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日本を代表する2つのテーマパーク、東京ディズニーリゾートとユニバーサル・スタジオ・ジャパンの昨年度の入場者数が公表されました。各マスコミは一様に「明暗が分かれた」と報じています。

国内二大テーマパークの明暗が分かれた。オリエンタルランドが運営する東京ディズニーリゾートの2016年度入場者数は2年連続で前年割れ。昨年4月の値上げが響いた。一方でユニバーサル・スタジオ・ジャパンは過去最高を更新した。(「テーマパーク、入場者数で明暗」日本経済新聞 2017/4/4付)


このリード文や見出しだけを読むと、あたかもユニバーサル・スタジオ・ジャパンの業績は向上、東京ディズニーリゾート(以下TDR)の業績は悪化しているような印象を受けます。果たして実態はどうなのでしょうか。上場企業であるTDRの運営会社・オリエンタルランドの開示情報を元に確認してみましょう。

■実はTDRの売上高は、“過去最高ペース”。
オリエンタルランドは3月決算の会社ですので、直近期(平成28年度)の通期決算はまだ発表されていません。確認できる一番新しい経営数値は第3四半期までのものです。

これを見ると、売上高は約3,600億円となっています。ここから単純計算すると、通期の着地予想売上高は4,800億円程度と見込まれます。この数字は同社が過去最高の売上高(4,735億円)を計上した平成25年度に匹敵します。現に、同年の第3四半期時点の売上高は約3,660億円で、昨年度とほぼ同じです。

つまり、TDRの業績は悪化どころか、“創業以来最高”に近いペースで推移しているのです。

また、売上高の変遷を時系列で見ると、過去最高の売上高を計上した平成25年度は、前年比約20%の大幅増加となっています。同年の有価証券報告書によれば、この主たる要因は開場30周年を祝うイベント『ザ・ハピネス・イヤー』の実施にあります。

この後、確かにオリエンタルランドの売上高は下降線をたどっています。しかし、前年比減少率は平成26年度1.5%、27年度0.2%と微々たるものです。凡百の企業なら、大きなイベントで売上をかさ上げした翌期はその揺り戻しで業績を落とすものです。そこを最小限の売上減で踏ん張ったところは、日本を代表する優良企業の底力を感じます。

入園者(TDRでは“ゲスト”と呼ぶようですが)の数の減少は確かに客観的な事実ですが、見方を変えれば、30周年で呼び戻した顧客を高い水準で維持している、とも言えるのではないでしょうか。そこに巧みな値上げ戦略を絡め、客単価の向上で売上を高める経営力の高さと、それを可能にするブランド力はさすがです。

■TDRの本当の課題とは?
とは言っても、TDRの経営にまったく懸念がないかと言えば、もちろんそんなことはありません。ここでは、財務数値の分析から気になることをいくつか挙げてみたいと思います。

まず私が注目したのは在庫回転率です。平成25年度は11.3日だった在庫回転期間が、前期第3四半期の数字では14.8日と、3.5日長くなっています。これは、それだけ土産品などの物販の在庫が長く滞留しているということです。在庫の動きが鈍くなった理由としては、チケット代が値上げになった分、施設内での買い物が手控えられている、混雑に嫌気してお土産を買うのをあきらめる人が増えた、という可能性があります。いずれにしろ、客単価を考える上で物販は重要な要素ですので、今後の価格戦略のためにもこの部分の分析は必要でしょう。

また、財務上、近年もっとも顕著な動きを見せたのは、手元流動性です。平成24年度期首に250億円程度だった現金及び預金の計上額は、直近では2,440億円あまりと、この5年間で10倍近くに膨れ上がっています。これに合わせて流動比率も142%から302%へと大幅に良化しています。

「良化」と書きましたが、確かに手元資金が厚くなれば経営の安定性は高まります。しかし、これも程度問題です。同時期の有形固定資産の計上額を見ると、4,721億円から4,420億円に約300億円減少しています。総合的に見て、この間の経営は、「設備投資は最低限にとどめて、余ったカネをひたすら貯め込んできた5年間」という意地悪な評価もできます。ほかの企業ならともかく、夢を売る商売として本当にこれで良いのかは議論の分かれるところでしょう。

冒頭の記事では、TDRが2020年を目途に大規模投資を実施して巻き返しを図る、とあります。そもそも、テーマパークビジネスは日銭商売ですから、現金の保有にそれほどこだわる必要はないはずです。したがって、2,400億円の潤沢な手元資金をどう使うかが、これからのTDRの最大の経営課題と言えるでしょう。

■TDRの企業理念を知っていますか?
ところで、みなさんはTDR(オリエンタルランド)の企業理念をご存知でしょうか? 

自由でみずみずしい発想を原動力に すばらしい夢と感動 ひととしての喜び そしてやすらぎを提供します。(株式会社オリエンタルランド ホームページより)


夢、感動、喜びは分かりますが、TDRに行って、あの混雑の中「やすらぎ」を感じる人っているのでしょうか? 新規投資を行うなら、この部分で顧客満足度を上げる施策が効果的かもしれません。

経営の方向性のヒントは、往々にして足元の経営理念を見直すことで得られるものです。

【参考記事】
■富士フイルムの事業転換は、本当に"華麗な転身”なのか。 (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49986760-20161112.html
■マイナス金利下でもローソンが銀行をやる理由。 (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49724245-20161008.html
■シン・ゴジラでビルを破壊された三菱地所のBCPを勝手に考える。 (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49222132-20160802.html
■ロイヤルホストが24時間営業をやめる本当の理由。 (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/50052834-20161121.html
■2018年開幕予定の「卓球プロリーグ」が本当に儲かるか計算してみた。 (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/50185951-20161209.html

多田稔 中小企業診断士 多田稔中小企業診断士事務所代表

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