悩むビジネスマン

日本テレビ系列で7月8日からスタートした土曜夜22時放送のドラマ「ウチの夫は仕事ができない」は、勤務先で「仕事ができない社員」という烙印を押された夫を、妻が二人三脚で支えていく話を中心にして展開される、若い夫婦の「夫婦愛」をテーマにしたドラマです。また「仕事ができるとは何か?」ということを考える意味でも、お奨めのドラマです。

■第3話のあらすじ
ドラマは、大手イベント会社の制作部に勤務する錦戸亮さん演じる小林司が、会社から仕事ができないお荷物社員であるという評価を受けていることを、松岡茉優さん演じる妻の小林沙也加が知り、夫を出来る社員にするために毎回悪戦苦闘する、といった話を中心に展開されます。

7月22日放送の第3話では、司はショッピングモールの集客イベントの企画を任されます。その企画を、妻の沙也加や江口のり子さん演じる司の姉みどりと一緒に考えて上司に提案したところ、岸谷五朗さん演じる著名デザイナー「レイジカキタニ」を起用する案が採用され、司が提案した企画とともに、仕事ができるけれど生意気な藪宏太さん演じる後輩の田所陽介が提案したTシャツ制作の企画をミックスした案で進行することになります。

そこで司と田所は、Tシャツのデザインを依頼するために、二人でレイジカキタニのオフィスを訪問します。その際司は、レイジカキタニの著書にあった彼の好物の「山形のサクランボ餅」を持参し、心象を良くすることに成功します。

しかし、レイジカキタニにデザインを依頼したところ、レイジカキタニはデザインの制作には2か月かかると伝えます。しかし田所は、Tシャツ制作の納期は2週間しかない事実を隠して、表面上2か月の納期を容認して、契約を取り付けようとします。田所の魂胆は、本当の納期を隠して契約を結び、それを先に世間に公表してしまえば、契約後に納期が短縮されたとしても、レイジカキタニは納期短縮に応じざるをえなくなるというものでした。しかし司は田所を制して、一度結論を持ち帰らせてもらうことにしたため、田所は司に激怒します。

その後司は、Tシャツの制作工場を訪れ、徹夜で作業を手伝うことにより、納期を1週間延長してもらうことに成功します。再度レイジカキタニのオフィスを訪ねた司は、同行した田所が「納期は2か月待つ。」と言うのを制し、正直に納期は3週間後であることと、レイジカキタニにデザインを依頼した理由を伝えます。しかし田所の魂胆を見抜いていたレイジカキタニは、彼らの依頼を一旦断ります。

その後、司の熱意に動かされたレイジカキタニは、FAXで司と田所宛にTシャツで使用するデザインを送り、Tシャツへのデザインの使用を許可します。それにより司は、レイジカキタニがデザインしたTシャツの制作に取り掛かることができるようになります。以上が、第3話のあらすじです。

■仕事の成果を上げる行動特性
司はなぜ勤務先のイベント会社で、「仕事ができない社員」という烙印を押されることになったのでしょうか? おそらく過去にも司の正直で人に優しい性格が災いし、自社の利益よりも顧客や取引先の利益を優先して動いてしまい、結果として自社の利益を損ねる結果になるケースが散見されたのだろうと思います。

ドラマの中で、司の上司で佐藤隆太さん演じるチームリーダーの土方が、司に対して「おまえの仕事は何だ?」と訊ねるシーンがあります。司は「結果を出すことです。」と答えます。しかし最近では、結果のみならず、結果を出すためのプロセスにも着目し、「プロセス評価」を積極的に人材の評価に取り入れる企業が増えています。結果だけではなく、その結果に至るまでのプロセスが望ましいものかどうかも併せて、評価の対象にするという傾向が強くなっているのです。

また一部の外資系企業等では、プロセス評価の中に「コンピテンシー評価」を取り入れています。「コンピテンシー」とは「仕事で成果を上げるための行動特性」のことであり、通常職種別・階層別に、「成果を上げる行動特性」が細かく規定されています。

司はレイジカキタニを訪問する前に彼の著書を読み、その中でレイジカキタニが「山形のサクランボ餅」が好物であることを知り、それを持参したため、レイジカキタニの心象は良くなりました。また司は、レイジカキタニがデザイン制作にかかる期間として、2か月かかることを知り、Tシャツ制作工場に納期を少しでも短縮してもらうために、徹夜で作業を手伝うことで信頼を得て、納期を2週間後から3週間後に延長してもらうことにも成功します。

司が取った行動は、通常は会社でお荷物となっている「仕事ができない社員」が取る行動ではなく、逆に「仕事ができる社員の行動特性」に合致した行動であると考えられます。よって、最終的にレイジカキタニがデザインを制作してくれることになった訳ですから、司は結果評価のみならず、コンピテンシーの面でも高く評価されるべきだろうと思います。

一方で、「仕事ができる後輩」として描かれている田所は要領がよく、レイジカキタニの著書を読まずにオフィスを訪問し、著書の中にあったレイジカキタニの好物である「山形のサクラ餅」は、まるで自分が準備したかのように主張し、司の手柄を横取りしようともしています。またTシャツ制作の納期を隠して、強引に契約を結ぼうとします。

仮に田所の魂胆通りレイジカキタニとの契約に成功したとしても、契約後にレイジカキタニが納期短縮に応じる確約もないため、万一レイジカキタニが納期短縮に応じなかった場合はトラブルとなり、勤務先のみならず依頼主であるショッピングセンターにも多大な損害を与えるリスクが生じます。よって田所の取った行動は極めてハイリスクであり、かつコンプライアンスにも抵触する可能性があるため、通常の企業では叱責されることはあっても、評価されることはまず無いだろうと推察されます。

■コンピテンシーの分類とレベル
ある広告制作関連の企業では、制作部門に所属する一般社員のコンピテンシーに関する評価項目を「業務上の知識・スキル」「社内他部門との関係」「得意先・取引先との関係」「進行・コスト管理」「新規業務への意欲」5項目に分類するとともに、それぞれのコンピテンシーレベルを5段階のレベルに分けて策定し、人材の評価や育成、採用等に活用しています。

例えばその企業では、「進行・コスト管理」に関する領域では、「短納期、低価格、高品質など困難な状況のおける進行管理、コスト管理にも折衝力や人脈などを生かし、競合他社では困難なレベルの対応力を発揮し、得意先や取引先から高い評価を得ている。」といった行動特性を最高レベルとして評価することにしており、それに近い行動を取って成果を上げた社員に高い評価を与えています。

逆に最も低いコンピテンシーとして、「進行管理、コスト管理を行うための知識、意識に欠けており、業務に支障をきたすケースが多い。」といった事例を上げ、そのような知識。意識の欠如がみられる社員の教育を徹底するなど、人材教育等にも活用しています。

今回の司のケースで考えると、司はレイジカキタニの起用に成功するだけではなく、その結果を導いたプロセスとして、レイジカキタニの著書を予め読了し、彼の好物を持参することで、レイジカキタニの心象を良くするだけに留まらず、Tシャツ制作工場の作業を徹夜で手伝う等の行動を通じて、Tシャツ制作工場の信頼を得て納期の延長交渉にも成功するなど、優れたコンピテンシーを発揮しています。

確かに司のような社員は、一見「バカ正直」で人が良く、かつ押しも弱いため、仕事ができる上司からは、仕事ができない社員として見られがちな側面があることは否めません。一方で、司のような部下の長所にも着目し、それを伸ばすような指導を行うことも、上司に求められる重要な役割となります。

■今後のコンピテンシーを伸ばす指導に期待
前述のように、司は正直者で押しが弱いので、交渉の場面等では、その能力を発揮できないケースが過去にも散見されたのだろうと推察されます。しかしながら、Tシャツ制作工場との納期交渉に見られるように、優れた交渉能力も有しているわけですから、上司である佐藤隆太さん演じる土方リーダーや、壇蜜さん演じる直属の上司である黒川晶が、司がもつ長所にも着目して、結果の追求のみならず、コンピテンシーを伸ばす指導も併せて行ってほしいと思います。

今後、土方リーダーや黒川晶の指導により、司は優れたコンピテンシーを発揮して仕事を成功に導き、「ダメ社員」という烙印を押された評価を覆すことができるのでしょうか? 第4話以降の展開が楽しみです。

【参考記事】
■中高年社員は、本当に「会社のお荷物」なのか?
http://takaokawasaki.blog.fc2.com/blog-entry-47.html
■企業の成長・発展のために活かしたい、若手社員の発想力
http://takaokawasaki.blog.fc2.com/blog-entry-45.html
■静かに進む若手人材の早期選抜とシニア人材の流動化
http://sharescafe.net/50939556-20170327.html
■成否が気になる、三越伊勢丹の「コト消費市場」への参入
http://sharescafe.net/50722168-20170224.html
■中小企業を宝の山に変える「起業家人材」の活用
http://sharescafe.net/50518502-20170126.html

株式会社デュアルイノベーション 代表取締役
経営コンサルタント/経営士  川崎隆夫 

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