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先日、IR推進法が可決され、公布された。カジノ誕生でもっとも影響を受けるとされているのが、比較的その性質が似ている遊技機(パチンコ・パチスロ)業界である。ターゲットがそれぞれ異なるため、住み分けが実現し、影響は少ないとの見方もあるが、改めて両者を比較してみると、遊技機特有の様々な弱点が浮かび上がり、厳しい状況が避けられないことが伺える。

■遊技機業界の現状
一部ニュースでも取り上げられている通り、遊技機業界は非常に厳しい経営環境に置かれている。一昔前30兆円を誇ったその市場規模は、1990年代と比べ、現在10兆円近くも減少。駅前などで必ず目にする「ホール」もピーク時の約17,000店から約40%、6,000近い店舗が姿を消した。

原因としてよく挙げられるのが「スマホの登場」と「所得の減少」の2つである。しかし、ホールの減少傾向を見る限り、それは2000年頃から始まっており、スマホが登場する10年近くも前のことである。どうやら、スマホによっていわゆる「暇つぶし」の時間を奪われたことよりも、経済環境の悪化によって使えるお金が減った、将来に対する不安から貯蓄性向が高まったことのほうが影響は強いようだ。

現状は利用者側の事情に起因するものだけではない。遊技機は、その特異性から機械の実際の店舗設置にあたり、保安通信協会(通称:保通協)による検定試験、都道府県の各県警本部への申請と2段階の許可を必要とする。検定試験は、定められた出玉率以下に設定し、出玉試験をパスしなければならないが、2004年の遊技規則改訂、東京オリンピック開催決定などを背景に、射幸性(ギャンブル性)に対してより厳しい規制がかかり、新機種販売のハードルが上がっている実情もある。

遊技機業界は、親近感向上を狙った有名芸能人や有名キャラクターとタイアップや、利用障壁の引き下げを目指した4円パチンコや1円パチンコ、さらには体験版としての0円パチンコやスマホ用アプリの展開などの施策を打ち込んできたが、市場悪化に歯止めをかけるまでには至っていない。

カジノ登場は、こうした利用者側、規制面などの事情とは別に遊技機が持つ本質的な弱点を浮き彫りにさせ、状況打開に苦しむ遊技機業界にさらに追い打ちをかけることになりそうだ。

■遊技機ビジネスの弱点
カジノと比較したとき、遊技機には少なくとも3つの弱点が存在する。1)ゲームとしての多様性、2)選択の自由度、そして3)シンプルさ、である。

遊技機はパチンコ、パチスロともに各メーカーから様々な機種が出されているように見えるが、例えばパチンコの場合、入賞口に入れば当たり、という形式一本である。一昔前にあった一発台やスリーセブンなども基本、入賞口に入って当たるかどうかだけであり、ポーカー、ブラックジャック、バカラなど様々なゲームから構成されるカジノと比べると、ゲームとしての多様性では見劣りしてしまう。

2つめの選択の自由度とは、そのゲームに対して選択の余地が利用者側にどれだけあるか、である。例えば、競馬や競輪などいわゆる「投票券」型ギャンブルの場合、少なくとも1)どのレースにするか、2)どの馬(ボート、自転車など)にするか、3)どの形態で購入するか(連単など)といった選択肢がある。

遊技機において利用者が選べるのは、厳密には「台」だけである。無論、どう打つかによって、つまり利用者の“腕前”によって、左右される部分も残されているが、100%デジタル化されている現在、設定以上の結果を出すことはまずない。つまり、台を選んだ時点で勝ち負けがほぼ決まる仕組みになっており、台を選んだ以降の自由度は低い。

一方のカジノの場合、様々なゲームの中から「どのゲームを選ぶか」から始まり、競馬などと同様に、どこへどう賭けるかなど利用者側の判断を発揮させる余地が十分にある。選択の自由度は遊技機に比べて明らかに高い。

3つめはシンプルさである。遊技機は、射幸性への厳しい規制が進む中、より複雑化したプログラムを導入することによってその魅力を高め、特にヘビーユーザーの賛同を得ようと試みてきた。しかし、その狙いとは裏腹に、初心者には近寄りづらい存在になってしまう。そうしたイメージを払拭するべく、有名芸能人や有名キャラクターを起用する策によって挽回を図ったが、残念ながらその結果は先程述べた通りである。

カジノは、ルーレットやポーカーなどその多くは詳しいルールを知らずともそのやり方がおおよそイメージできるものが多く、利用そのものへの抵抗感は少ないだろう。メイン・ターゲットである訪日外国人のみならず、多くの日本人にとっても複雑化した遊技機と比べ、親しみやすいと考えて差し支えなく、この点でも遊技機にとって不利な状況にあることは否めない。

■装置産業ゆえの厳しさ
遊技機には自動販売機と同じ、装置産業という性質を持つ。自販機と同様に、中身の入れ替えや機種の変更によって、ビジネスの鮮度を保つというものである。実際、新しい遊技機は最大3週間以内に結果がでなければ、撤去され、別の機械に置き換えられる慣習があるほどだ。

しかし、さきほど述べた規制強化によって新機種発売のサイクルにヒビが入っている上、資金力の厳しい地方都市のホールでは、利用客の減少によって新機種の入れ替えが困難になり、さらに利用者の減少を招く負のスパイラルに陥っているケースもある。

売上悪化に際して、ハードウェア主体の装置産業は他業態に比べ、変換は容易ではない。自販機でイメージすればわかりやすいが、いよいよ売上が固定費を吸収できなくなった(損益分岐を割り込んだ)場合、選択肢は機械や設備を撤去し、土地や場所を別の用途に変更するほか残されていない。

遊技機は3つの弱点と、装置産業ゆえの厳しい側面を抱えながら、カジノ登場を待つことになるが、今以上の過酷な局面を迎えることは避けられそうにない。


【参考記事】
■ビジネスモデルとは何か。10分でわかるビジネスモデル入門 (酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト)
http://financial-note.com/about-business-model/
■駐車場で見つけた「エキナカ式」ビジネスモデル (酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト)
http://financial-note.com/ekinaka-style-model/
■【出版不況】書店業界を救う手立てはないのだろうか (酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト)
http://sharescafe.net/47952603-20160229.html
■【就活で銀行を選ぶな!】 銀行のビジネスモデルが終焉を迎える日 (酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト)
http://sharescafe.net/47617542-20160125.html
■ワタミが劇的な復活を遂げる可能性が低い理由 (酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト)
http://sharescafe.net/47314916-20151224.html

酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト フィナンシャル・ノート代表

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