0002ファイナンス


「ファイナンス理論」というと、金儲けのための理論だと思う人が多いだろう。また、高等数学を駆使して難しい学問だというイメージを持たれる方もいるかもしれない。

むろん、そうした側面が全くないとは言えない。しかし、ファイナンス理論のエッセンスはそうしたものとは別である。そしてそれを理解することは、経営について、巷間言われていることの多くに根拠を与えてくるのである。

■リスクとリターン
「リスク」を危険の意味でとらえる人が多いが、それは違う。本来の意味は「振れ幅」「不確実性」である。

たとえば、100円を投資した場合、「ゼロになるかもしれないが、200円になるかもしれない」選択と、「90円になるかもしれないが110円になるかもしれない」選択の二つがある場合、前者を「リスクが高い」と言う。

ここからわかることは「リスクを取らないとリターンは得られない」ということだ。ノーリスクでリターンが得られるかのような「儲け話」が巷では流布している。こうした詐欺まがいの話は後を絶たない。しかし、「うまい話」はあり得ないのだ。リターンを得るためにはリスクを取る必要が必ずある。

もちろん、成長や利益というリターンを得るためにも先行投資などのリスクを取る必要がある。失敗した場合にどこまでの損失ならば耐えられるかを冷静に分析したうえでリスクを取っていく姿勢が求められるのである。

■リスク分散
リターンを必要以上に減らすことをせずに、リスクを下げる方法はある。それは「リスク分散」である。簡単に言えば、リスクを取る先を複数にすることだ。

その際の原則は二つだけ。ひとつは、なるべく相関の弱い組み合わせにする。もうひとつは、できるだけ多くのものを組み合わせる、である。

相関が弱い組み合わせとは、一方がうまくいかなかった場合、もう一方がそれを補う関係になっている組み合わせのことが。たとえば、円高になると利益が出る傾向にある事案A、円安になると利益ができる傾向にある事案B、このふたつを組み合わせれば、円高になっても円安になっても、補い合ってある程度の利益を確保することができるだろう。

むろんふたつだけでは、プラスマイナスゼロになる可能性が高い。他の組み合わせも考えて、できるだけ多くのものを組み合わせる必要はあるだろう。

この考えは人材活用の面でも活かすことができる。同じような人材ばかりを集めてしまうと、ある局面では強さを発揮できても違う局面が来ると対処できないことも起こりえる。多様な人材を登用することで、さまざまな場面で誰かが力を発揮して対処していけるだろう。ダイバーシティは、リスク分散の視点からもやるべき施策なのだ。

■現在価値と将来価値
「今すぐもらえる1万円と来年もらえる1万円とはどちらに高い価値があるか」
と聞かれたらどう答えるだろうか。おそらく多くの人は「今すぐ」と答えるのではなだろうか。

それは当然のことだ。1万円をもらって銀行に預ければ利子がつく(最近の金利は低いですがゼロではない)。また、来年確実にもらえる保証も実はないのだ。1年待つことの対価、不確かさに対する対価が上乗せされないと、つり合いはとれないのである。

つまり、何の条件もなければ現在価値が一番高いことになる。だから、決断はすぐにするほうが価値は高いと言える。先送りをすればするほど、待つことの対価を払うことになるからだ。

決断と言うと何か新しいことをするのを決める、ととらえられるかもしれない。しかし、そうではない。「やらない」と決めることも決断である。一番悪いのは、やる、やらない、を決めずに先送りすることなのだ。

またその際、考慮しておかなくてはいけないことに「埋没費用(サンクコスト)」という考え方がある。現在より以前に使われた費用のことだが、これは価値に一切の影響を与えない。この費用を価値判断に加えてはいけないのである。

たとえば、いままで1千万円をつぎ込んだ事案Cがあるとする。しかしこの事案、どうやらものになりそうにない。利益を生みそうにないとわかってきた。こうした場合、いままでいくら使ってきたかにかかわらず、「止める」との決断が必要になる。

ところが多くの人は「1千万もつぎ込んだのにもったいない」と思ってしまう。つまりつぎ込んできた1千万に価値を見てしまうのだ。しかしこれは幻想である。過ぎ去ってしまったことに意思決定を左右されてはいけない。サンクコストの概念を知っていると、決断を曇らせるような考えを排除できるのである。

以上、簡単にファイナンス理論のエッセンスと経営の関係について紹介してみた。最先端のファイナンス理論は確かに高等数学を駆使している。しかしその基本となるものは、四則計算で十分に理解できる内容だ。なにかを選択する局面で、大いに助けになってくれる考え方である。一度基本だけでも、学んでみてはいかがだろうか。

《参考記事》
■「働き方改革」を矮小化させないために~サイボウズから本当に学ぶこと(中郡久雄 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/51718821-20170719.html
■ふつうの会社が輝くために~ミスターミニットに学ぶ 現場を活かすプロデュース力~(中郡久雄 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/51067642-20170414.html 
■あらゆる弱点には長所がある~弱点で進化を起こし、集客を成功させた水族館プロデューサーの方法~(中郡久雄 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49653605-20160930.html
■創業1年の家電ベンチャーが、37種59製品をリリースできた秘訣 (中郡久雄 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49418238-20160830.html
■一億総疲弊社会を招かないために~(書評)『職場の問題地図―「で、どこから変える?」残業だらけ・休めない働き方』~(中郡久雄 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49922256-20161104.html

中郡久雄 中小企業診断士

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