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■給付型でも大学に行けない
文部科学省は、大学の給付型奨学金制度を正式に決めました。国公・私大別、自宅・下宿別で最高額は私立大学の下宿通学生に月額4万円の給付となります。

私立大学文系では入学金と年間授業料等を合わせると、初年度で軽く100万円を超えます。下宿通学では、このほかに生活費がかかります。貸与型、給付型にしても奨学金だけで足りる額ではありません。大学でかかる費用の何割かは親の援助、残りはアルバイトなどで補充することになります。

今の時点では、借りたりもらったりする奨学金は、まだまだ限界があります。それなら発想を変えて、稼いで奨学金を受けることを考えたらどうでしょう。現在、というか数十年前からその手段となっているのが新聞奨学金です。「なんだ、新聞配達か」と思うでしょうか。じつは、私は30年以上も前に4年間、この奨学金(日本経済新聞)を受けました。

■環境は良くなったが問題もある
30数年前の話が今さら通用するのかと思う人もいるでしょう。そこで当時と比べどれだけ変わったのか、各新聞奨学会をネットで調べてみました。あくまで募集内容を見た限りでは、生活・仕事環境が数段良くなっています。定期休日や有休制度の充実など、時間的制約からもだいぶ解放されているようです。それでも、本質はあまり変わっていません。

本当に大学に行きたくてもお金がない、どんな方法でもいいから大学に行きたいと切望している若者が、日本中にどれだけいるでしょうか。ちなみに新聞販売所で働く、学生と18歳未満の少年少女の合計は2015年で約6千人、10年前では約2万8千人です(日本新聞協会)。募集枠から洩れた応募数と新聞奨学金を対象外にしていた人の数を考えると、経済的理由で進学を諦める人は毎年何万人もいるでしょう。そういう若い人に1つの大きな選択肢となるよう、新聞社だけでなく他業界でも、稼ぐことで受けられる奨学金が広がればと思います。

しかし、そのためには解決すべき問題点があります。1つは返済のこと、もう1つは仕事についてです。これらの是正がなければ、他業界どころか新聞奨学金制度自体が衰退していくでしょう。

■全額一度に返せないと辞められない
問題点の1つ目は、途中退会時での全額一括返済の規定です。新聞奨学金は大学の場合、入学金と最高4年間分の授業料等をすべて(上限額あり)新聞奨学会が無利子貸与するものです。奨学生は新聞販売所で配達業務などを行うことで、その貸与額の返済が免除されます。しかし、学年途中で辞める場合は、年度初めに支給された額を退会時に全額一括返済することが条件となっています。これが奨学生にとっては、重い枷となってきたのです。

もともとお金がなくて奨学金を受けているのに、全額を一括返済しなければ辞められないのは違法ではないか、という声が当時からありました。これに縛られて奨学生は、つらくても辞めるに辞められず、「奴隷扱い」などと一部から漏れ聞こえてきたゆえんです。これでは、やり手のいない配達員の引留め策と勘繰られても仕方ないでしょう。

奨学金の額は在籍年数により異なります。日経新聞育英奨学会では現在、4年制コースで450万円、3年制で320万円、2年制で220万円、1年制で100万円を上限に貸与されます。各学年末まで販売所の従業員として在籍していれば、支給された額は返済不要となります。

途中退会では、各コースの在籍年数によって返済免除額があり、それを差し引いた奨学金の残額が全額一括返済となります。しかし、1年未満では免除額は0円です。したがって、入会して数ヵ月で辞める場合、私大文系学生は100万円超をその場で返さなければなりません。

■今の制度は違反ではないのか
辞めたくても、借金(奨学金)に縛られて仕事を辞められない。これは労働基準法(第17条)の「前借金契約」(前借金を労働賃金と相殺し返済させる契約)の禁止に違反するのではないかと国会で問題になったことがありました。しかし、貸付者(奨学金を貸す新聞奨学会)と使用者(給料を支払う新聞販売所)が異なること、奨学金に係る債権と賃金を相殺するものではないということで、違反はないとの政府答弁が出されました(1997年)。実態は、「新聞社」-「奨学会」-「販売所」が、一体の資本系列であるのは誰でもわかるはずです。

いくら法的には違法性はないといっても、限りなく「前借金契約」に近い。未返済の奨学金が残っているからといって、賃金と相殺するために働かせることはおかしいのです。答弁の「債権と賃金を相殺するものではない」こととも矛盾します。債権と賃金との間に相殺関係がないなら、奨学金の未返済分があろうが、販売所を辞めてから後で少しずつ返してもいいのです。

この問題が是正されることを前提に言えば、分割返済か一時返済猶予はだめなのか。1年未満で辞めても在籍期間に応じた免除額はないのか。合格して希望をもって入所してきた若者が、仕事の不向きや病気やケガなどで、1年もたずにやむなく辞めざるを得ない時の救済の道を残しておくのは当然ではないか。

■今もある? 過重・長時間労働
2つ目の新聞奨学金制度の問題点は、過重・長時間労働です。どの新聞ということでなく、販売所によっては、規則にない仕事の強要が当時も一部でありました。まれな例とはいえ、過労死事故などの訴訟や告発も起きています。これらは、今では新聞販売業界に限らず、全業界で労働者問題となっています。過重業務による労働者不足、過当な顧客獲得などで学生労働力が利用されやすいのは、どの業界も同じでしょう。

新聞業界は、進んで奨学生の就学、労働、生活を保護するよう規制し、改善すべきです。全額一括返済、規則外労働などがきちんと解決され、奨学金システムが確立することで、さらに他業界での奨学会が普及することが望まれます。それが業界によっては、やり手のいないアルバイトの確保にもつながるし、学生にとっても、自力で進学・卒業できる道がもっと開けるのではないか。

■「稼いで受ける」奨学金に目を向けよう
新聞販売所および新聞奨学生の数は毎年減少しています。宅配購読をしない人が増えているからです。厳しく、暗いイメージがあるのも影響しているでしょう。このまま新聞奨学金制度が衰退してしまうと、本当に経済的に困っている若者は大学への道が閉ざされてしまいます。無一文で大学に通える制度なんて、今の日本ではそうそう、ないはずです。「借りる・もらう」奨学金だけでは当てにできなくても、「稼いで受ける」奨学金に目を向けるなら、若者にとって大きく一歩前に出ることになるはずです。

最後に書き添えておきます。私の当時4年間の学生生活は、つらいこともありましたが、授業、交友・恋愛関係、文学活動などそれなりに楽しいものでした。毎日がきついかどうかは、目的を持っている者の意志次第ではないでしょうか。

【参考記事】
■夫婦控除は再浮上する 主婦の働き方はここからが本番だ (野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー)
https://www.tfics.jp/ブログ-new-street/
■「副業・兼業」は、解禁待たずに今から始めよ (野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー)
http://sharescafe.net/50091670-20161129.html
■どれだけ稼げても、長時間残業は割に合わない (野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー)
http://sharescafe.net/49837469-20161026.html
■転職貧乏で老後を枯れさせないために個人型DCを勧める理由 (野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー)
http://sharescafe.net/49061150-20160714.html
■定年退職者に待っている「同一労働・賃下げ」の格差 (野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー) 
http://sharescafe.net/48662599-20160524.html

野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー TFICS(ティーフィクス)代表


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