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ワールドベースボールクラッシク開催まで、後1週間になりました。

過去3回大会のうち、2回の優勝を誇る日本代表チーム侍ジャパンですが、日本ハムファイターズ大谷翔平選手の右足首の故障による出場辞退や、日本人メジャーリーガーのうち、ヒューストン・アストロズ所属の青木宣親選手以外の選手が不参加ということもあり、今回の大会で、果たしてどこまで勝ち抜けるか不安に思っている野球ファンも多いかと思います。

■4番は筒香選手に決まったが
こうした状況の中、打線の核ともいえる侍ジャパンの4番打者は、横浜DeNAベイスターズの筒香嘉智選手が指名されたとスポーツ新聞などで報じられています。昨年11月に行われた侍ジャパン強化試合において、4試合で4番を務めたのは、日本ハムファイターズの中田翔選手だったこともあり、意外に思われた方もいるかもしれません。

中田選手は、2012年に栗山秀樹監督が日本ハムファイターズの監督に就任して以来5年間、ほぼ不動の4番打者として活躍しています。昨年は110打点を記録、2回目の打点王に輝き、チームの日本一に多大な貢献をしています。

一方の筒香選手は、2015年に横浜DeNAベイスターズの4番打者として定着し、昨年2016年に大ブレーク、本塁打44本、打点110を記録、初の本塁打王、打点王のタイトルを獲得しました。

中田選手も、筒香選手も日本プロ野球を代表する4番打者であり、どちらが侍ジャパンの4番打者に選ばれても不思議ではないでしょう。

では、中田選手、筒香選手の4番打者としての能力に差はあるのでしょうか?

■2016年の得点圏打率に差があるといえるか
4番打者は、クリーンナップといわれる、走者を本塁に返し得点を上げる役割を担う3番~5番の中心となります。そこで塁上に走者がいる時にどれだけ安打という結果を出せるかが4番打者に求められる能力と定義してみましょう。

では中田選手、筒香選手の2016年度日本プロ野球ペナントレースにおける得点圏打率をみてみることにします。

   得点圏打数  安打   打率
中田   197    52  0.264(0.250)
筒香   112    44  0.393(0.322)
※カッコ内は全打数における打率

中田選手も筒香選手も全打数における打率と比較して、得点圏打率は高い傾向にありますが、筒香選手の得点圏打率は、中田選手と比較して、1割3分近く高く、筒香選手の方が得点圏に走者がいる時に結果を出しているといえそうです。ではこの得点圏打率の差が中田選手と筒香選手の能力差であるといえるでしょうか?

仮に、中田選手と筒香選手の得点圏に走者がいる場合にヒットを打つ能力が2016年のペナントレース中に変化がなかったとする場合、カイ二乗検定によって、両者の能力に差があるかどうかを確認することができます。

カイ二乗検定では、本来の二人の能力が同一であるという仮説を立てます。そこで、それぞれの得点圏の打数と安打を合計した打率を計算すると、

(52+44)÷(197+112)=0.310

となります。中田選手と筒香選手の本来の能力と仮定した得点圏打率が0.310である時、もし両者の2016年における得点圏打率が起こる確率が20回に1回以下(5%)以下であれば、二人の選手の本来の得点圏打率はともに0.310であるとはいえず、両者の能力には差があるといえることになります。

カイ二乗検定は、Excelの関数を用いて簡単に計算することができ、上述の条件で計算をすると結果は5.1%となります。ギリギリではありますが、計算結果が5%を上回っているため、2016年の得点圏打率を比較した場合、中田選手と筒香選手の得点圏で安打を打つ能力に違いがあるとはいえないということになります。

■これまでの4番打者としての得点圏打率に差があるといえるか
では、2016年以前の成績も考慮した場合についても確かめてみることにしましょう。

中田
    得点圏打数  安打   打率
2016   197    52  0.264(0.250)
2015   171    48  0.281(0.263)
2014   176    52  0.295(0.269)
2013   111    33  0.297(0.305)
2012   172    34  0.198(0.239)
※カッコ内は全打数における打率

筒香
    得点圏打数  安打   打率
2016   112    44  0.393(0.322)
2015   157    54  0.344(0.317)
※カッコ内は全打数における打率

中田選手は5年間、筒香選手は2年間、チームの4番打者として定着しています。ただし中田選手については、2012年は栗山監督が4番打者として定着させるため、ある程度成績には目を瞑って4番打者として起用していたという話もあるため、中田選手については、2013年~2016年の成績を対象とすることにします。

対象となる期間の中田選手、筒香選手の得点圏打率は以下のようになります。

    得点圏打数  安打  打率
中田   655    185  0.282
筒香   269    98  0.364

先ほどと同様に、本来の二人の能力が同一であるという仮説を立てた場合の得点圏打率を計算すると、

((52+48+52+33)+(44+54))÷((197+171+176+111)+(112+157))=0.306

となります。これらの条件をもとにカイ二乗検定で計算をすると、結果は4.1%となり5%を下回るため、4番打者として両選手が定着した期間で比較すると、中田選手と筒香選手ので安打を打つ能力に違いがないとはいえないということになります。

■まとめ
このように2016年度の得点圏打率では、両選手の能力に差があるとはいえませえんでしたが、4番として定着していた期間でみた場合は、筒香選手の方が、中田選手より得点圏に走者がいる場合に、安打を放つ能力は高いという結果になりました。とはいえ野球選手は常に一定の能力を維持している訳ではなく、好不調の波があったり、練習によって、能力が向上することもあるため、能力が一定であるというカイ二乗検定の前提が当てはまるかというと、必ずしもそうではありません。ただし一見かなり差があるようにみえても、統計的にみた場合、必ずしもそうでない場合があることは、お分かりいただけるかと思います。

ビジネスにおける統計においても単に見た目に差があるようにみえるという理由だけで優劣をつけずに、このような統計的手法で確認することも時には必要でしょう。

《参考記事》
■承認欲求が満たされない社会が原因?なぜ「一流」が書籍や記事で使われるのか?(村山聡 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49594313-20160920.html
■働き方は「人並みで十分」と考える新入社員に教えたい人並みの給与額(村山聡 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49126099-20160720.html
■テキストマイニングでわかる!経営理念、企業理念には何が書かれているのか?(村山聡 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/48670625-20160523.html
■新入社員のうちに覚えておきたい!仮説思考の重要性と重病性(村山聡 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/44386900-20150421.html
■あなたの会社にもいるかもしれない?ビジネスメソッドマニアに気をつけろ!(村山聡 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/40838018-20140914.html

村山聡 中小企業診断士 

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