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先日、私は心臓の手術を受けた友人のお見舞いに行ってきた。

■3割負担でも医療費は高額になる場合がある
手術は成功し、術後の経過も順調なようで一安心であったが、1点だけ、「先にこれを伝えてあげていれば」と、残念に思ったことがあった。

それは、詳しくは本記事の主題として詳説するが、健康保険の「限度額適用認定証」についてである。

私は、お見舞いの際、友人に手術にかかった費用の明細書を見せてもらったのだが、彼の医療費は3割の自己負担分で200万円ほどであった。

友人は、「高額療養費で戻ってくるとはいえ、200万円払うのは辛いなあ」と言っていた。

■高額療養費とは
ここで、「高額療養費」という言葉が出てきたので、高額療養費について簡単に説明しておこう。

「高額療養費」とは、保険証を使って医療を受けたときの3割の自己負担金に一定の上限を設け、その上限を超えた自己負担金を国に申請することで払い戻しが受けられるという制度である。

保険証を使えば医療費の負担は3割で済むとはいえ、大規模な手術を行うなどして、元の医療費が高額になった場合には、3割部分の負担だけであっても、通常の会社員や公務員が負担できる金額ではなくなってしまう。

たとえば、ある手術の費用が500万円だった場合、3割負担でも自己負担金は150万円になってしまうから、これでは、医療費で本人や家族の生活が破たんしてしまう恐れがある。

そのようなことを回避するため、我が国の健康保険には、「高額療養費」という制度が存在しており、どんなに大きな手術を受けたり長期間の入院をしたりしても、最終的な自己負担額には一定の上限が設けられているのだ。

「高額療養費」による最終的な自己負担額の上限は、所得によっていくつかの段階に分かれているが、一般の会社員の多くが該当するであろう標準報酬月額28万~50万円のレンジでは、「80,100円+(総医療費-267,000円)×1%」が自己負担の上限である。

上記の500万円の手術費用の事例で言えば、「80,100円+(500万円-267,000円)×1%=127,430円」が医療費の上限ということになる。

このとき、3割負担で病院の窓口で支払った額は150万円なので、「1,500,000円-127,430円=1,372,570円」が払い戻しの対象となる。

■高額療養費の払い戻しには時間がかかる
高額療養費の払い戻しを受けるためには、「健康保険高額療養費支給申請書」という書類を作成して、全国健康保険協会か、自分の会社で加入している健康保険組合に提出をする必要がある。

全国健康保険協会や健康保険組合は、この書類の内容や病院からのレセプトを確認し、自己負担限度額を超える部分を高額療養費として払い戻す仕組みになっている。

ところが、ここで問題なのは、実際に払い戻しが行われるまでには、通常、2~3か月も時間がかかってしまうということある。最終的には戻ってくるとはいえ、150万円とか200万円とかの多額の医療費を数か月も立て替えるのは家計にとって負担は大きい。

■限度額適用認定証を活用したい
そこで、「豆知識」として是非知っておいて頂きたいのは、「限度額適用認定証」という証明書の存在である。

大きな手術を受けることや、入院が長期に渡ることが事前に分かっている場合には、全国健康保険協会や健康保険組合に「健康保険限度額適用認定申請書」という書類を作成して低湿することで、「限度額適用認定証」の発行を受けることができ、この証明書を病院の窓口に事前に提出しておくことで、自己負担限度額を超える医療費は初めから支払わなくて済むようになる。すなわち、多額の自己負担金の建て替えを行う必要が無いということだ。

限度額適用認定証は、郵送で申請の場合は1週間程度、直接窓口に行った場合は、数日または即日に発行してもらえる場合もあるようである。

■限度額適用認定証は知られていない!?
このように便利な「限度額適用認定証」であるが、その存在は意外と知られていない。

私の友人も、限度額適用認定証の存在を知らなかったため、200万円の負担金を全額病院の窓口に支払ったということである。

友人は、誰もが名を知っているであろう大企業に勤めているので、私は、そのような大企業であれば、当然総務部の担当者が教えてくれたり、社員研修などで知らされているのではないかと思っていた。

ところが、他の何人かの友人に聞いてみても、限度額適用認定証のことを知らないし、会社で教えてもらったこともないということであった。

確かに、会社の社員研修などで高額療養費などのことを教えるのが親切であるし、社員への福利厚生としても素晴らしい取り組みである。しかし、会社がそれを行わないからといって、会社を批判することはできない。これは、自分の身を守るための知識なのだから、原則としては自分で勉強して身に付けておくべきことであると私は思っている。

ただ、友人と話をしたり、社会保険労務士として個人の方から相談を受けたりしていると、限度額適用認定証のことだけでなく、高額療養費自体の存在や、私傷病で欠勤するときには傷病手当金が支給されるなど、健康保険について、様々な給付や制度があるにもかかわらず「保険証を見せれば3割負担で医療が受けられる」ということ以外を知らない人がまだまだ多いのではないかという印象を受けているので、社会的な啓蒙が必要なのかもしれない。

■結び
我が国の健康保険は、世界的に見ても充実した公的医療保険制度になっていると言える。折角払っている保険料を無駄にしないため、そして、いざというとき損をしないためにも、健康保険について、是非積極的に知識を身に付けていただきたいものである。

【参考記事】
■社員を1人でも雇ったら就業規則を作成すべき理由
http://polite-sr.com/blog/shuugyoukisoku-sakusei/
■電通の「整備された労働環境」は、なぜ新入社員の自殺を生み出したのか?
http://polite-sr.com/blog/dentsu_mondai
■転職時に数日ブランクがある場合、国保に入るべきか? (榊裕葵 社会保険労務士)
http://sharescafe.net/36342339-20140112.html
■「非常に強い台風」が接近していても会社に行くのはサラリーマンの鏡か? (榊裕葵 社会保険労務士)
http://sharescafe.net/49408703-20160829.html
■働き方改革第一弾として、ホワイトカラーが今すぐ無くせる5つの残業 (榊裕葵 社会保険労務士)
http://sharescafe.net/50496544-20170123.html


榊裕葵 ポライト社会保険労務士法人 マネージング・パートナー
特定社会保険労務士・CFP

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