アパートを建てたりタワーマンションを購入したりして税金対策をする相続税ですが、実際のところ、現在100人中どのくらいの人が納税をしているのかご存知でしょうか? 正解は8人。意外と少ないと感じたのかもしれません。 ■税収が3割増え、納税者が3割増えた相続税 相続税は平成27年の1月1日から法律が変わり、実質的に対象となる納税者がグンと増えました。それは税金のかからない「基礎控除部分」が大幅に減ったことが原因です。国税庁が今月公表した「平成27年分の相続税の申告状況について」によると、一人当たりの納税額は1,758万円と法律改正前の年の2,473万円と比べて71.1%と3割ほど減少しましたが、多くの人が税金を払うことになったため、税収としては、前年比3割増の1兆8,116億円となりました。 相続税の税収としては政府の見込み通り、収入増となったわけですが、一人当たりの納税額が減ったということは、以前は払う必要がなかった人が税金を納める羽目になったということです。税制改正当初は100人中6人くらいになるだろうとの予測でしたが、結果的には8人で、法律の改正前の4.4人の約2倍ということになりました。相続税も消費税と同じように多くの人に負担を求める税金になっているのではないでしょうか。 また、申告財産の内訳で目立つのは現金・預金や有価証券などの換金性の高いものが、時代とともに増加しています。平成18年度の申告では財産の中の20.6%でしたが、平成27年度分では30.7%と10ポイント以上上昇しています。高齢者はお金をたくさん持っているという証拠はここにも表れています。 ■高齢者は預金を持っているのだけれど・・ しかし、高齢者はお金を使おうとしません。 なぜなら老いて亡くなるまでの先行きが不安だからです。 高齢者は若い世代のように働いてたくさんお金を稼ぐことはできません。何よりも問題なのは自分自身の老いゆく人生であり、いつまで健康でいられるかわからない不安があります。実際のところ、毎年目減りする年金支給の不安をあおられながら預金を補助的に切り崩し、生活に充てています。いざ体が弱くなった時には、施設に入らなければならないと考える人も少なからずいます。施設入所はお金がたくさんかかるため、子供にできる限り負担を求めないためにもその時の「まさかのため」にとっておくのでしょう。 内閣府の平成27年度版高齢社会白書によると、貯蓄の目的は大半が「病気・介護」の備え62.3%であって、「子供に遺す」2.7%を大きく引き離しています。お金は高齢者にとって不安を安心に変えることのできる生活防衛手段の一つなのです。 ■お金を使ってほしいとする政府の目論見 政府は「この動かない資産」を高齢者に何とか使ってもらおうといろいろな税制を考えてきました。例えば、子供の結婚資金や孫の教育資金などに税金のかからないような枠を設けたり、住宅資金の贈与の制度を作ったりすることです。これは、単純に高齢者はお金を使わないけれど、若者はお金を使うからという「お金」だけの価値観で政策を作っているのではないでしょうか?先行きが不安な人に、お金はお墓まで持っていけないから、「お金を使え!」といって使うのでしょうか? そして最後に、将来の不安のためにとっておいた預金も幸いなことに介護の世話にあまりならずに亡くなった結果、預金がたくさん残ってしまう、その結果、相続税がかかる、といった人がお金を消費できずに相続税を納めることになるのです。 もちろん結果論からしてお金はある人から取ればいいという考えのもとからすれば、確かにそうですが、これでは経済を回す云々の問題以前になってしまっています。 ■相続か贈与かそれとも単なる消費がよいのか 相続税は亡くなった人の財産の一部を社会に返還することで富の集中を抑えるという働きがあるといいます。また最近は、高齢者は社会全体で見守っていくものであって、介護なども家族だけが見るということが少なくなりました。そのような背景もあり、相続人だけが遺産を相続するのではなく社会全体に還元する、還元してもよいのではないかとの考えから相続税の徴収を強化するという方針があります。 では、社会への還元は社会への「経済を回す」といった生前の消費が良いのでしょうか、それとも亡くなってから「税」という形での貢献が良いのでしょうか。どちらにせよ「生きた」お金にするための政策が強く望まれるところです。 【参考文献】 ■マイナンバーは税金の無駄遣いの救世主になることができるか (浅野千晴 税理士) http://sharescafe.net/50115713-20161130.html ■あの有名企業も名指しで経産省から勧告、消費税の転嫁拒否という「パワハラ」。(浅野千晴 税理士) http://sharescafe.net/49892463-20161030.html ■配偶者控除見直し論議。そもそもパート労働者は労働を調整して節税しているのか。(浅野千晴 税理士) http://sharescafe.net/49590772-20160920.html ■消費税増税延期でもバラマキ?給付金もらえます。 (浅野千晴 税理士) http://sharescafe.net/48884963-20160619.html ■高齢者はお金持ち?詐欺集団だけでない、その資産に目をつけているのは、、(浅野千晴 税理士) http://sharescafe.net/43017490-20150122.html 浅野千晴 税理士 シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |