マルクスは、神の見えざる手を全面的に否定し、政府が管理する平等な国を理想としました。理念は立派でしたが、マルクスの教えに従った国は、「皆が平等に貧しい」国となり、結局マルクスの教えを放棄せざるを得ませんでした。今回は、その理由等について、学びましょう。 ■マルクスは、神の見えざる手を否定し、政府の全面管理を主張 アダムスミスに全面的に反対したのがマルクスです。マルクスは、神の見えざる手を全面的に否定しました。「神様に任せておくと金持ちと貧乏人の差が開くばかりだから、経済のことは全部政府が管理して、平等な国を作ろう」と言ったのです。「共産主義」ですね。 一見すると理想的に見えますが、ソ連という国(現在のロシアを中心とした国)が実際にやってみたら、上手く行きませんでした。今でも「共産党」という党は世界各国にありますが、マルクスの言うとおりの国を目指している国は殆どありません。 そこで、なぜ上手く行かなかったのかを考えることで、如何に神の見えざる手が優れているのかを考えて行きたいと思います。 ■格差は労働のインセンティブ ソ連の共産党は、平等な国を作ろうとしました。しかし、そうなると「真面目に働いた人もサボった人も同じ給料だ」という事になりますから、誰も真面目に働かなくなり、「等しく貧しい国」になってしまったのです。ちなみに、インセンティブというのは「勉強したら御褒美をあげる」という場合の御褒美に当たります。「働いたら高い給料を払う」というインセンティブを与えれば人々は真面目に働くのでしょうが、それでは共産主義の理想である平等な国は作れませんから。 さて、格差は、大きすぎると良くありません。特に、「貧しい家の子が教育を受けられないので豊かになるチャンスが与えられない」という事では問題です。しかし反対に、格差が全く無い国も問題なのです。 では、どの程度の格差が望ましいのか。これは国により人により考え方が異なるでしょう。国によって金持ちから重い税金をとる国と、皆から広く税金をとる国がありますから。 また、どのような格差なら許せるのか、という点も様々な考え方があります。懸命に働いて高い所得を得ている人がいるのは問題ないでしょう。では、巨額の遺産を受け取った人は?同じ能力と努力で起業した人が2人いて、片方が運良く億万長者になり、今一方が運悪く破産者になるのは? 筆者としては、人々の努力のインセンティブとなるような格差は良い格差で、そうでない格差は悪い格差だ、と考えているのですが、様々な考え方があるでしょうね。 ■真面目な労働者に政府が褒美を与える制度も失敗 ソ連共産党は、理想を少しだけ横に置き、「真面目に働いた労働者には褒美を与える」ことにしました。しかし、これも上手く行きませんでした。誰が真面目に働いたのか、判断が難しかったからです。 こどもに勉強させようとする親は、「勉強したら褒美をあげる」と言うのでしょうが、子供が勉強していたか否かをどう判断するのでしょうか。机に座っていた時間の長さで判断しては、単に座っているだけかも知れません。テストの点数で判断しようとすると、「自分は頭が悪いので、勉強したけれども点数が悪かった」と言われた時に困ります。 ソ連共産党も、同じ悩みに直面しました。そこで、「能力の差は考えない。大量のパンを作った者には褒美を与える」としました。そうなると、ソ連国内のすべてのパン屋が「味は不味いが、作るのに手間がかからないパン」を作りはじめました。人々は美味しいパンを求めて行列を作るのに、そこには商品は無く、山積みされた不味いパンの前には客はいない、という状況が出現したのです。「滞貨と行列」と呼ばれた現象でした。 ソ連政府の役人が国内のすべてのパンを試食して点数をつければ良かったのですが、それは当然不可能ですよね。 資本主義(アダムスミスやケインズの教えに従い、原則として神の見えざる手を大切にする経済)では、パンが美味しいか否かは政府の役人ではなく消費者が判断します。美味しいパンを作れば高い値段でも客が喜んで買うので儲かります。だからパン屋は手間がかかっても美味しいパンを作ろうと頑張るのです。 政府が経済に手出し口出ししない方が良い、という事が実感していただけましたでしょうか。 今回は、以上です。なお、本稿は厳密性よりもわかりやすさを優先していますので、細部が不正確な場合があります。事情ご賢察いただければ幸いです。 【参考記事】 ■『一番わかりやすい経済学入門』(塚崎公義 大学教授) https://ameblo.jp/kimiyoshi-tsukasaki/entry-12340883038.html ■とってもやさしい経済学 (塚崎公義 大学教授) http://ameblo.jp/kimiyoshi-tsukasaki/entry-12221168188.html ■経済学の初心者に「アダム・スミス」を教えてみた(塚崎公義 大学教授) http://sharescafe.net/52949231-20180213.html ■少子高齢化による労働力不足で日本経済は黄金時代へ(塚崎公義 大学教授) http://sharescafe.net/49220219-20160809.html ■老後の生活は1億円必要だが、普通のサラリーマンは何とかなる (塚崎公義 大学教授) http://sharescafe.net/49185650-20160728.html 塚崎公義 久留米大学商学部教授 シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |