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日本を代表する企業のひとつである東芝。現在の転落劇は衝撃的だ。

東芝の発表では連結赤字は1兆100億円、そして6200億円の債務超過に陥る見通しだという。

ところで筆者も含めて、この記事をお読みになっている方の中に、1兆円の赤字企業の経営をした経験があるという人はいないと思う。

そこでもっと身近な問題として、東芝の経営破綻と国内企業の98~99%を占める中小企業の関係を考えてみたい。

■東芝経営陣の責任
2015年に発覚した不正会計を受け、同年7月には当時の東芝経営陣及び歴代3社長が引責辞任した。そのため先般の株主総会では、不正会計の発覚後に就任した綱川社長が矢面に立った。

再建(と呼んでいいのか)への方策となる半導体メモリー事業の売却金額は、実に2兆円が想定されており、今後は日米の政府を巻き込んでの買収劇となる。

国益を損ないかねないこの問題に、経営陣の責任は当然問われるべきであろう。連日のようにマスコミや株主から叩かれ、すでに社会的な制裁はスタートしており、今後も茨の道が続く。

しかし、辞任した元社長や現社長に責任を問いたいのは、社会ばかりではない。もっと深刻な影響を受ける人たちがいる。

■1社への売上依存度が高い中小企業の経営リスク
東芝の問題に影響を受けるであろう会社が国内には数多くある。下請け企業や仕入先など、年商の大半を東芝に依存している会社も少なくないだろう。

東芝からの仕事が途切れれば、それらの会社の経営は当然に苦しくなるが、そこに政府の手が差し伸べられることはない。

ところで、大企業からの下請け仕事が売上の大半である、という会社は中小零細企業には数多く存在する。東芝のような電機製品大手の製作工場がある街にはそういう会社が郡在し、その大企業1社の下請け仕事のみで経営している、いわば売上依存度100%という町工場も珍しくない。

そういった会社の経営者の考え方として、発注元である大企業と、下請けである零細の自社とを、家族づきあいのように捉えている場合がある。これはある意味では極めて日本的な考え方で、高度成長期には確かに大手企業と町工場との二人三脚が、日本のものづくりを支えてきた面も否めない。

そういう町工場は、未来にわたっても家族的な取引関係であることを信じ、発注元である大手企業の増産要請に応えるために、自社で資金調達して設備投資をしてきた。

ところがバブル崩壊以降、大手企業は中国を中心に労務費の低いアジアに生産拠点を移し始めた。そうなると、キーデバイス(製品を構成する上での中心的な機構)を持たない零細企業は、仕事を失い破綻するという現象が起きた。

言うまでもなく、特定の発注元に対する売上依存度が高い経営はリスクも高い。取引先の分散や、複数の事業を同時進行させることは、経営管理上とても重要な問題であろう。

■中小零細企業の経営責任
今回の東芝の破綻でいえば、不正を行った過去の社長は辞任しており、現在の社長が政府を巻き込んでの再建策に取り組むわけだが、その誰も、損失の返済に個人的な金銭責任を負うわけではない。

資本と経営が分離している大企業と異なり、中小企業のほとんどは、オーナー経営者が会社の金融債務を個人保証しているケースが多い。

大企業の経営破綻は過去にもあったが、数千億円を超える赤字の経営者は辞任して放免となり、数千万円の赤字の経営者が借金を苦にして自殺する場合がある、というのが日本企業の現状である。

だったら借りなきゃいいだろう、破綻するのは自分が無能だからだろう、という意見もあると思うし、ある一面ではその通りだ。

かくいう筆者も会社を経営する中で、金融機関からの借入れには個人保証している。保証人欄は、必ず直筆による署名捺印であり、記入する際には重圧を感じるし、生半可な気持ちで借入れができないことを否応なしに実感することになる。

しかし、会社経営をした経験がある方はおわかりだろうが、自己資金のみで事業を拡大することは、借入れでレバレッジを効かせた場合と比較して、スピード面で大幅に劣る。

極論すれば、借入れしてリスクを負う事業家がいなくなり、国民の皆がサラリーマンあるいは公務員になりたいと考えれば、もともと資源の乏しいこの国の経済はたちゆかなくなる。雇用と納税を創出するのは、最初はいつも小さな起業からである。今ある大企業だって、財閥を除けば、はじまりは借金まみれの町工場だったのだ。

経営者が破綻で経営責任を問われないとしたら、それは間違っているし、その責任を自覚しない者に経営者になる資格はない。しかし残念ながら、現在の日本の融資制度のもとでは、失敗のあとの再チャレンジへの道を閉ざされてしまうケースがあるのも事実だ。

連日のように株主やマスコミから責められ続ける東芝経営陣と、もし破綻すれば個人で金銭債務の全てを背負う中小企業経営者とでは、果たしてどちらが深刻でどちらが悲惨なのだろうか。こういう事が起きるたびに、不毛な比較をしてしまうのは、筆者だけではあるまい。


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玉木潤一郎 経営者 株式会社SweetsInvestment 代表取締役

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