フリーランス

昨年起こった電通における過労死事件を発端に、長時間労働問題が加熱しています。政府による長時間労働改善の動きも始まっており、国会では労働基準法を改正し、残業時間を規制する方向で検討がなされています。

残業時間の上限は月60時間、繁忙期は100時間とする方向で政府・与党が検討していると報道されていますが、この場合、月に20日、1日の定時勤務が8時間と仮定すると、通常でも1日11時間、繁忙期は1日13時間の勤務は問題ないということになります。大幅に規制されるとはいえない内容で、企業活動への影響を懸念する企業に配慮しているのかもしれません。

一方で、残業規制が導入されたとしても残業が会社への忠誠を示すような企業風土を持つ会社であれば、不要なはずの残業を仕方なくさせられるようなこともあるでしょう。また残業規制の上限を超えるような仕事を割り振られ、規制を回避するために自宅で仕事をせざるをえない状況が起こることも考えられます。企業と雇用関係にある以上、勤務する企業の考え方に労働時時間は、おおきく左右されてしまいます。

このような状況に嫌気がさし、独立して働きたいと考える人もいるかもしれません。専門性の高いスキルを持っていれば、フリーランスのような個人事業主として働くことも可能でしょう。定時という概念から解放されるため、時間をどのように使って働くかは自分で自由に決めることができますし、食うに困らない状況であれば、嫌な仕事を断ることも可能です。

■フリーランスの年収はどのぐらいなのか?
とはいえ、フリーランスになるとして、どれぐらい稼げるかは気になるところです。中小企業庁が毎年発刊している「小規模事業者白書」では、2015年度版よりフリーランスについて調査した結果を掲載しています、2016年度版の「小規模事業者白書」から、その結果をみてみることにしましょう。

手取り年収(単位:円)       全体    男性   女性
100万未満           16.4%   15.5%   20.1%
100万以上~300万未満      34.7%   31.5%  46.7%
300万以上~500万未満      27.6%   28.9%  22.3%
500万以上~800万未満      15.3%   17.1%   8.3%
800万以上~1,000万未満      3.1%   3.4%   1.7%
1,000万以上~5,000万未満     2.4%   3.0%   0.4%
5,000万以上            0.5%   0.6%   0.4%

男女別の手取り年収をみてみると、男女ともに年収100万円以上300万円未満のボリュームがもっとも大きく、500万未満で見た場合、男性は全体の75.9%、女性は全体の89.1%となっています。可処分所得が100万未満になることも珍しいことではないとなると企業に勤めているときより収入が下がることも十分ありえるといえそうです。

手取り年収    システムコンサルタント 著述家 建築技術者  個人教師  記者 デザイナー 翻訳家
(単位:円)   ソフトウェア作成者   土木・測量技術者      編集者
100万未満       21.2% 21.3%  14.5%  28.2%  12.8% 21.7% 28.6%
100万以上~300万未満 28.5% 31.9%  43.6%  30.8%  46.8% 37.9% 39.7%
300万以上~500万未満 24.8% 23.4%  29.1%  30.8%  23.4% 27.3% 15.9%
500万以上~800万未満 21.2% 16.0%   9.1%  5.1%  12.8%  9.3% 12.7%
800万以上~1,000万未満 2.2%  4.3%  3.6%  2.6%   4.3%  2.5% 0.0%
1,000万以上       2.2%  3.2%  0.0%  2.6%   0.0%  1.2% 3.2%
※職種は回答数が多かったもの

職種別でみると、「システムコンサルタント・ソフトウェア作成者」、「著述家」といった職種は、他と比較して、手取り年収が500万円以上の割合が高くなっています。とはいえ、1,000万以上稼ぐとなると著述家で3.2%と30人に1人程度であり、フリーランスで手取り年収1,000万以上を稼ぐことは、なかなかハードルが高いといえそうです。

■フリーランスの労働時間はどのぐらいなのか?
ではフリーランスの労働時間はどのぐらいなのでしょうか。

労働時間/週
10時間未満        22.9%
10時間以上~20時間未満  9.2%
20時間以上~30時間未満  6.1%
30時間以上~40時間未満  13.5%
40時間以上~50時間未満  22.0%
50時間以上~60時間未満  11.7%
60時間以上        14.6%

一般的な労働時間として考えられる週40時間以上働いているフリーランスは、48.3%とほぼ半数に達しています。長時間労働の規制上限である60時間を越えて働いているフリーランスも14.6%ほど存在し、長時間働くフリーランスも一定数いるということになります。一方で、労働時間が10時間未満のフリーランスも22.9%ほど存在しています。主婦業を兼務しているなどの理由がなければ、思うように仕事を受注できていない状態なのかもしれません。

■フリーランスになる前に収入リスクを十分検討すべき
小規模事業者白書では、フリーランスという働き方についての満足度も調査しています。その結果をみると、「通勤環境」、「仕事の自由度や裁量の高さ」、「仕事のやりがい」、「プライベートとの両立」といった企業に勤務しているときには得られにくい項目の満足度が高い一方で、「社会的評価」、「収入」といった項目では不満が高いとの結果が出ています。

確かに年収の調査結果を見る限り、フリーランスとして満足を得られるような年収は得ている人は決して多くありません。さらにいえば、この調査はフリーランスとして活動している人が調査対象であり、フリーランスとしてうまくいかず、フリーターになったり、企業に再就職するような人は含まれていません。フリーランスになった場合は、そのようなリスクもあることを考慮すべきでしょう。

こうした実情も踏まえた上で、フリーランスになるかどうかは慎重に検討した方がよさそうです。

《参考記事》
■承認欲求が満たされない社会が原因?なぜ「一流」が書籍や記事で使われるのか?(村山聡 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49594313-20160920.html
■働き方は「人並みで十分」と考える新入社員に教えたい人並みの給与額(村山聡 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49126099-20160720.html
■テキストマイニングでわかる!経営理念、企業理念には何が書かれているのか?(村山聡 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/48670625-20160523.html
■新入社員のうちに覚えておきたい!仮説思考の重要性と重病性(村山聡 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/44386900-20150421.html
■あなたの会社にもいるかもしれない?ビジネスメソッドマニアに気をつけろ!(村山聡 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/40838018-20140914.html

村山聡 中小企業診断士 

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