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振り袖のレンタルなどを行う「はれのひ」が成人式の日に突然店舗閉鎖をし、新成人が振り袖を着られなかったことが大きな社会問題となった。


報道されているところによると、被害を受けたのは新成人だけでなく、従業員も給与の遅配や未払いが続いていたということだ。

成人式の当日、「はれのひ」の従業員の中には、新成人に対する責任を果たすため本社から店舗閉鎖の指示があったにもかかわらず、自主的に着付けの対応を行ったスタッフもいたということで、目頭が熱くなった。

私は、社会保険労務士として、このような志のある真面目な従業員が「泣き寝入り」をすることは許されないと思っている。

とはいえ、経営者は行方不明であり、会社の資金繰りも困窮しているということなので、仮に経営者や会社を訴えたとしても、給与を回収することは現実的には難しい。

そこで、本稿では「はれのひ」の従業員が利用することのできる3つの法的制度について説明をしていきたい。

■未払賃金立替払制度で給料の8割を立替払
第1は、「未払賃金立替払制度」である。

未払賃金立替制度は、「1年以上事業活動を行っていた会社が」「倒産した場合」に、一定の条件に該当する未払い賃金の8割の支払を国から立替払してもらえるという制度である。

原則としては、破産管財人等に倒産の事実等を証明してもらう必要があるが、中小企業については、法的な倒産に至っていなくても、事業再開の見込みが無く、会社が賃金支払い能力を有していないと、所轄の労働基準監督署長が認めた場合は、事実上の倒産であっても本制度を利用することができる。

本件「はれのひ」のケースにおいては、状況を勘案すると「事実上の倒産」と認められる可能性は高いと思われるので、各店舗の従業員の方は、店舗の所在地を管轄する労働基準監督署に相談し、事実上の倒産の認定を受けてほしい。

「事実上の倒産」の認定を受けるにあたっては、必ずしも全てが揃っているまでの必要ではないが、経営諸帳簿、賃金台帳、出勤簿、労働者名簿などの帳簿類の提出を求められるので、管理部門の従業員と連携して、可能な限りの書類を揃えるよう努めて頂きたい。

この点、書類が全く手に入る見込みがない場合や、ほとんど入手できない場合は、その旨を労働基準監督署へ相談し、対応を協議してほしい。これだけ社会問題になっているし、「はれのひ」には過去に労働基準監督署が調査にも入っているので、何らかの救済を受けられる可能性もあるのではないだろうか。

労働基準監督署の認定を受けた後に、「独立行政法人労働者健康安全機構」に立替払の請求をすれば、未払い賃金の支払いを受けることができる。

■離職票が無くても失業手当は受けられる
第2は、雇用保険の「失業手当(基本手当)」である。

ハローワークで失業手当の受給資格を得るためには、原則として、元の勤務先の会社が雇用保険の資格喪失手続を行っていることと、離職票(在職中の勤務状況や失業理由等を会社が証明した書類)が発行されていることが必要である。

しかしながら、今回の「はれのひ」のように会社が突然閉鎖され、経営者が行方不明になっている場合は、雇用保険の資格喪失手続や離職票の発行が行われないままになってしまう。

しかし、このような場合あっても、所定の手続を踏めば、元従業員は失業手当を受給することができるので泣き寝入りしてはならない。

元の勤務先が雇用保険関係の手続をしてくれない場合、ハローワークが職権で失業の認定をすることができるのだ。なので、まずはハローワークの窓口へ行き、相談をしてほしい。

失業保険は、ハローワークで「失業の認定を受けた日」を基準として支払われるので、可能な限り早くハローワークへ行ったほうが良い。

なお、「はれのひ」の今回のケースのように会社の倒産(事実上含む)で失業に至った場合は、自己都合退職のように3か月の給付制限なく速やかに失業手当を受給開始できるし、年齢や雇用保険の加入期間によっては、受給できる日数が増える場合もある。

■早期に国保に加入して保険料の軽減措置を受ける
第3は、国民健康保険の保険料軽減措置である。

「はれのひ」が事実上の倒産をしたことに伴い、健康保険の保険証も法的には無効になっているので、このまま従来の保険証を使ってしまうと、後に健康保険協会から本人宛に7割分の医療費の請求がくることになる。その期間は無保険だったということになり、その7割分はどこにも請求できず、自己負担になってしまう恐れがある。

それを避けるためには、直ちに次の会社に再就職できた場合は別として、健康保険の資格喪失手続をし、個人で国民健康保険に加入しなければならない。

健康保険の資格喪失手続に関しましては、本来は会社が行うべきものであるが、倒産などで会社が手続を行えない場合は、年金事務所が職権で資格喪失をさせることが可能なので、「はれのひ」の従業員の方で、社会保険(健康保険+厚生年金)に加入していた方は、年金事務所へ資格喪失の相談をしてほしい。

社会保険の喪失ができたら、次は、自分が居住する市区町村で国民健康保険の加入手続を行うことになる。

この際、あらかじめ、「第2」の項目で述べた、ハローワークでの倒産による失業の認定を受けておいてほしい。倒産のように、非自発的な事情によって失業至り、国民健康保険に加入することになった場合は、国民年金保険の保険料が大幅に軽減される措置を受けられ、ハローワークでの手続がその証明になるのだ。

国民年金の保険料は、大雑把に言えば前年度の所得に対し、市区町村ごとに定められたパーセンテージを乗じて計算されるが、非自発的な失業者の場合は、前年度の所得の3割を国民健康保険法上の所得とみなして保険料の計算をしてもらえる。

国民年金保険の保険料は一般的に高いと言われているが、この軽減制度を利用することで、失業中の保険料を安く抑えることができるので、活用してほしい。

■結び
「はれのひ」の突然の店舗閉鎖は、新成人はもちろんのこと、取引先や従業員に対しても不誠実で許されるものではない。

晴れ着を着れなかった新成人のために、費用を手弁当で負担をして「リベンジ成人式」を行うことを発表したキングコングの西野亮廣さんに比べれば足元にも及ばないことであるが、このブログの内容が被害にあわれた従業員の方に少しでも役立てば幸いである。

【参考記事】
■働く人が労災保険で損をしないために気をつけるべき”3つのウソ” (榊 裕葵 社会保険労務士)
http://sharescafe.net/41626385-20141030.html
■国民年金保険料2年前納制度のメリット・デメリット (榊 裕葵 社会保険労務士)
http://sharescafe.net/36558624-20140122.html
■学生が国民年金の保険料を払うのは損か?得か? (榊 裕葵 社会保険労務士)
http://sharescafe.net/35068125-20131122.html
■「非常に強い台風」が接近していても会社に行くのはサラリーマンの鏡か? (榊 裕葵 社会保険労務士)
http://sharescafe.net/49408703-20160829.html
■働き方改革第一弾として、ホワイトカラーが今すぐ無くせる5つの残業 (榊 裕葵 社会保険労務士)
http://sharescafe.net/50496544-20170123.html


榊裕葵 ポライト社会保険労務士法人 マネージング・パートナー
特定社会保険労務士・CFP

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