■反主流派はアメリカだけでなくEUでも 2017年の今年は、EUの存在意義を問う多くの重要イベントがあります。 例えば、一昨日の3/15はオランダの総選挙がありました。フランスでは4月と5月の2回にわたって大統領選挙がおこなわれ、さらに国民議会下院選挙(6月に2回)があります。ドイツは、連邦議会選挙を9月に控えており、加えて昨年末レンツィ首相が退陣に追い込まれ新たにジェンティローニ首相が就任したイタリアも、来年には解散総選挙がおこなわれる可能性があるようです。 EU各国では、テロの脅威や難民流入問題などで国民の不満が高まっており、各国の反主流派が勢いを増しています。トランプ政権樹立やBrexitも後押しして、選挙の結果次第では従来政党がひっくり返ってしまう可能性もあるでしょう。実際に一昨日行われたオランダの総選挙も、第一党にはなれませんでしたが極右自由党が躍進しました。そして従来政党である自由民主国民党は、なんとか第一党を維持できたものの議席をかなり減らす結果となりました。オランダは、ヨーロッパの中でもリベラルな国であるにも関わらず、このような動きがあるというのは、それだけ国民の危機感が高まっている証左なのでしょう。 これらの国政選挙は、EUの存続に対する選挙とも考えることができます。先述した選挙がおこなわれるのがEUの主軸である4か国であるため、その選挙の行方はとても重要なのです。 しかし、EUが抱える問題はこれだけではありません。もう一つの乗り越えなければならない壁があるのです。 ■ギリシャ危機は再来するのか? ユーロ危機があった2012年には連日のようにギリシャについて報道がされていましたが、最近では全く紙面に出てこなくなりました。しかし、ギリシャ債務問題はまだ消え去ったわけではありません。むしろ、EUにとっては決して予断を許さない難題なのです。 2017年のギリシャ政府の債務状況は、7月に大きな山を迎えます。金額にして約62億ユーロ、2015年のギリシャ対GDP比3.5%ほどの国債償還期限が到来するのです。この大量の国債償還予定を控え、EU、IMF、ECBは今年2月よりギリシャへの金融支援に対する協議を本格的にはじめてきました。 ギリシャ危機は再度起こってしまうのでしょうか? ■ゲーム理論で比較するギリシャとEUの関係 答えはNOでしょう。最終的には、EUはギリシャを救うだろうと思います。つまり、EUはギリシャに対しては強硬な立場で緊縮財政を求めることはできないため、むしろ金融支援をするだろうと予想されるのです。 今のギリシャとEUの関係を、ゲーム理論という経済理論の一つを使って考えていきましょう。その際、各主体の利得を表す以下利得表を使うのですが、過去と現在を比較すると以下のようにあらわすことができます。 枠内の左側の数字がギリシャの利得、右側の数字がEUの利得になります。(ちなみに、数値の中身はあくまでも利得の大小を測るために当てはめた数字です。) このゲームでは、各主体が協調することなく互いの戦略を考えながら自分の利得が最大になるような選択をおこないます。 例えば表の左側2012年の利得表を見てみましょう。もしギリシャが妥協した場合、EUは緊縮緩和姿勢を選ぶと0の利得、もし緊縮実施をすれば5の利得がもらえることになります。すると当然EUは利得が高い緊縮財政を選択することになるでしょう。 そしてどちらの選択なのかを区別するため、ギリシャの選択を〇印EU選択を□印として各主体の戦略選択を決めるのです。 選択ゲームの結果、同じ枠に各主体の選択が同時に入ることを均衡とよびます。 この均衡ですが、2012年の時点では、「EU妥協でギリシャ強硬」または「EU強硬でギリシャ妥協」という選択肢が均衡点になっていました。つまり、各国とも強硬と妥協の交互の選択ができていたのです。実際に当時、支援をめぐって両者が強硬になったり軟化したりと繰り返されていました。 ところが2017年なると状況が変わります。EUが強行した場合、先述した安全保障面の問題が加わりEUが被る損失の度合いが大きくなったため、ギリシャが妥協を選択しようが強硬を選択しようが、EUは妥協したほうが良いことになったのです。 ■もはや強気になれないEUの立場 以前まではギリシャは金融支援という側面からEUに対して弱い立場でした。ギリシャ自体がEUに属することに大きなメリットがあるため、EU離脱がないようにEUの方針に従う立場だったわけです。しかし2015年以降、難民問題でギリシャが地政学的に非常に重要な位置づけとして認識されるようになりました。つまり、ギリシャを不安定にさせるということはEUの安全保障の面も脅かすことになるため無理に財政強硬を押し付けることができなくなってしまったのです。 金融支援は問題の先送りに過ぎません。しかし、今EUが抱えている難題とはユーロ金融危機の再燃だけの問題ではなく、政治不安の発展が加わってしまったため、もしギリシャ危機の発生を許してしまうと、EUの存続にも関わってくる可能性もあるため、妥協の選択肢しかないのです。 《関連記事》 ■もう元に戻せない...BREXIT投票後のUKのこれから(JB SAITO マサチューセッツ大学MBA講師) ■批判されることが大嫌いな欧米ビジネスパーソンとの正しい付き合い方(JB SAITO マサチューセッツ大学MBA講師) ■日本人が持つべき英語力向上に必要な"日本語力" (JB SAITO マサチューセッツ大学MBA講師) ■アベノミクスが対峙する「生産性向上ができない日本の"特殊"事情」(JB SAITO マサチューセッツ大学MBA講師) ■"あの"時の英国を彷彿させる中国経済の今(JB SAITO マサチューセッツ大学MBA講師) JB SAITO マサチューセッツ大学MBA講師 シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |