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12月に入って自動車の燃費の表示方法を見直すというニュースがあった。

車の燃費表示、実態に近く 新国際基準を18年度導入
国土交通省は自動車の燃費表示について2018年度に新しい国際基準を導入する。現在の基準では実燃費とメーカーの「カタログ数値」に差があるとの指摘が多い。新基準では市街地や高速道路など燃費を測定する走行条件を細かくするため、数値は実態に近いものになるという。同省などは表示方法を議論する審議会を開き、来夏までに最終案を示す方針。2016/12/6 日経新聞


今年、自動車業界で衝撃的ともいえるニュースであったのが三菱自動車の燃費偽装問題だった。三菱自動車はカタログ値から15パーセント以上燃費を水増ししていることが明らかとなり、厳しい批判を受けた。

この自動車のカタログなどに表記されている燃費の表示。

三菱自動車を擁護するわけでは決してないが、もともとカタログ値はあまり当てにあらないというのは、自動車を運転している者にとってはもはや常識ともいえる。

私もプライベートはもちろん仕事においても車を使って移動することが多いが、実燃費はカタログ値のせいぜい7割程度といったところだ。これは統計があるわけではないのではっきりとは言えないが、だいたい感覚としてその程度という人は多いと思う。

改正される燃費表示では、以上の引用のとおり、「市街地や高速道路など燃費を測定する走行条件を細かくする」とされている。これは実際の走行時の燃費の数値に近いとされているアメリカに燃費表示基準に近いものをイメージしていると思われ、仮に改正がなされれば日本における燃費表示のあり方は大きく変わるだろう。

■ただし、表示の方法を変えただけでは解決しない問題がある
ただし、基準はどこまでいっても基準に過ぎない。基準をどのように利用するかは、あくまで人が行うことである。

日産自動車がマイナーチェンジをして今年の11月に発売を開始した車種「ノート」。

この「ノート」は絶好調で、日産自動車がこの「ノート」で月間の新車販売台数で30年ぶりに首位となったと報じられた。

サニー以来30年ぶりに日産車が首位 11月に新型「ノート」が発売11年目で
11月に改良してノート初のハイブリッド車(HV)を追加した効果で、2005年の発売以来、初めてトップに立った。日産車が月間新車販売台数で首位になるのは、1986年9月の「サニー」以来、30年ぶり。産経ニュース2016/12/6


これは、いわゆるシリーズ式ハイブリットといわれるもので、エンジンはあくまで発電に専念し、電気によって得られた力でモーターを駆動して走行するものだ。

これまでのトヨタなどのハイブリットカーとは異なるハイブリットシステムを採用し、リッターあたり37.2キロという、トヨタ・アクアの燃費を上回る燃費を実現したと大々的に宣伝し、爆発的な人気を得ている。

トヨタ・アクアの燃費を超えた…というとてもインパクトのあるうたい文句ではあるが、よくよく注意をしてみると、燃費の表示方法の裏を突くものである。

■リッター37.2キロはうそじゃないが…
このリッター37.2キロについては、実はカラクリがあって、燃費を稼ぐためにクーラーもない(ヒーターのみ)という設定となっているのだ。なお、クーラー付エアコンありの設定グレードを選択すると、燃費はリッターあたり34キロほどに落ちる。

今から新車を買おうとして、クーラーがない車を積極的に選ぶ人が多数を占めるわけがない。多くの人がクーラーありの設定を選ぶはずだし、そうすると実際に広告宣伝に用いるノートの燃費はリッター34キロと表示するべきものだといえる。

そこは「実際に販売しているモデルがあるのだから、何が問題でも?」ということなのだろう。

■自動車の燃費表示は誰のためにあるのか
今回取り上げたような表示のあり方は、燃費の表示方法の基準が変更されたとしても、残りうる問題だ。実際に販売をしてカタログに載っていれば、それが主要グレードでなくても許されるというなれば、燃費表示用のグレードが設定されるようになってしまう。

燃費の表示は間違いなく利用者のためにあるものでなければならないはずだ。

三菱自動車の一件では、消費者庁が景品表示法に違反する疑いがあるとして調査をしているという報道がなされたことがあったが、その後、消費者庁から何らかの発表はなされていない。

景品表示法では、商品が事実に反して他の事業者のものより著しく優良であるかのような広告を禁じている。それは、情報の受け手が正しい情報をもとに判断をすることができるようにするためだ。

三菱自動車の件や日産のノートの件がこの景品表示法に違反しているかどうかはとても難しい問題だ。特に日産のノートについては、主な購入層ではないだろうが実際に販売されている車の燃費を用いているのだから、景品表示法の規定に明確に違反しているということにはならないのかもしれない。

しかし、利用者に正しい情報の提供ができているとは思わない。

冒頭でも述べたとおり、三菱自動車は15パーセントの燃費を水増していて問題となったが、日産のノートだって大々的に宣伝している燃費性能は主な購入層が狙うグレードからすれば10パーセント程度は悪化するわけだから。

燃費の表示は、利用者が自動車を選ぶ目安として利用するもので、販売合戦の道具となるためではない。

利用者としては、燃費の表示についてこのような現状にあることを十分に理解し、燃費の数値に一喜一憂するのではなく、自分のライフスタイルからどのような場面で車を利用するか(長距離移動が多いのか、近距離での買い物がメインなのか)をよく考え、実用燃費はどうなるかということをしっかりと把握する姿勢が求められる。

メーカーの出す数値については、利用者にとってわかりやすいものにしてもらいたいと願っている。

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及川修平 司法書士

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