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8月22日、テレビ東京系列で放映された『ガイアの夜明け~〝常識破り〟で市場を拓く!』。その中に、20代の女性社長が登場していた。

「先人たちの知恵と、今を生きる私たちの感性を、混ぜるのではなく『和える(あえる)』ことで、伝統をつなぎ、次世代の人々が誇れる日本の伝統を生み出す」ことを目指して「株式会社和える」を起業した矢島里佳さんである。

衰退の一途をたどるニッポンの伝統工芸。「その技術を次世代につなげたい」と奮闘する若き女性社長がいる。手がけるのは全国の伝統職人が作る0歳から6歳向けのブランド開発だ。この「赤ちゃん・子供×伝統工芸」の取り組みは、伝統工芸の危機を救うのか?ターゲットを変え新たな価値を生み出す、その挑戦を追う。(「ガイアの夜明け番組ホームページより」)


「和える」の創業は2011年3月。それから6年。新しい価値を生み出してきているのだろうか。理念に向かって前進しているのだろうか。番組を見ながら、以前、お話をうかがったときのことも思い出しながら、「和える」が取り組んできたことを振り返ってみた。

■本物にこだわる
「和える」の取扱製品は、本藍染の出産祝いセット、砥部焼や大谷焼、津軽塗りを使った器やコップなど、伝統産業の技術を活かしたものばかりである。子供向けだからといって妥協することはない。本物を届ける姿勢を貫いている。

番組で取り上げられた製品は、人気シリーズ『こぼしにくい器』に新たに加わった栃木県の益子焼。日本の所作が自然に身につく『はじめてシリーズ』の最後のピースとなる香川県の庵治石(あじいし)で作った箸置き。

どちらも職人が精魂込めて作った商品である。伝統の技術を受け継ぎながら、いままでにはない場面で使うことで新しいマーケットを生み出している。それは、衰退する伝統産業を活性化するとともに、子どものころをから本物の伝統工芸品を利用する機会を提供している。子どもが使えば親も使う。使う人が増え、伝統工芸品が売れるとわかれば新たな挑戦をする職人もまた増えてくるだろう。伝統が次世代につながっていくサイクルを作り出そうとしているのだ。

矢島さんはなぜ伝統工芸に魅せられたのだろうか、それを次世代の子どもたちに届けようと考えたのだろうか。

■誰もやっていないから自分で始めた
日本の伝統文化に直接触れたきっかけは、中学の時に入部した「茶華道部」だった。顧問の先生にも恵まれ、日本の伝統にのめり込んでいった。

さらに、高校卒業間際、テレビ東京の「TVチャンピオン2 なでしこ礼儀選手権」に出場し、優勝を勝ち取る。こうした経験を通して、「日本の伝統文化が大好きなんだ!」という自分の想いを、自覚するようになっていった。

大学進学後も日本文化に関わる活動を続けていた。その一つとして、自ら企画を持ち込み、JTB西日本の会報誌に伝統工芸の若手職人を紹介する記事の連載を持つことになる。取材を通してさまざまなことを学んだ。伝統工芸の歴史、商品を作り上げるまでのプロセス、技術の本質。そして多くの職人と出会った。

取材を続けるうちに、
「職人さんはみな、熱い想いと技術を持っているのに、日本の伝統産業はなぜ衰退していくのだろう?」
という疑問が繰り返し湧いてくるようになった。理由を考え続けた結果、
「伝統産業を知る機会がないからだ」
という答えにたどり着く。子どもは大人から「知る機会」を与えてもらわなくては、知ることができない。知らずに育った子どもはほとんど伝統産業に興味を持たない。だから、まず伝統産業を子どもに知ってもらい、使ってもらう機会を作る。それが伝統産業の魅力を継承していくことにつながるのではないか。そう考えた。この想いが「和える」起業につながっていくことになる。

最初から起業すると決めていたわけではなかった。『伝統産業×赤ちゃん・子供』のために仕事をしているような会社に就職しようと考えた。しかし、どんなに探してもそんな会社はみつからない。ないなら自分で作るしかないと考え、周囲の大人に相談してみるが
「ビジネスとして成り立たない」
と言われてしまう。しかしそれは「誰もその可能性に気付かず、挑戦していないから」だと感じていた。

少子化の問題を指摘されることもあった。子ども向け製品を扱うのは衰退産業だと。だが子どもが少なくなる分、一人の子どものためになにができるか、より考えるようになる。掛けるお金の額も大きくなるのではないか。「少子化は逆に追い風のはずだ。」と考えた。

それに、自分ひとりが食べられる規模で始めればいい。その程度ならできるだろう。ビジネスとして成立するという確信が持てるようになった。そこうして、起業を決意したのである。

■リスクを背負う覚悟
事業を進めていく中で、覚悟を決めて取り組んでいることがある。

「職人さんが作ってくださったものはすべて買い取る。在庫は会社で管理する」

ということだ。「和える」は在庫リスクを自ら引き受けている。現場で話を聞いていくうちに、職人が多くの在庫を抱え苦しんでいる現状に気付いた、そのことが伝統産業の革新を妨げていることもわかってきた。

なぜ職人に仕事を発注しているのだろうか。欲しいものが自分で作れないからだ。だとしたら在庫のリスクは発注している自分が負うべきだ。そう考えた。

在庫リスクを受注者に負わせることは多い。現在の経営理論では、在庫を持たないことが良いとされている。しかしこの形が続いていけば、製造業が過度にリスク負担を負うことにな、日本のものづくりは衰退していってしまう。そうした危機感もあって、自分の会社でリスクを取る覚悟を決めたのだ。

だから価格も、「なるべく安く、購入しやすい価格」にはしていない。それでは会社としても厳しいし、職人に無理をお願いすることになってしまう。無理を重ねて職人から「もう『和える』には作らない」と言われてしまったら、あるいは、職人が製作を続けられず廃業してしまったら、伝統産業の技術を子供たちにつなぐという「和える」の目的が叶えられなくなってしまう。それでは本末転倒だ。だからあくまで、みんなが働いた分のお金を支払うことを前提に価格を設定している。

これも現在の経営理論から見ると常識外れだろう。消費者により安く提供することが正しいとされているからだ。しかし、「価値」がきちんと伝われば買ってくれるお客様はいる。その価値を伝えていくのは、自分たちの責任だ、と考えている。価格面でも自分たちでリスクを取る覚悟を決めている。

■変わらずに生き残るためには変わらなければならない
伝統産業を「保護」の対象として見てしまう人は多い。補助金をつけてお金を回して、との発想になりがちだ。しかしそれでは延命措置に過ぎない。本当に伝統産業を次世代につないでいくには、新たな市場を開拓し、伝統を生かしながらいままでとは違う製品を作り出していくしかない。伝統が変わらずに生き残るためには、変えていかなくてはいけないこともある。

そのためのアイデアは数多く持っているという。新商品の数々、旅館やホテルに、職人の技を活かした特別な一室を設え、宿泊を通じて日本や地域の魅力との出逢いを生み出「aeru room」という取り組み、など本当にアイデアはあふれ出ているのだと思える。こうして未来を開拓し続けて、文化を生み出したと言われるような企業になることが近い将来の目標ということだ。

そして、いま「和える」の製品を使っている子どもたちが大人になったとき、「和える」があるから日本人でよかったと思ってもらいたい、という夢を以前、語っていたことがある。

矢島さんの挑戦はまだ始まったばかりだ。その挑戦を見ていると、本当に日本の伝統を愛し、大切にするとはどういうことなのか、考えさせられることが多い。

20代の若者が伝統を次世代につなごうと挑戦をしているいま、私のようなバブル世代、その上の新人類と呼ばれた世代は何をすべきなのか、このままでいいのか、問いかけられている。

【参考記事】
■「働き方改革」を矮小化させないために~サイボウズから本当に学ぶこと(中郡久雄 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/51718821-20170719.html
■ふつうの会社が輝くために~ミスターミニットに学ぶ 現場を活かすプロデュース力~(中郡久雄 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/51067642-20170414.html
■創業1年の家電ベンチャーが、37種59製品をリリースできた秘訣 (中郡久雄 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49418238-20160830.html
■引き受ける勇気~【書評】『町工場の娘~主婦から社長になった2代目の10年戦争』(中郡久雄 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/43083984-20150127.html
■「反対するなら対案を出せ」は正論か? 中郡久雄
http://sharescafe.net/34779158-20131112.html

中郡久雄 中小企業診断士

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