![]() 最近の経済ニュースを見ていると、地方銀行に関する話題がとみに増えた印象を受けます。試しに、私が購読している日本経済新聞電子版の検索機能で「地銀」と入れてキーワード検索してみると、5月17日付けの1日だけで14件の記事がヒットしました。 もちろん、記事の内容は様々ですが、典型的なのは以下のような「地銀の経営環境悪化」を伝えるものです。 「地方銀行の収益環境が厳しさを増している。上場地銀82行・グループの2017年3月期の連結純利益は合計1兆632億円と前の期に比べ11%減った。(中略)18年3月期も環境がよくなる要素は乏しく、純利益は5年ぶりに1兆円を割り込む見通しだ。」(「地銀、純利益5年ぶり1兆円割れ 18年3月期見通し」 日本経済新聞 2017/05/17付) 人口減少と都市部への人口流出により地銀の経営基盤が弱まる、というのはずいぶん前から言われていたことです。最近ではそれらに加え、超低金利が長期化することで「貸しても貸しても利益が出ない」という現象が顕著になり、経営の苦しさに拍車をかけています。 今回は、地銀経営の現状と、それが私のような地方で活動する士業にどのような影響を与えるかについて考えてみたいと思います。 ■地銀経営の実態は? まず、地銀経営の現状を数字で確認してみましょう。モデルとして私が居住する愛媛県エリア最大の地方銀行・伊予銀行の経営数値を確認してみます。 同行の貸出金残高の推移を過去5年間で見てみると、平成23年度の約3兆5,600億円から、平成27年度は3兆9,100億円余りと、この間一貫して計上額を増やしています。 一方、一般企業の売上高に当たる経常収益は、平成23年度の約1,100億円強から、平成27年度は1,000億円強と約8.4%減少しています。特に、平成25年度からは2期連続の減少で、グラフにしてみると、右肩上がりで増加する貸出金残高とちょうど反比例の関係にあることが分かります(下図)。 ![]() 冒頭の記事には、「利ざやが薄くなり、厳しい」「貸出金が伸びても利益が伸びない」といった地銀トップのコメントが載っていますが、実際の数字も明らかにこれらの発言を裏付けています。また、銀行の経営姿勢を批判するフレーズとして「預金ばかり増やして貸し出しを増やしていない」という言葉をよく聞きますが、正確には「預金も貸し出しも増やしているが利益が増えない」、まさに、「貸しても貸しても利益が出ない」というのが地銀の現状だと分かります。 ■収益確保のために地銀がやっていること。 本業の融資でもうけが出ない状況に加え、他の収益獲得手段にも手詰まり感が出ています。日本国債は金利が低いし、かといって外債は為替リスクや政治リスクがあります。唯一の稼ぎどころである個人型カードローンも、多重債務の温床になるとの批判から積極的には推進できません。 このような状況で、地銀が収益源として力を入れているのが、金融サービスによる手数料収入です。具体的には、投資信託や保険販売、不動産や経営コンサルティングサービスへの進出などです。 最近、他の士業仲間と集まると、「地銀の業容拡大」が話題になることがよくあります。地銀が収益獲得に走るあまり、これまですみ分けができていた各士業の業務分野を侵食し始めたという話です。 例えば、前述の投資信託や保険販売であればファイナンシャル・プランナー(FP)、不動産であれば宅建士、経営コンサルであれば、私のような中小企業診断士が業務分野でバッティングします。 また、これまでは独占業務があるから安心だと言われていた税理士や弁護士なども例外ではありません。人工知能やフィンテックの進展、企業内弁護士の増加といった環境の変化を考えると、地銀が自前でリソースをそろえて会計サービス、法務サービスを提供してくる可能性もあります。 地銀の地方経済における存在感は別格です。彼らには資金、人材、情報に加え、なにより絶大な信用があります。そんな地銀が本気になって金融関連サービスを事業化したら、個人でチマチマやっている士業はひとたまりもない――。私たちはそんな危機感を抱いています。 ■“地銀の総合スーパー化”がもたらすもの。 このような動きを、私は個人的に「地銀の総合スーパー化」と呼んでいます。総合スーパーとは、いわゆるGMS(ジェネラル・マーチャンダイズ・ストア)と呼ばれる、日本では1970~80年代に登場した大型スーパーマーケットのことを指します。かつてのダイエーや、イオン、イトーヨーカ堂などがその代表です。 ご存知のように、GMSの出現により個人経営の小売店や商店街は壊滅的な打撃を受けました。特に影響が大きかったのは地方で、町の八百屋さんや本屋さんは姿を消し、商店街はシャッター通りと化しました。 私のような個人開業の士業は、“専門サービス業の八百屋さん”だと思っています。地銀が今後、本格的に総合スーパー化=収益獲得手段の多角化を進めてきたとき、生き残るためには何が必要なのか。今から真剣に準備しておく必要がありそうです。 ただ、地銀も地方で活動する士業も、究極の目的は地域経済の活性化で共通していると思います。であるならば、吹けば飛ぶような個人事業主をイジメるようなことはせず、お互いの専門性を尊重して仲良くやりたいな…というのが私の本音だったりするのですが。 【参考記事】 ■東京ディズニーランドが客数減少で苦戦中という勘違い。そして「本当の課題」は? (多田稔 中小企業診断士) http://sharescafe.net/51009026-20170405.html ■富士フイルムの事業転換は、本当に"華麗な転身”なのか。 (多田稔 中小企業診断士) http://sharescafe.net/49986760-20161112.html ■マイナス金利下でもローソンが銀行をやる理由。 (多田稔 中小企業診断士) http://sharescafe.net/49724245-20161008.html ■シン・ゴジラでビルを破壊された三菱地所のBCPを勝手に考える。 (多田稔 中小企業診断士) http://sharescafe.net/49222132-20160802.html ■2018年開幕予定の「卓球プロリーグ」が本当に儲かるか計算してみた。 (多田稔 中小企業診断士) http://sharescafe.net/50185951-20161209.html 多田稔 中小企業診断士 多田稔中小企業診断士事務所代表 ![]() シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |