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今回は本気か!? と話題になった配偶者控除の廃止論。しかし廃止は見送られ、代わりに配偶者控除と配偶者特別控除が合体した新たな配偶者控除の導入が濃厚となりました。改正される配偶者控除の中身と目安となる年収について見ていきましょう。

■配偶者控除対象となる年収上限は150万円に
現行の配偶者控除は、夫婦のどちらかの年収が103万円以下の場合、もう片方の所得から38万円を引いて所得税を下げる仕組みです。夫の所得税率が10%であった場合、夫の所得税は38,000円減額されます。

今回の改正が報道通りとなれば、妻の年収が103万円を超えても150万円以内であれば、夫は従来通り38万円の配偶者控除を受けることができます。ただし、夫の年収に制限が加わる予定です。残念ですが夫の年収が1,220万円を超えると配偶者控除の適用はなくなります。また、夫の年収が1,120万円を超え1,220万円以下だと、配偶者控除額はカットされます。

平成28年12月6日にヤフーニュースに配信された読売新聞の報道によると夫の年収が1,120万円を超え1,170万円以下の場合、配偶者控除額は最大26万円へ、また、1,170万円を超えて1,220万円以下の場合、配偶者控除額は最大13万円となるようです。その他、妻の年収が150万円を超えた場合でも201万円以下であれば、従来の配偶者特別控除のように配偶者控除額を逓減させながら控除を受けられる仕組みとなっています。

今回の改正では、配偶者控除額の年収上限が150万円となったことにより恩恵を受けられる世帯と夫の年収により配偶者控除が受けられずに増税となる世帯とにくっきり分かれます。

■年収が103万円を超えるともれなく所得税納付
配偶者控除の年収上限が150万円になるとの報道から、150万円まで収入が増えても所得税がかからないような錯覚に陥っていませんか?そもそも103万円というのは、給与所得控除額65万円と基礎控除額38万円との合計額です。給与所得控除額の最低控除額や基礎控除額が見直される様子はありません。そうなると、従来通りに収入が103万円を超えた時点から所得税がかかる可能性が出てきます。

年収130万円で社会保険非加入とした時の所得税は次の通りです。
(1,300,000円-650,000円-380,000円)×5%+復興所得税2.1%=13,700円

パート年収が103万円を超えるような働き方に変わった場合は、夫が引き続き配偶者控除を受けても、妻自身が所得税を納付することになりますので、世帯単位で考えれば増税です。

■お得となる年収はいくら?
社会保険加入の目安としてよく挙げられる106万円や130万円の壁は依然として存在します。これらの壁はそのままにして今回新たに150万円の壁ができてしまうと、いったいいくらを目安として働けば良いのでしょうか。

いくつか年収例を挙げて手取り金額を試算してみましょう。社会保険料は、協会けんぽ(東京都・介護保険第2号該当)をモデルとして使用します。

【ケース1】
パート年収 1,500,000円・・・①
社会保険料 224,688円(18,724円×12か月)・・・②
所得税   12,500円・・・③
手取り   ①-②-③=1,262,812円

【ケース2】
パート年収 1,400,000円・・・①
社会保険料 210,420円(17,535円×12か月)・・・②
所得税   8,100円・・・③
手取り   ①-②-③=1,181,480円

【ケース3】
パート年収 1,300,000円・・・①
社会保険料 0円・・・②
所得税   13,700円・・・③
手取り   ①-②-③=1,286,300円

【ケース4】
パート年収 1,200,000円・・・①
社会保険料 0円・・・②
所得税   8,600円・・・③
手取り   ①-②-③=1,191,400円

【ケース5】
パート年収 1,060,000円・・・①
社会保険料 0円・・・②
所得税   1,500円・・・③
手取り   ①-②-③=1,058,500円

年収ごとに手取り金額を試算してみましたがいかがでしょうか。【ケース3】の年収130万円で社会保険非加入の場合の手取りが一番多くなりました。よかれと思って多くの時間働いても手取りが少なくなってしまっては元も子もないので、年収コントロールはこれからもつきものです。

■今回の配偶者控除の見直しで103万円を超えて働くパート従業員は増えるのか?
年収シミュレーションの結果からもわかるように、社会保険の加入が義務付けられる130万円が本格的な壁になりそうです。夫がもらう家族手当の有無でも変わってきますが、130万円までは所得税の納付があるものの、社会保険料がないので順調に手取りが増えていきます。

そのため、目安として130万円を選択される方が増えそうです。知り合いの飲食店に、年収が103万円以内となるように労働調整しているパート従業員がいらっしゃいます。どうやらこの方は、今回の改正を受けて来年はもっと働こうと考えているようです。確かに103万円の壁は崩壊したと言っても良さそうです。

毎月収入をコントロールしていなければ、労働調整は年の瀬の12月に行われることが一般的です。12月はとにもかくにも人手が欲しい時期です。12月になるとシーズンオフになるパート従業員に来年からは通常通り働いてもらえるのであれば、雇用側にとっては人手不足解消となります。配偶者控除の見直しによって雇用側にも思わぬ恩恵がありそうです。

今回の配偶者控除の見直しは、そもそも女性の社会進出促進のためでした。12月の労働時間が増えることや年収103万円を超えて働く女性が増えることをもって女性の社会進出が促進されたとは言えません。今回の税制の見直しは政策実現のためという大義名分があったので、先送りされたのが本当に残念です。

2017年の税制改正大綱がいよいよ発表されます。いったいどんな内容となっているのか楽しみですが、将来に希望が持てる内容が含まれることを願っています。

【参考記事】
■昨年度をすでに上回る倒産件数!淘汰が始まった介護業界(藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)
http://sharescafe.net/49892618-20161030.html
■元特養事務長が教えるより良い介護施設の見極め方(藤尾智之 税理士)
http://sharescafe.net/47893238-20160223.html
■介護保険は保険ではない ケアマネジャーと上手に付き合う方法 藤尾智之 税理士
http://sharescafe.net/35169456-20131126.html
■介護が必要になった!どうする?(藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)
http://sharescafe.net/49045000-20160709.html
■介護保険は保険でなはい 「親の介護は老人ホームにお願い」は甘い考え 介護保険を考える(1) (藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)
http://sharescafe.net/35018841-20131120.html

藤尾智之 税理士 介護福祉経営士

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