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2018年2月25日に閉会した平昌オリンピックでは、日本選手が素晴らしい活躍を果たし、獲得メダル数は過去最高の13個となった。この日本選手活躍の裏には、経済的な苦労を乗り越えてオリンピックの舞台に立った選手もいる一方で、世界には多くの収入を得て競技に集中できる選手も存在している。
その違いは単に競技のスキルに起因するのであろうか。平昌オリンピック選手たちの実情をもとに、選手たちの戦略を紐解いてみたい。

■選手の選択
平昌オリンピックの日本選手団において、スキークロスに出場した梅原玲奈選手は、もともとはアルペンの選手であったが、スキークロスに転向し世界と戦った。しかしながら、スキークロスは非常に経済的な負担も大きく、スポンサーは集まらず、ナショナルチームも解散し、梅原選手1人でアルバイトをしながら競技を続けていたという。

一方、オリンピックの花形競技であるアルペンスキーでは、男子のマルセル・ヒルシャー、女子のミカエラ・シフリン選手などの有名選手は、年間の賞金のみで数千万円を得ている。(参考:FIS W杯優勝賞金およそ450万円/回、シフリン選手は2018シーズン10回優勝)この他、選手によってはスポンサー契約による収入や広告収入が加わるケースもある。

彼らがこれほどの収入を得て、競技に集中できる環境を得られているのは、彼らの競技能力が高い(ターン技術が高い、スピードが速い等)ことも大きな要因である。しかし、一番の要因は、スキーというスポーツを始めた時に、様々な選択肢がある中で、スキークロスでもなく、スキージャンプでもなく、クロスカントリーでもなくでもなく、アルペン(回転・大回転・スーパー大回転、滑降等)という競技を選択したからである。

■業界の利益構造
スキー競技に関わらず、業界の選択は競技者の収入に大きな影響を及ぼす。オリンピックの最終日に決勝が行われたアイスホッケーは、北米にNHLを有し(今回のオリンピックではNHL選手の出場はなかったが)、所属する選手の平均年俸は3億円超と言われる。競技によっては、たとえ世界最高、史上最高の選手であっても、NHLの平均的な選手に年俸が及ばないことは往々にしてありえるのである。これは、アイスホッケーが業界の構造として、他の業界よりも利益を生み出しやすい構造にあるということである。

利益を生み出しやすい構造とは、スポーツの場合、多くのファンが存在し、そのファンに支えられることにより、選手達は大きな収入を得ることができる。また、多くのファンに注目されることでその宣伝・広告効果に魅力を感じる企業からのスポンサー収入も期待される。加えて、同じレベルで活躍するにしても、活動する国や地域によって得られる利益も異なる。日本ホッケーリーグ(平均年俸数百万円)とNHL、サッカーのJリーグ(平均年俸約2千万円)とプレミアリーグ(平均年俸約3億8千万円)、クリケットのインディアンプレミアリーグ(平均年俸4億円超)と日本クリケットリーグ等、双方のレベルでプレーできる選手であれば、戦う立地選びが大きな収入の差につながる。

生まれる国は選べないとは言うものの、選手は利益を生み出しやすい構造の業界(スポーツ)を理解することで、自分にとって最適な選択を行い、効果的な立地を選ぶことで経済的困難から脱却することができる。一方、競技人口が少ない業界や、新設競技を選択することで、オリンピックという夢の舞台への挑戦権の獲得やメダル獲得可能性を高めるという選択肢も存在する。ここには、オリンピアンという名誉を取るか、競技者として経済的な安定性を取るかのトレードオフが存在する。

競技者本人(または、子供の将来に大きな期待を抱く親)は、どのような利益構造を持つ業界・競技を選択し、どのようなトレードオフをつくるのか。競技者自身が描く戦略は、競技能力の優劣の前に、競技そのものの選択にかかっている。

【参考記事】
■スキー場の競争戦略~生き残りをかけた戦い~(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/52532940-20171130.html
■ANA・LCCのピーチ子会社化でますます進む独占。森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/50741428-20170228.html
■アメリカン航空に学ぶ「捨てる」勇気(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/50552975-20170131.html
■地域航空が国鉄に学ぶべき理由(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49893178-20161031.html
■星野リゾートとリッツカールトンの戦略の違いとは(森山祐樹 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49185987-20160729.html

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