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7月5日に福岡県や大分県を襲った豪雨は甚大な被害をもたらした。住宅への被害も相当なもので、連日報道されているニュース映像を見ても日常生活に大きく支障が出ており、避難生活を余儀なくされている人々が1000人以上に及んでいる模様だ。

被災された方々の一刻も早い復興をお祈り申し上げます。

日常生活を取り戻すためには様々な問題に向き合わねばならないが、生活の拠点となる家屋の問題、被災をした場合の賃貸住宅の問題を取り上げて微力ながら解説してみたい。

■賃貸住宅が被災してしまった場合、入居者は家賃を払い続ける必要があるか?
今回の豪雨による被害の状況はいまだ明らかになってはいない。洪水で押し流されてしまった家屋もあれば、土砂が侵入してしまった家屋、雨漏りをしてしまった家屋など被害の状況は様々だろう。

入居者としては、それまでの生活が一変する。普段の暮らしができなくなっているのだから、賃貸旧宅に住んでいる方からすれば、家賃の全額を支払わなくてもよいのではないかと考えがちだ。

しかし、必ずしもすべてのケースで家賃の全額が免除されるということにはならないので注意が必要だ。

裁判例をみても、賃貸住宅に問題が発生したケースで、家賃の支払いを全額拒否したがゆえにトラブルとなっている例は少なくないのだ。

■家賃の支払いをしなくてよくなるケースとは?
家賃の全額を支払わなくてよいのは、建物の使用が全面的にできなくなっているケースに限られる。状況にもよるが、大量の土砂が家屋内のいたるところに侵入してしまったような場合は、土砂を取り除き清掃が完了するまでの間は家賃の支払い義務はないものと思われる。

また建物が完全に倒壊してしまっているようなケースでも家賃の支払い義務はなくなる。契約の対象であった家屋がなくなってしまったことで契約自体が終了してしまうからだ。この場合は契約が終了してしまっているので契約の清算をすることになる。預けた敷金があれば、家賃の滞納などがなければ、原則として返却してもらえるだろう。

一方、建物の毀損が一部分にとどまるようなケース、例えば屋根が一部損壊し、一部屋のみが使えないような場合は、家賃の全額の支払義務がなくなる…ということにはならないことが多い。このようなケースでは家賃の一部減額となる。

一部減額の場合、どの程度減額ができるかについては、計算方法が法律で決まっているわけではなく、あくまでケースバイケースだ。裁判例の中には、使用できなくなった部分の床面積の割合に応じて家賃の減額を認めた例もあるが、必ずしも全部がそうなるわけではない。

■まずは家主や管理会社と協議をすること
家賃の減額の幅はケースによって異なるのだが、入居者の中には全額支払わないという対応を取る人もいる。しかし、これはトラブルになりやすい。

家主は、家賃収入を得るかわりに入居に適した物件を提供するという義務を負っている。賃貸住宅が震災の被害にあってしまった場合、それはもちろん家主のせいではないわけだが、たとえ自分のせいでなくても、入居者のために家屋を修繕する義務を負うことになる。

なかには費用の問題などから、なかなか物件を修理してくれない家主もいる。

そうなると、しびれを切らした入居者としては、家賃全額を支払わないという対応に出る者も出てくる。

ただすでに述べたとおり、必ずしも家賃全額が免除となるとは限らないので、家主から逆に家賃の未納を理由に退去を求められるなど、トラブルに発展してしまうことも珍しくない。

賃貸住宅の契約は、住み続ける以上家主との関係が続いていく。同じ物件に住み続けたいと希望するのであれば、今後の関係を考えた場合、特に不要な紛争は避けるべきだ。

まずは家主や管理会社としっかり協議をすることが大切だろう。今回のように地域一帯に甚大な被害が発生しているようなケースでは、修繕が思うように進まないこともあるので、修繕までに要する期間を含めて、一つずつ確認をしながら進めていくべきだろう。


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及川修平 司法書士


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