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今月初、てるみくらぶの経営者と経理責任者が金融機関から2億円もの融資をだまし取ったとして逮捕された。しかし、刑事事件に至っても肝心な支払済の旅行代金などはその殆どが戻ることはない。サービスの利用先として企業を選ぶ一個人の立場において、自己防衛が必要になるが、果たしてそれはどこまで可能なのだろうか。

■企業破綻は当たり前のように起きる
バブル期にせまるような昨今の高い株価と求人倍率。さしもの景気が良くなりつつあるのではと思いたい。しかし、残念ながら足元ではひっそりと、着実に企業倒産は続いている。

帝国データバンクが発表している倒産情報によると、2017年1月からこの10月までで起きた倒産件数は7043件、1兆2634億円にものぼる。月平均では単純に、それぞれ、704件、1263億円になり、ほぼ毎日30社以上が日本のどこかで倒産している勘定になる。

幸いにして、この数字は過去と比較すると明らかに下がってはいる。5年前の2012年と比較しても、年間では3000件近く減少しており、間接的部分的な景気の良さを伺いしることもできる。とはいえ、決して小さい数字ではなく、限りなく0に近づいたわけでもなく、いつ、消費者の立場として巻き込まれるかわからないという実情は変わらない。

■専門家でも見抜けないのか
こうした企業破綻を予め見抜くことは金融機関や会計士の立場であればできるのではないかと、思われがちだ。もちろん、それら専門家の関与によって「倒産の恐れがある」と推定は可能だ。しかし、「断定」が極めて難しい上、上場企業に対する「適正意見の判断」を除いて、一般の我々に伝達される手段が少ないという障壁がある。我々が知ることになるのはほぼ100%「事後」である。

また、断定を難しくさせる「会計処理のミス」という存在も行く手を阻んでいる。当然、これは専門家の不手際によるものでは決してない。例えば、粉飾による破綻リスクの場合、それらしきものが発見されたとしても、監査人に国税庁のような強権が与えられているわけではないため、「修正します」というカードを切られれば、それ以上どうすることもできないからだ。

無論、徹底的に調査することが不可能というわけではない。しかし、ほぼ張り付きで対象となる企業のビジネスプロセスを追いかける必要が生まれ、取引の前段階(企画や仕入れなど)に始まり、売上の発生から経理処理まで一連の流れを、書面だけではなく、現場ベースでチェックすることになってしまう。東芝のような多大な社会的影響を及ぼした事例を特殊として、通常の監査での常態化は到底現実的ではない。

■防御策はあるのか
では、我々一個人がそうしたリスクに対応するにはどうすればよいのか。件の事件では、旅行代金の支払いがクレジットカードであれば、カード会社によって保証を受けることができた。しかし、できれば、そもそもそうしたリスク自体を回避したい。コストはお金だけではないからだ。

先んじて述べておきたいが、上場企業も含め、決算書など会計関連資料や財務データ自体にそうした期待はできない。それらは、会計や税務等の制約を受けるも、当事者による恣意的な成果物の性質から変化することはなく、さらにはさきほどの会計士など専門家とは違い、一個人が会計データと関連する事業行動の照合ができるような機会は当然ない(つまり、理論値の範疇を超えることができない)からだ。

では、まったく手立てはないのだろうか。破綻リスク全般に対する網羅性はないが、多数の中小企業で金庫番として長年従事した経験から、比較的再現性のある傾向として1つ言えることがある。それは取引銀行数の多さだ。

この情報はWEBサイトでおおよそ確認することができる。なお、ポイントは取引行数、つまり銀行の“数”ではない。取引先銀行の「支店名」だ。健全な企業であれば、取引先の要望(手数料の軽減)などに応じて、複数口座を用意していても、それらの支店名はほぼ同じか、近隣になっているのが一般的だ。例えば、A銀行池袋支店、B銀行池袋支店といったようにだ。

ところが、件のような経営状態が厳しい企業の場合、より多くの金融機関から融資を得ることを主目的に、事業拠点を意図的にかつ短期的に変更した上で、新たに口座を開いていることがある。その結果、支店名が地理的に随分と離れ、バラバラになってしまうという現象を引き起こす。例えば、A銀行代々木支店、B銀行浜松町支店といったようにだ。

業況の安定している企業であれば、まず取引銀行を変えることはない。請求書の口座記載の変更に始まり、全取引先への通知など取引口座の変更による瀕雑さは意外にも工数が大きいからだ。

仮に口座を増やすとなったとしても、経理上の負担や口座開設にまつわるルールによって、同一エリア内で済ませるのが慣習的だ。つまり、取引上の必要性が見られない(営業拠点などがない)エリアなどにおいて口座があることは不自然なのだ。

この方法が決定的指標になるとは断言することはできない。しかし、こうした「定量」情報ではない、例えば、経営陣の入れ替わりなどいわゆる「定性情報の変化」をチェックしておくことは少なからず有効だ。

■与信という概念
ここにきて、データ改ざんのような事件も多発し、企業規模を問わず、対企業への旧来のような無条件に近い信用を甚だ難しくさせている。

紹介した定性情報のチェックには有効性があるが、やはりこうした傾向に対して心もとないものもあるのも確かだ。今後は、個人であっても、どのような企業であれ、いつどうなるかわからないという前提条件を設け、法人間取引における「与信」のような概念や手段によって自己防衛を図る必要がでてくるのかもしれない。

【参考記事】
■新しいビジネスモデルを発想する「6つの視点」(酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト)
http://financial-note.com/six-view-point-new-business-model/
■不動産業に見る「ジャパネットたかた式」ビジネスモデル(酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト)
http://financial-note.com/japanet-style-in-real-estate-business/
■【出版不況】書店業界を救う手立てはないのだろうか (酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト)
http://sharescafe.net/47952603-20160229.html
■【就活で銀行を選ぶな!】 銀行のビジネスモデルが終焉を迎える日 (酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト)
http://sharescafe.net/47617542-20160125.html
■ワタミが劇的な復活を遂げる可能性が低い理由 (酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト)
http://sharescafe.net/47314916-20151224.html

酒井威津善 ビジネスモデルアナリスト フィナンシャル・ノート代表

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