GDPと税収


消費税が選挙の争点の一つですね。そこで、増税について考えてみました。そもそも増税は必要なのか、増税するとすれば、何税が良いのか。


■そもそも増税は必要なのか?
日本政府の財政赤字は巨額で、借金も積み上がっていますから、財政再建が必要な事は間違いありません。しかし一方で、「景気は税収という金の卵を産む鶏」ですから、景気を殺してしまわないように慎重に進める必要があります。

その意味では、前回の消費税率引き上げのインパクトが大きかった事を考えて、「増税しない」「増税は実施するが、増税分の半分は歳出増で景気への影響を抑える」といった対応は評価されるでしょう。

しかし、それ以前に、消費税の増税に関しては、そもそも他の税ではなく、なぜ消費税なのか、という議論が必要です。

■累進課税か否か
消費税は金持ちも貧乏人も税率が同じなので、貧乏人に負担が重い逆進税だ、と言われます。しかし、本当の問題は、全員同金額である国民年金保険料が「増税」されている事でしょう。最近の国民負担率の推移を見ると、年金の負担が大きく増加し、消費税率も引き上げられています。一方で、累進的な税である法人税(株を持っているのは主に富裕層だから)は、減税となっています。

そうであれば、次の増税は累進課税を強化する方向が望ましいのかも知れません。単に過去に戻ろう、というだけではなく、税体系全体(社会保険料を含めて)として、どの程度の累進性が望ましいのか、といった深淵な議論は勿論必要ですが、難しい問題なので、政治家に任せましょう(笑)。

■消費税が優れているとは思われない
増税というと消費税、と決めてかかっている人は多いのですが、消費税が優れた税だとは、筆者にはどうしても思われないのです。逆進的だから非課税品目を作ろう、などという複雑な税になるのであれば、なおさらです。

まずは痛税感が大きい事です。内税方式ならばともかく、100円の物を買うたびに「108円です」と言われて税の事を思い出さされては、消費意欲が減退するだけです(笑)。

税率が上がるたびに、駆け込み需要と反動減という余計な景気変動をもたらす点も、問題です。万が一にも反動減が景気を腰折れさせて巨額の景気対策が必要となったら、目も当てられません。ただでさえ、景気は税収という金の卵を産む鶏なのに。

「所得税は現役世代だけが負担するが、消費税は高齢者も幅広く負担する」と言われますが、それは近視眼的な理解です。消費税率が引き上げられると、消費者物価指数が上がります。すると、「インフレスライド」によって高齢者に支払われる年金も増額になるので、実質的には高齢者は消費税を負担しないのです。まあ、老後の蓄えを預貯金で持っている人は、インフレで目減りするかも知れませんが。

■相続税は痛税感が小さい
相続税の最大の利点は、痛税感が小さい事です。「棚からボタ餅が落ちてくるのを待っていたら、本当に落ちて来たけれど、期待していたよりは小さかった」といった程度でしょう。自分で稼いだ金に課税される所得税を増税しすぎると、「働くのがバカバカしい」と考えて勤労意欲を損なう人が出て来ますが、相続税にはそうした事もありません。

筆者が特に推すのが、配偶者も子も親もいない被相続人の場合、高率の相続税率を課す事です。兄弟姉妹が相続するわけですが、文字どおりの棚ボタであり、相続させなくても良いくらいです。公平の観点からも、子がいない被相続人の財産を国が召しあげるのは理に叶っています。彼らが生前受け取っていた年金は、他人の子が支払った年金保険料を原資としています。そうであれば、使い遺した分は次世代のために国に提供するのが望ましいでしょう。

効果としても、大きな効果が期待出来ます。生涯未婚者や子のいない夫婦が増えているので、数十年経てば巨額の相続税収が見込まれます。高齢者は平均すれば多額の資産を持っています。長生きした場合に困らないように、と考えて倹約して暮らすのですが、実際にはそこまで長生きしない人も多いので、そこそこの財産を遺します。特に、子がいない高齢者は頼れる人がいない分だけ多額の資産を大事に守っている、と期待されるわけです。

■固定資産税増税で東京一極集中を是正
東京一極集中は、深刻です。痛勤時間の長さ、劣悪な住宅事情等に加え、大災害の際に渋滞で逃げられない、といった問題もあります。個々人にとっては東京に住む事が合理的なのでしょうが、皆が東京に住むと皆が困るわけです。

劇場火災の時、個々人にとって合理的な行動は、非常口に向かって走る事ですが、全員が同じ事をすると全員が困ります。こうした事態を「合成の誤謬」と呼びます。劇場管理者としては、観客に整列を求める等が必要になるわけです。

同様に、政府としては各人に東京に住まないように要請したい所ですが、それは容易な事ではないので、金銭的なインセンティブで問題を解決しよう、というわけです。東京は地価が高いので固定資産税が高くなります。よほど収益力の高い企業でないと割にあいません。そこで、東京から地方に移転していく企業が増え、それにつれて従業員も地方に移住するようになり、自然と東京一極集中が緩和され、地方創生が実現していく、というわけです。

もちろん、長年住み慣れた東京を離れたくない、という高齢者もいるでしょうから、そうした人には配慮が必要でしょう。たとえば現物納税として、土地の共有持分を毎年2%ずつ国に移していき、50年経過した時点で土地を国に明け渡す、といった制度は要検討だと思います。


【参考記事】
■少子高齢化による労働力不足で日本経済は黄金時代へ(塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/49220219-20160809.html
■老後の生活は1億円必用だが、普通のサラリーマンは何とかなる (塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/49185650-20160728.html
■新人経済記者に「景気の見方」をアドバイスしてみた(塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/51731852-20170720.html
■とってもやさしい経済学 (塚崎公義 大学教授)
http://ameblo.jp/kimiyoshi-tsukasaki/entry-12221168188.html
■国債暴落シミュレーション:Xデーのパニック(塚崎公義 大学教授)
http://ameblo.jp/kimiyoshi-tsukasaki/entry-12199602230.html

塚崎公義 久留米大学商学部教授


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