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いわゆる就活も大詰めを迎えている。概ね6月頃には新卒採用選考も本格化し、徐々に内々定が出始める時期である。就活生の皆さんも、既に個別の企業説明会に参加したりエントリーシートを作成したりと、多忙な日々をお過ごしのことだろう。

■企業説明会でよく見る光景とは
就活のキックオフは、多くの企業が集まる合同企業説明会だ。3月の就職活動解禁以降、全国各地で活発に開催されているものである。

個別の企業ブースをのぞいてみれば、人事担当者や現場の管理職等が熱心に自社の魅力や強みをプレゼンしている姿が目に入る。人気企業のブースともなれば、立ち見が発生するのも珍しいことではない。いかに「売り手市場」である就活とは言え、黙っていても内定が向こうからやってくるわけではない。就活生は一様にメモを取ったり真剣な表情である。

そんな各社の説明だが、「我が社の求める人材」の話は必須の内容だろう。チラリとのぞいてみれば「失敗を恐れないチャレンジ精神に富む人材」「前向きに頑張り続ける人」など、キラキラした前向きな言葉が並んでいる。各企業の人事担当者に後光が差して見えるくらいの勢いである。

■企業側の求めるハードルは高すぎではないか
さらには、企業が求める人材像について以下のような記事を目にした。

信用調査会社大手の帝国データバンクが、人材採用に関する新たな取り組みの状況、企業が求める人材像に関する調査を実施し、その結果を発表した。(中略)企業が求める人材像のトップは「意欲的である」(49.0%)となり、約半数の企業から支持された。第2位は「コミュニケーション能力が高い」(38.6%)、第3位は「素直である」(32.2%)が続いた。停滞した日本の企業社会に「変化をもたらすような個性よりも、素直でコミュニケーション力が高い人物を求めるといった、チームワーク重視の企業文化が示された」としている。
HARBOR BUSINESS Online「企業が求める人材像「意欲的」で「コミュニケーション力」があり「素直」。帝国データバンク調査で判明」2017/4/21

意欲的でコミュ力が高いばかりか、決して調子に乗ることのない素直な人材。「そんなやついるか!」と即座に突っ込みを入れると同時に、我が身を振り返り少しばかり恥ずかしい気持ちになった次第だ。

上記記事ほど極端でないにしろ、各企業の求める人材像は非常に前向きな若者を想定しているように思われる。「自分はそんなに立派な人間ではない・・・」と就活生も不安を煽られているのではなかろうか。

■求める人材≓当該企業に欠けている人材、では。
まずはご安心いただきたい、というのが筆者の率直な意見だ。

そもそも企業において十分に確保できている人材は、わざわざ外部から確保しようとはしないずだ。むしろ企業で欠けている人材こそ、求める人材像という形で提示されるのである。決してそのような人材で無いと入社できませんよ、というものではないからだ。

考えてもみてほしい。現状のビジネスパーソンの皆が皆、そのように前向きでキラキラした素養の持ち主であったなら、もう少し暮らしやすい世の中にはなっていまいか。少なくとも、違法な粉飾決算や過労による自死、パワーハラスメントなどは起き得ないはずだ。逆の言い方をすれば、現職のビジネスパーソンの人となりに多少なりとも問題があるからこそ、昨今の職場における悲しい事件が発生していると言える。

合同企業説明会に行けば、時折、求める人材の美讃麗句に酔い、あたかも「この水準に達しなければ採用試験の受験資格なし」といわんばかりの人事担当者も目にする。

しかしながら、前述した視座に立てば、そのような人事担当者の立ち居振る舞いは勘違いであると言わざるを得ないであろう。相手に対して高い要求を掲げる以上、自らにも高いハードルを課すのが大人の姿勢であり、他人のハードルのみを上げようとする姿勢は、たんなるわがままに過ぎないからだ。人事担当者はまずは自企業の現状を承知する必要があるし、襟を正しながら就活生と接するべきであろう。

■求める人材像と企業における現状のギャップについて
ちなみに、今話題の東芝における求める人材像は以下のとおりとなっている。

実現したい夢がある人
•企業という自己実現の場を通して、自らが社会で実現したい明確なビジョンを持っている。
•何事にも探究心と情熱を持って取り組むことができる。
周囲と協力し合える人
•属性にとらわれず、相手と真剣に向き合い、様々な考え方を受容する。
•同じ目標のもと、チームメンバーとして個々の力を発揮できる。
自ら考え実践し、やりとげる人
•自身の言葉で想いを表現でき、主体的に行動できる。
•逆境に負けない精神力を持ち、挑戦し続けられる
TOSHIBAホームページ「採用情報」2017/4/27確認

既存の社員を含め、本当に上記のマインドに富む社員を数多く配置できたとしたら、今後の復活の道は明るいと言えるのかも知れない。

また、新入社員の自死が社会問題化した電通の求める人材像については、過去に「「スケール感」と「総合人間力」」であると語られている。少々長い引用となるが、以下ご一読いただきたい。


「広告業はクライアントが多く、また、さまざまなメディアとの関係も構築しなければならず、コミュニケーションのありようが非常に多様です。従って、画一的なものの見方しかできないであるとか、聞く耳を持たないといった姿勢では、仕事が全く立ち行かないのです。さらに、研究者のような探求力が必要な時もあれば、誰にでもかわいがってもらえるような人なつこさが必要な時もあるわけで、その意味では、人としての弾力性というのでしょうか、私たちの言葉で「総合人間力」と呼ぶものが重要になってきます」
NAJIC(学生情報センターグループ)「「スケール感」と「総合人間力」―電通が求める人材 (株式会社電通  人材開発局 採用計画部 部長 紅野 伸彦)」2017/4/27確認。


「総合人間力」なる能力について、非常に幅広な意味を含むと思われるが、仮に、同社内にそうした能力が浸透していたとしたら、悲劇的な新入社員の自死、という事態は避けられたのではないだろうか。掲げる理想像に比して、現場感として欠けているものはなかったか。同社は諸々の職場環境改革案を打ち出しているが、求める人材像と同社における組織風土とのマッチング等、現状と課題についての分析は必須となるだろう。

■就活生は新しい風となる存在だ
ことほどさように、人間の悪い癖であるが、自分自身を省みずに他人に対しては多くを求めてしまいがちだ。そのことを頭の片隅に置きながら、就活生の皆さんは、周囲の大人や人事担当者が語るキラキラした言葉に惑わされないでほしい。

皆さんもうすうすお気付きのとおり、世の中そんなに立派な大人ばかりではない。大人も日々惑い、悩みながら生活している。人をうらやむこともあれば、他人の足を引っ張ることすらあるのだ。

就活における美讃麗句に惑わされること無く、自分自身の適性や希望に目を向けてほしい。皆さんは会社の雰囲気を変えうる新しい血であり、新しい風となる存在なのだから。

【参考記事】
■「新入社員が2日で辞めた」を防ぐ術は、NHK歌のお兄さん交代に学べ。(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://goto-kazuya.blog.jp/archives/20692022.html
■「親子就活」が非常識でない理由。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://goto-kazuya.blog.jp/archives/19939501.html
■「就活に有利な資格ってありますか?」と問われたら。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/50823928-20170310.html
■キャリアコンサルタントが自身のキャリアを描けない、という笑えない話。(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/49875267-20161028.html
■電通新入社員自殺、「死ぬくらいなら辞めればよかった」が絶対に誤りである理由。 (後藤和也 産業カウンセラー/ キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/49739049-20161010.html

後藤和也 産業カウンセラー キャリアコンサルタント

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