一億総活躍による一億総増税時代の幕開け

平成30年度税制改正大綱が決定しました。この大綱は、平成30年1月に招集される第196回国会(常回)で、大きな変更はなく可決成立するものと考えられます。内容は、国民にとって増税メニューが目白押しです。事前に増税項目を知り、暮らしの防衛として収入増に向けた攻めの行動、支出を抑える守りの行動を起こす時です。

■消費税の増税
平成26年4月に8%となった消費税。すでに増税の痛みは忘れ去られているかもしれませんが、引き上げられたのはたった3年半前のことです。当初の予定では平成27年10月に10%へ引き上げが予定されていましたが延期となり、さらに平成29年4月の導入も延期され、現在は平成31年10月導入予定となっています。

「どうせ次も引き上げは延期されるのでは・・・」という予感を打ち消すためなのか、税制改正大綱では、「平成30年度税制改正の基本的考え方」の中で、消費税率10%への引き上げを平成31年10月1日に確実に実施すると記載されました。国として、延期はないという強い決意の現れとなっています。また、食材の購入や新聞購読に適用される軽減税率制度の導入についても税率10%とあわせて実施すると記載されています。消費税10%への引き上げは私たちのお財布に直接ダメージを与えるため、支出の見直しが免れません。

■所得税の増税と減税
サラリーマンの味方と言われる給与所得控除ですが、平成25年分から上限が定められ、平成28年分、平成29年分とその上限が毎年引き下げられてきました。これまでは、給与収入額1,000万円を超えるような場合に影響を与える限定的な内容でしたが、平成30年度税制改正では、給与収入額を850万円以上と引き下げたうえで、給与所得控除額の上限を195万円に引き下げました。すでに各メディアから「850万円超の会社員が増税」と報道されているので、関心が高い内容かと思います。

一方で基礎控除は10万円アップして48万円となりました。なんとなく、プラマイゼロで影響が少なく見えますが、給与収入額が850万円を超える人は増税となり、給与収入額が850万円未満の人は減税となります。なお、合計所得金額が2,400万円以上の場合はこの基礎控除額48万円が逓減されていき、合計所得金額が2,500万円を超える場合は基礎控除が適用されなくなります。

個人事業主の味方と言われる青色申告特別控除の控除額が10万円引き下げられて55万円とされます。ただし、e-TAXにて申告した場合は継続して65万円控除となります。

給与収入額が850万円を超える場合であっても、年齢23歳未満の扶養親族を有する場合等には、所得金額調整控除と呼ばれる給与所得控除が適用されます。給与収入額から850万円を差し引いた残額の10%相当が従来の給与所得控除額にプラスして控除できるというものです。

■森林環境税(仮称)と国際観光旅客税(仮称)の創設
森林環境税(仮称)は、個人住民税と一緒に年額1,000円が新たに徴収されます。導入は平成36年度からとなります。国際観光旅客税(仮称)は、日本から出国する旅行者に対して課せられる税で、その金額は1,000円です。徴収開始は平成31年1月7日以降の出国から適用されます。徴収方法は不明ですが、国際運送事業者がチケット販売時に徴収する方法となると思います。

■国民健康保険税の増税
個人事業主等が加入する国民健康保険についても増税となります。国民健康保険税は、基礎賦課額と呼ばれる部分、後期高齢者支援金等賦課額と呼ばれる部分、介護納付金賦課額と呼ばれる部分の3つの部分に分けられますが、このうち基礎賦課額の上限が54万円から58万円まで引き上げられます。

■相続税の増税
平成27年1月から基礎控除が従前に比べて60%に圧縮されたため、実質的に増税となりました。今回の平成30年度税制改正では、さらに節税として強い力を発揮してきた小規模宅地等の相続税の課税価格の計算の特例(以下、小規模特例等と言います。)についてメスが入ります。

小規模特例等は、被相続人が土地と家屋を所有していた場合で、その家屋が被相続人や家族の生活のために欠かせない用途に使用されていた場合、土地の相続税評価額が最大で80%引きになる特例制度です。そのため、なんとかしてこの制度を利用して相続税を節税するスキームが考え出されました。

今回は、その中でも持ち家に住んでいない相続人に対して厳しい見直しが入ります。従来の相続税では、相続人が相続開始前3年以内に相続人又は相続人の配偶者が所有する家屋に住んでいなければ小規模特例等が受けられました。そのため、相続人が相続人の息子等に家屋を贈与したり、持ち家を賃貸にしたりと形式的にこの条件をクリアするケースが見られました。これを封じ込めるために、相続人の3親等内の親族の所有する家屋に住んでいた人や過去に持家に住んでいた人は適用が受けられなくなります。

そして、ハウスメーカーが節税スキームとして提案していた賃貸アパートによる相続税の節税も封じられます。具体的には、相続開始前3年以内に賃貸が開始されていた場合(※)には、その賃貸物件の建つ土地は小規模特例等の適用が受けられません。せっかく借金してアパートを新築しても相続税が安くならないということは不幸です。(※3年を超えていれば従来通り適用されます。)

今回の小規模特例等の賃貸については、ただし書きが添えられており、平成30年4月1日以降に開始した相続に適用され、さらに、平成30年3月31日までに賃貸が開始されていれば従来通り小規模特例等の適用が受けられるとあります。賃貸アパートによる節税スキームを実施する場合には長生きするという条件が加わったことになります。

■たばこ税
困った時のたばこ税でしょうか。段階的に引き上げられます。第一段階は平成30年10月1日、第二段階は平成32年10月1日、第三段階は平成33年10月1日です。そして、最近注目を浴びている加熱式たばこについても増税の風は止みません。平成30年10月1日から4年かけて徐々に値段が上がっていく激変緩和措置が導入されてじわじわと増税されます。

■税理士試験の受験手数料
ニッチな増税ですが、税理士試験の受験料が値上げされます。これまで1科目3,500円が4,000円になります。受験科目が2科目以上の場合は1科目追加毎に1,500円(従来は1,000円)に引き上げられます。

■税制改正のまとめ
消費税は全体に影響がありますが、それ以外は年収の高いサラリーマンや自営業者、嗜好品であるタバコ喫煙者、海外旅行者、賃貸不動産所有者に対して影響があります。国としては企業に対して給与アップを期待していますが、例えアップしてもその分が税金となって支出してしまうようでは、元も子もないように思います。

私たち国民にとっては実生活が大事です。可処分所得が減った分を支出の削減でバランスをとるにしても限界があります。副業により1万円でも2万円でも収入増を考えることも必要かもしれません。

【参考記事】
■来年からの配偶者控除改正。パート労働者の扶養控除が変わっても労働調整はなくならない。(浅野千晴 税理士)
http://sharescafe.net/52507713-20171125.html
■保育料がタダになったら子供をもう一人産みますか? (浅野千晴 税理士)
http://sharescafe.net/52351940-20171031.html
■起業の選択肢として第三者の事業を引き継ぐの事が当たり前になれば、みんなが得をします(岡崎よしひろ 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/52351471-20171031.html
■【社説】安倍総理による賃金3%アップの要請は高齢者優遇が目的である。(中嶋よしふみ FP・SCOL編集長)
http://sharescafe.net/52329382-20171027.html
■1割負担の介護保険がいつの間にか3割負担に? 急速に悪化する制度変更の流れを読み解く。(藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)(藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)
http://sharescafe.net/51255252-20170510.html

藤尾智之 税理士・介護福祉経営士




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