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第193回国会に介護保険法改正案が議案として提出されています。その議案は、平成28年の1年間で16回も行われた介護保険部会から出された意見が元となっています。制度維持のために大きく舵を切った国と厚生労働省。介護保険は、使い勝手が悪くなるとの専らの評判です。私たちは安心して老後を迎えられるのでしょうか。

■介護保険部会で議論された内容
介護保険部会は毎回テーマを決めて議論していました。具体的には、医療と介護の連携、自治体(保険者)のあり方、介護人材の確保、ロボットやICT、ケアマネジメント、軽度者への支援、利用者負担、介護保険料等のテーマです。それらの話し合いを経て、介護保険の見直しに向けた意見をまとめました。その内容は、大きく2つに区分されます。「地域包括ケアシステムの深化・推進」と「介護保険制度の持続可能性の確保」です。

地域包括ケアシステムの深化・推進と聞くと、何かすごいことが始まるように感じますが、国が何かを始めるわけではありません。始めるのは、それぞれの地域に住む私たち住民です。高齢者の自立した生活を支援するため、地域で考え、支援していくことになりました。そのため、病院や介護施設だけではなく、そこに住む地域住民の力が必要です。身近な例で言えば、ゴミ出しの手伝いや買い物代行、掃除等です。高齢者が自立して生活できるように地域住民(ボランティア)で支えていくという考えに立っています。問題は、これだけ近所付き合いがなくなった世の中で実現できるのか?ということでしょうか。

介護保険制度の持続可能性の確保は、文字通りです。どのように持続可能性を確保するかという方法が問題です。もとはと言えば、介護保険サービスを必要とする高齢者が増えたため、介護保険から支払われるお金が急増し、財源が足りなくなったというものです。財源は、40歳以上が支払う介護保険料と私たちが支払う税金です。平成28年現在の財源は10兆円です。これから平成37年に向かって団塊の世代が75歳を迎えると20兆円くらいの財源が必要になると予測されています。

そのため、値上げの話が盛り込まれています。まずは、介護保険を使ったときに支払う利用料の負担割合を最大3割としています。その他、福祉用具や住宅改修費用の適正化も行われます。また、今回は見送られましたが、介護保険料の負担者を40歳未満にも拡大するという意見もまだ生きています。

■地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法律案
改正介護保険法の正式名称は、「地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法律案」です。この法案の目的は、「高齢者の自立支援と要介護状態の重度化防止、地域共生社会の実現を図るとともに、制度の持続可能性を確保することに配慮し、サービスを必要とする方に必要なサービスが提供されるようにする。」ということです。法案の中身は、「地域包括ケアシステムの深化・推進」と「介護保険制度の持続可能性の確保」に分かれています。介護保険部会の意見そのままです。具体的に内容を見ていきましょう。

地域包括ケアシステムの深化・推進のポイントは、市町村に権限を委譲して、とにかく市町村に今後の高齢者の自立支援をまかせるということです。そのために、地域包括支援センターを土日祝日もオープンさせることやビッグデータの活用、インセンティブの付与が挙げられています。インセンティブの付与とは、地域住民の要介護度が下がったら、ご褒美として都道府県が市町村にお金をあげるものです。財政に苦しい市町村が意図的に要介護度認定を厳しくして要介護度が下がったように見せかけるようなことがあったら嫌だなと思います。

地域包括ケアシステムの深化・推進のその他のポイントは、地域住民を動員して高齢者の自立した生活を支援するための体制の構築です。地域の文化や歴史によって住民の構成要員は異なるので、画一的な体制ではなくその地域にふさわしい体制を敷かないと長くは続けられません。市町村は行政として地域住民に一番身近なのでその点では良いと思いますが、どこまで地域住民を巻き込めるのか手腕が問われます。

介護保険制度の持続可能性の確保のポイントは、現役世代並みの所得のある者の利用者負担割合の見直しです。平成27年8月に2割負担が導入されましたが、今度は平成30年8月から3割負担も導入されます。3割負担となる高齢者は介護保険利用者のおよそ3%と予想されています。年金収入等が340万円以上あると3割負担に該当するのですが、一方で利用者負担額は月額44,400円が上限なので、それほど影響はでないとされています。

■このままでは終わらない介護保険の見直し
利用者負担割合は最大3割となりました。該当者は3%というのは現時点では本当でしょう。しかし、これは序の口です。利用者負担額の上限44,400円はいずれ引き上げられるでしょう。引きあがれば、3割負担者はおのずと増えます。そして、年金収入等が340万円以上という基準は、引き下げが行われれば該当者は何倍にも増やせます。

軽度者の介護保険対象からの除外、実質作成料無料となっているケアプラン作成の有料化、介護保険料の負担層の拡大は次の介護保険改正で確実に行ってくるはずです。一気に負担増としてしまうと国民の反発が大きいので、徐々に進めていくと思います。気づいたときには自分の知っている介護保険と違うということになっているかもしれません。

団塊の世代を親に持つ世代は、これからが正念場です。両親が介護保険を利用する時に戸惑わないように、できるだけ介護保険の情報は耳に入れておくことをお勧めします。

【参考記事】
■昨年度をすでに上回る倒産件数!淘汰が始まった介護業界(藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)
http://sharescafe.net/49892618-20161030.html
■元特養事務長が教えるより良い介護施設の見極め方(藤尾智之 税理士)
http://sharescafe.net/47893238-20160223.html
■介護保険は保険ではない ケアマネジャーと上手に付き合う方法 藤尾智之 税理士
http://sharescafe.net/35169456-20131126.html
■介護が必要になった!どうする?(藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)
http://sharescafe.net/49045000-20160709.html
■介護保険は保険でなはい 「親の介護は老人ホームにお願い」は甘い考え 介護保険を考える(1) (藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)
http://sharescafe.net/35018841-20131120.html
藤尾智之 税理士・介護福祉経営士

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