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メディアでも目にすることが多くなってきた、空き家問題。

少子高齢化に伴う空き家問題が深刻化しており、住む人がいなくなった家は管理が行き届かないまま荒廃して地域の景観を損ねたり、場合によっては不法な溜まり場にされたりして犯罪の温床にもなりうる。

数字でいえば、5年ごとに公表される総務省の統計調査によると国内の空き家数は2013年で820万戸を超え、今後の試算では2033年には2100万戸を超えると予測されている。

核家族化や単身世帯の増加などを要因に世帯数はこの10年ほど毎年50~55万世帯の増加がみられるものの、住宅の増加数はそれより多く一年で60~70万戸増加しているため、今後も空き家の数は増えていく。

■国が地方に強いる空き家対策

国は、防災・衛生・景観等への影響を鑑みて「空家等対策の推進に関する特別措置法」(注:以下空家特措法)を制定した。

空家特措法においては市町村の責務として、空家等対策計画の作成や、対策の実施、その他必要な措置を講じるよう努力せよと定めている。※空家特措法第4条

しかし空き家問題はこれまでの住宅事情と都市計画を経て招いた、国の構造上の課題である。地方自治体に対策を押し付け、計画策定を迫るような性質のものではないと筆者は考えている。

■空き家対策に苦慮する地方の街
将来的には首都圏の空き家が問題になるのは確実だが、現在空き家問題に直面しているのは地方である。

というのも、地方では若者が大学や就職で地元を離れたのち、そのままUターンして戻ってこないケースが多い。県からの転出が転入を上回り続ければ、その県はいわゆる転出超過となり人口の減少が懸念される。ちなみに筆者の居住地である静岡県は、昨年(2016年)は6390人の転出超過で、全国ワースト4位である。

若者が転出する地方の高齢化比率は高まり、そこで放置された空き家は前述の防災・衛生・景観等の環境面で好ましくないものになっていく。また殆どが空室となってしまった地方の古い団地や老朽化したマンションは、整備が不十分なまま荒れ果て、今後はスラムの様相を呈していくと予想される。

解決への取り組みとして、市町村は空家等対策計画を定めることや、対策計画作成のための協議会を設置するよう、国から求められている。※空家特措法第6条、第7条

果たして国が求めるような市町村の取り組みをもって、空き家問題が解決に向かう糸口は掴めるのだろうか。

■空き家の活用という施策
市町村が設置した空家対策協議会などを筆者が見聞してきた中で、空き家問題の解決を語る際によく提案されるのは、「空き家の有効活用」である。

築後40~50年を経過した古民家をおしゃれにリノベーション(改装)して再販する手法は、古民家再生事業としても注目されている。同様に古いマンションを再生して再販する、リノベーションマンションの動きも活発である。

また欧米では当たり前に行なわれている、不動産の売買時における「インスペクション」(中古住宅の検査~保証)が、2016年の宅建業法改正で日本でも広がりつつあり、前述のリノベーション物件の推進にひと役かっている。

筆者が経営する不動産会社においてもそれらの手法による不動産の再生を試みており、中古住宅の活用市場は今後も拡大していくであろうと実感している。

そのように活用した空き家を埋めるためには、住んでもらう世帯がいなければならないため、地方自治体は様々な施策で人を呼び込もうとする。

ほとんど全ての市町村では毎年生まれる人の数よりも亡くなる人のほうが多いため、人口のいわゆる「自然減」は避けられない。その為、転出する人よりも転入する人を多くして、人口の「社会増」を図るわけである。

かくして地方の空家対策協議会で策定される計画には、魅力ある住まいと暮らしやすいまちを作って市外から多くの人に転入してもらって世帯数を増やそう、という事項が盛り込まれていくわけだが、残念ながらそれらが空き家対策に奏効することはない。

■地方での空き家対策の限界
国が地方自治体に対策を迫ったために考え出されるこれらの施策が空き家問題の解決に結びつかないのは何故か。

古民家をリノベーションして誰かが引っ越してそこに住めば、べつの所に空き家が増えるだけである。活用した古民家の所有者にとっては喜ばしいことだが、空き家問題の解決には繋がらない。

また、魅力あるまちづくりで市町村の外から転入させることが出来たとしても、それはその市町村の世帯数が増えるだけである。空き家問題は既に国全体の問題であり、こちらが増えればあちらが減る、という図式では何の解決にもなっていない。

では地方は無策なのかと言えば、そんなことはない。そもそも市町村はその行政区域の単位でものを考えるのが当たり前の立場であるし、それが地域住民から課せられた責務でもある。場合によっては隣あった市どうしで空き家を埋める為の世帯の奪い合いになりかねないが、その調整を考えるのは国の仕事であり、市町村を責められない。

空き家問題は、もともと市町村に解決への取り組みを押し付ける性質のものではない。

■空き家の何が問題なのか
では空き家は本質的にどこが問題なのか。空家特措法でもっとも問題視されているのは、防災・衛生・景観等への影響を及ぼす空き家である。

倒壊などの危険が想定されるほど朽廃した状態や、衛生上有害となる恐れのある状態にある空き家を「特定空家等」と呼び、それらの持ち主が市町村長の改善勧告に従わない場合には、行政代執行による建物や立木の除却(解体処分すること)までありうる。※空家特措法第14条

ところが実際にその段階まで行きつく空き家は極めて少なく、よほど悪質なケースでない限り、個人の固定資産を行政が除却にまで踏み切るにはハードルが高い。

さらに、空き家の持ち主が自主的に問題を解消しようと自費での除却を考えたときであっても、ほとんどの場合において空き家は除却しない方が持ち主にとって制度上の利点が大きいという矛盾がある。

おおまかに言って、建物を除却して空き地にするよりも、住宅が建てられているままの方が土地の固定資産税がはるかに安いし、市街化調整区域ではいったん除却してしまうと再建築ができなくなる場合がある。

そこで今後は空き家を所有しているだけで持ち主にとって経済的な不利益が生じるような、いわゆるアメとムチでいえばムチの施策が予想されるが、もともと除却する経済力が無い持ち主の場合、それらは厳しすぎるムチとなる。

■空き家問題は国全体の問題
高度成長期~バブルを経てきた日本にとって、これからの空き家問題は非常に複雑だ。少なくとも地方における空き家の再活用や、持ち主に対するムチの政策などでは解決しない。

空き家の除却に対する税務上のメリットを設けたり、そもそも新築着工戸数を制限したり、都市計画法を大きく改正して低密に拡大した地方のコンパクトシティ化を推進する等々、空き家問題の解消には国がリードする施策が検討されない限り、解決に向けて前には進まない。

《参考記事》
■ドラマ「家売るオンナ」の三軒家万智にも売れない これからの地方の中古住宅 (玉木潤一郎 経営者)
http://sharescafe.net/49574910-20160919.html
■ポストSMAP争奪戦から考える 企業の価値創造 (玉木潤一郎 経営者)
http://sharescafe.net/49970392-20161110.html
■中小零細企業に必要な「仕事がうまい」人材(玉木潤一郎 経営者)
http://sharescafe.net/48242519-20160331.html
■「チェーン店の地方出店にはFC制導入を義務化してしまえ」という暴論をまじめに書いてみる (玉木潤一郎 経営者)
http://sharescafe.net/49736835-20161010.html
■映画「LA LA LAND」に見る、夢の実現と経済的成功(玉木潤一郎 経営者)
http://sharescafe.net/50853160-20170314.html

玉木潤一郎 経営者 株式会社SweetsInvestment 代表取締役

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