか。お金を貯めることや民間の保険に加入して支出に備えることも大切ですが、もっと前からお金を掛けずに行えること、規則正しい生活、適切な食生活、そして運動こそが簡単にできる身近な介護予防です。

攻撃は最大の防御という言葉がありますが、まさしく一連の日常生活行為が介護という危機から私たちを守ってくれるかもしれません。

【参考記事】
■昨年度をすでに上回る倒産件数!淘汰が始まった介護業界(藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)
http://sharescafe.net/49892618-20161030.html
■元特養事務長が教えるより良い介護施設の見極め方(藤尾智之 税理士)
http://sharescafe.net/47893238-20160223.html
■介護保険は保険ではない ケアマネジャーと上手に付き合う方法 藤尾智之 税理士
http://sharescafe.net/35169456-20131126.html
■介護が必要になった!どうする?(藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)
http://sharescafe.net/49045000-20160709.html
■介護保険は保険でなはい 「親の介護は老人ホームにお願い」は甘い考え 介護保険を考える(1) (藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)
http://sharescafe.net/35018841-20131120.html

藤尾智之 税理士 介護福祉経営士

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