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■公務員という国家試験

まずは、以下の英語の問題を見てください。

次の英文のアとイ(中略)は、それぞれ同様の趣旨の内容を別の表現で述べたものである。ビジネスにおいて既に十分な信頼関係が築かれており、今後心理的な距離を更に縮めたい相手方に対して電子メールを送信する場面で、堅苦しさを残す文ではなく、友好的で前向きな心情を伝える英文を作るときの文として、妥当なものはどれか。

(ア) Hello
(イ) Hello!

(平成29年度 都庁試験より一部抜粋)


上の問題は、今月7日におこなわれた東京都庁1B採用試験での教養択一問題の一つです。この問題を見て皆さんはどちらが正解だと思ったでしょうか?


■文化・慣習や立場で違ってくるコミュニケーションの方法

東京都は地方公務員の部類に入りますが、地方公務員の中でも都庁や特別区(23区)は非常に人気が高い自治体で、最近では国家公務員を凌ぐほどの勢いで人気があります。その都庁の試験を受けた生徒たちが悲鳴をあげたのが、上に挙げた英語問題でした。

このHelloとHello!の違いは、私自身も悩む難問中の難問でした。これを難問と考える理由は、ビジネスで人と人の関係を考えるときにメールで”!”(エクスクラメーションマーク)をつけてよいかどうかはその状況によるからです。人とのコミュニケーションは水物であり、たとえ表面上相手と仲良くなったように見えても、本当のところはわかりません。問題のようにしつこいほど前提条件を挙げたとしても同じでしょう。

メールを送信する際、自分がベンダー(サービス提供者)か顧客(サービス受取者)かによって取るべき態度は全く異なってきます。また、その国の文化・習慣によっても回答は異なってくるはずです。誰とでも気さくに仲良くなれるような南米系かもしれませんし、真面目な性格の国の人かもしれません。要するに対応の仕方は、状況次第で変化すると考えるのが正しいでしょう。

しかし、都庁の公式解答は、(イ)のHello!という”!”(エクスクラメーションマーク)が付いているほうを“正解”としました。


■自由度がない英語試験の意味

論文試験だと、基準点をクリアしていなければ正解になりません。論文試験は、唯一無二の正解があるわけではないため、採点のポイントは「答案の状況に合わせた思考プロセス」が正しいかという点を見ます。つまり、採点に対してある程度の自由度があるものです。

形に表すことのできないコミュニケーションについては尚更のこと。文化・慣習、立場によってその性質が変わってしまうコミュニケーションを、「”!”(エクスクラメーションマーク)を付けると正解!」と決めつけるのではなく自由度を持たせるべきと考えるのです。


■人材の国際化が図れない英語試験の意味

公務員の採用試験問題の一つで、「そこまで熱くならなくても・・・」と思う方もいるでしょう。
ただ、私はこのような試験問題に対して小学校の算数で、例えば4×6=24は正解で6×4=24を不正解とするような気持ちの悪い日本の教育と同じ感覚を抱きました。英語だけでなく、自由度を持たせた教育は人材育成にはとても重要なはずなのですが、今回のような問題に正誤を付けてしまうと視野が狭くなり、かえって人材育成に悪影響を及ぼす気がして仕方ありません。


■都庁のあるべき試験

都庁の今回の英語の問題に対して、むしろグローバルコミュニケーションを知る人の方が悩んだと思います。

人とのコミュニケーションに”絶対”を付けてしまうのは、これから国際社会を背負う東京都の一大採用試験にはあってほしくないことですし、あるべきではありません。
グローバルコミュニケーションの答えは試験ではなく、現場での自身の経験によってその場の嗅覚を養い、経験を積み重ねて対応能力を培っていくことが重要です。そのため英語への取り組み意識を間違ってしまうと、長期視点でみると人材の柔軟なコミュニケーション能力を奪ってしまうことに留意するべきだと思います。

その意味で、国際社会に適応する公務員を育成するならば、東京都には実践に近い英語試験にもっと取り組んでいただきたいと思うのです。


外資系金融の英語
齋藤浩史・JB SAITO
中央経済社
2016-08-27



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JB SAITO マサチューセッツ大学MBA講師

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