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 国内航空大手2社の2017年度の経営体制が明らかになった。JALの植木社長は続投となり、6年目に突入することになった。ANAホールディングスの伊東会長は、ANA社長時代から代表権を持つ会長職まで含め合計8年となった。一般的な上場企業の任期としては長期となった両者の経営は、会社業績にどのような影響を及ぼしているのだろうか。

■JAL・ANAトップの政権と業績
 国内航空大手のトップである、JALの植木社長、ANAホールディングスの伊東会長が実質的な会社トップの就任時期とその在任期間を見ると以下の通りである。

植木義晴氏  社長:2012年2月-現在(計5年2ヶ月)
伊東信一郎氏 社長:2009年4月-2013年4月(4年)
       HLD社長:2013年4月-2015年4月(2年)
       HLD会長:2015年4月-2017年3月(2年) 計8年
      ※代表権を持たない会長職は継続中
 
上場している運輸・物流業界の社長平均在任期間はおよそ5年と言われるが、植木社長の続投により国内航空大手2社ともにその平均を超えることとなった。
 両者の在任期間に対応するそれぞれの業績を見てみると以下の通りである。(単位:億円)
無題3
無題4

 これを見ると、ANAの伊東社長(当時)はリーマンショックの直後に社長に就任し、2009年の営業赤字の状態を経て、業績を立て直してきたことがわかる。また、業績を持ち直した2010年以降は、収益性の向上ではなく、売上高の拡大と成長率を重視した戦略に終始してきたことが見て取れる。
 
 一方のJAL植木社長は2010年の会社更生法適用から業績を劇的に回復させ、再上場を果たした2012年に社長に就任した。それ以来、売上高はほぼ横ばいであるが、航空業界としては非常に稀な高い収益率を堅持しており、収益率重視の戦略が伺える。(ただし、これは植木社長が売上高や成長性よりも収益性を重視した戦略を積極的に取ったのではなく、会社更生法適用の結果、高収益体質を確立できたこと、国土交通省の8.10ペーパーによる拡大路線を取る選択肢が制限されていたことによる影響が大きかったことは事実であろう。そのため、程度の差こそあれ、社長が誰であろうが同じ収益性重視の戦略を取っていた可能性は否定できない)

■長期政権がもたらす効果
 日本企業が選択と集中を叫ぶようになって久しいが、大手企業の多くは合議制の弊害により、誰が見ても無難な選択を行うことが多く、特異な戦略から業界の平均を大きく超えるような収益性を確立するケースは少ない。しかしながら、長期の政権は権力集中の暴走リスクを抱えながらも、長期的な視野に立った本当の意味での効果的な選択と集中を行いやすい環境になる。

 また、長期スパンの任期で検討しうる戦略と、2-3年の短い任期が前提の戦略では、選択肢が大きく異なるはずであり、長期政権における戦略の多様性とその可能性は短期の比ではない。これらを踏まえ、ANAホールディングスの伊東会長が進めてきた拡大戦略は、多くの戦略選択肢の中から伊東会長が推し進めたこの時代にとるべきと判断・選択した戦略であり、LCCの設立、国際線の拡充、海外航空会社との提携促進、これらを見据えた機材導入など、いずれも短期政権では選択しえないANAの長期利益を見据えた戦略であった。

■長期政権に突入したJAL植木社長に期待される戦略
 ANAホールディングスの伊東会長に対し、会社更生法適用の影響でこれまで制限ある中でのかじ取りを強いられ、既定路線を歩んできたJALの植木社長には、様々な選択肢の中から、独自の戦略を実行する環境が整った。これまでの高収益体質により蓄えた潤沢な資金と長期政権による本当の選択と集中が行える環境に加え、これまでの制限による鬱憤も後押しする。
 
 今週(2017年4月28日)に予定するJALの2016年度決算と共に発表される中期計画には、これまでの選ばざるを得なかった収益力重視の戦略から解放され、蓄えた利益をどこに羽ばたかせるか、またはこれまで同様に羽ばたく選択をしないのか、植木社長の制限なき自由な意思決定が初めて示されることになる。

 長期の政権が維持される航空大手の2社には、会社の長期利益を支えるのは稟議制度による責任の分散ではなく、創発戦略に基づく意思なき選択でもなく、経営トップ本人の長期を見据えた意志ある決断を今後も期待せずにはいられない。

【参考記事】
■地域航空が国鉄に学ぶべき理由(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49893178-20161031.html
■優秀が故のジレンマ「大企業のイノベーションへの挑戦」(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/50115391-20161130.html
■星野リゾートとリッツカールトンの戦略の違いとは(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49185987-20160729.html
■フェラーリの戦略にみる企業価値経営(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/47203706-20151215.html
■ブルーボトルコーヒーに見る戦略ストーリー「人気のブルーボトルコーヒーは何を捨てたのか!?」(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/45855247-20150808.html

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