政府系金融機関の商工組合中央金庫、商工中金がおこした制度融資(危機対応融資業務)の不正問題が問題になっている。 この制度融資は、震災、円高、デフレなどで一時的に業績が悪化した企業への融資にあたって、国がその利子負担のうち0.2%を補給するというもの。大規模な災害や長引くデフレを社会の危機ととらえ、そこからの脱却を図ろうといういう趣旨だ。 商工中金では、その融資先の企業の認定にあたって書類改ざんなどの不正処理が行われていた。 不正に関与した支店は全体の9割にもおよび、処分者も営業関連職員の3分の1を占める見通しで、当然ながら経営陣が責任を問われることは免れない。社長は報酬をゼロにした上で、引責辞任の見通しとなっている。 今回なぜこのような事態を招いたのか、企業と金融機関との融資の現場から考えてみたい。 ■危機対応だったはずの制度融資 東日本大震災などで被災した企業が再起しようとするにあたり、その資金繰りを国が支援しようとするのは、企業にとっては非常にありがたいだろう。 大企業が放漫経営で業績悪化したときには国が公金を投入してでも救済しながら、真面目な経営をしていた中小企業が災害などから立ち直ろうとする際にはまったく支援しないというのではおかしい。 さて、震災が起きた2011年に災害復興の特別貸し付けとして始まったこの制度融資だが、2014年にはデフレも危機として認定される。不正はこの「デフレ」と認定される定義が曖昧だったことから起きる。 制度融資の取り扱い件数約22万件のうち、前述のデフレに対応するための融資は5万9000件と4分の1以上を占め、不正の多くは結果的にこのデフレ融資の取り扱いで行われた。 ■融資先企業はどのように認定されるか 制度融資の対象となるデフレ危機の認定にあたっては、売上等減少、雇用維持、経営改善計画の策定などの証明が求められる。 最も決め手となる売上等減少は、当年と前年の同じ時期の3ヶ月分の試算表を提出し、前年よりも当年の方が減少していることで認定される。 だがどんな企業であっても、事業年度中のどこの3ヶ月を選ぶかで、景況に関係なく売上は増加していたり減少していたりするだろう。意図的に減少している3ヶ月を選んで提出すれば制度融資の対象となり、この時点で既に融資本来の趣旨にもとることになる。 しかしそこまでは不正ではなく、むしろ制度の不備であり責められるべきは政府であろう。 ■なぜ不正が行われたか もともとの認定基準があいまいな上に、対象になりにくい企業でも書類の出し方によって融資先になりうる。最初は月次を選んだり融資の稟議書をうまく作成したりする程度だったとしても、それらが難なく承認されていく中でエスカレートしていった事は想像に難くない。 この制度融資は、前述のように危機によって経営が悪化した企業の資金繰りを支援するためのものである。 そのため、プロパー融資のように支店にノルマを課して営業推進をかける性質のものではない。しかし実際には、支店と行員には融資獲得のノルマが課せられた。 企業と金融機関との融資の現場では、借りたい企業が金融機関に頼んで貸してもらうケースと、貸したい金融機関から企業に営業を仕掛けるケースとがある。 後者は当然ながら返済の見込みが高い企業に対して行われる。現場にノルマが掛けられればそういう営業活動が盛んになる。そして業績のいい企業には、貸したい金融機関同士が競合する。 競合した場合は貸し出し金利で競うことになるのだが、そこに公金による利子補給のアドバンテージを活かしたとしたら、そしてその為の不正だとしたら、これは許されない。 制度融資の利子補給は我々の税から支出している。せっかく国が設けた制度を現場が不正に実行するようでは、政府系金融機関としての信頼を大きく損なう。不正をした職員が責められるのは当然であるが、問題はそこだけにとどまらない。 危機対応であったはずの制度融資の貸し出し先の認定プロセスがあまりにも雑である点は国が責められるべきだし、何より融資の理念を無視してノルマを課した商工中金の経営陣の責任は大きい。 ■商工中金の存在意義とは 商工中金の歴代理事長・社長には、旧通産省や経産省からの天下り官僚の名前がならぶ。政府系金融機関である商工中金と監督省庁との、官官癒着といえる。 かつて小泉内閣の行財政改革のもと、段階的に民営化を目指すとされたはずだったが、大きな経済危機や大震災を経て、政府の関与維持の必要性が再認識された。 つまり商工中金は、地方銀行や信用金庫と競合すべき立ち位置にはいない。前述のように国の利子補給を背景に低金利で融資を奪取するようでは民業圧迫であろう。 今回のような不正が起きるのであれば、制度融資を商工中金に独占販売させる理由はない。まして官僚に企業経営は向かない。その事実は、いくつもの例で証明されている。 筆者の私見ではあるが、政府系金融機関として民間金融機関には融資できない事業への支援に徹するか、完全民営化して官僚の天下りによる経営を排除するか、いずれかに割り切るべきだと考える。 《参考記事》 ■東芝1兆円の大赤字から考える、中小企業破綻のリアル(玉木潤一郎 経営者) http://sharescafe.net/50979612-20170401.html ■ポストSMAP争奪戦から考える 企業の価値創造(玉木潤一郎 経営者) http://sharescafe.net/49970392-20161110.html ■中小零細企業に必要な「仕事がうまい」人材(玉木潤一郎 経営者) http://sharescafe.net/48242519-20160331.html ■マイナス金利から一年、地方の中小企業と金融機関のリアル(玉木潤一郎 経営者) http://sharescafe.net/50758059-20170301.html ■映画「LA LA LAND」に見る、夢の実現と経済的成功(玉木潤一郎 経営者) http://sharescafe.net/50853160-20170314.html 玉木潤一郎 経営者 株式会社SweetsInvestment 代表取締役 |

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