0921_榊裕葵

乃木坂46の人気メンバーの1人、西野七瀬さんが9月20日に更新したブログで、年内をもってグループを卒業することを発表しました。

私自身、乃木坂46のファンの1人として西野さんの卒業は残念なことです。しかし社会保険労務士という立場から考察すると西野さんの卒業発表は、段取りやタイミングといった面で周囲に配慮を重ねた大変素晴らしいものだと感じます。一般のビジネスパーソンにとっても参考になると思い、本稿の筆をとらせて頂きました。

私が西野さんの卒業発表の仕方が素晴らしいと感じたポイントは3つあります。以下、順番に説明をさせて頂きます。

■正式な卒業発表まで時間をかけて事務所と話し合いを重ねた
第1は、時間をかけて運営と卒業について話し合ってきたということです。西野さんはブログで、次のように述べています。

卒業のことは実は一年以上前から事務所の方とお話をしてきまして、ついに今日皆さんに報告させて頂きました
乃木坂46 西野七瀬公式ブログ 2018/09/20


「ついに」という言葉を含めブログの文言からも、西野さんはしっかりと時間をかけて事務所と話し合いを重ね、正式な卒業発表に至ったのだと感じさせられました。運営の立場の人や、グループの仲間のことを考え、調整を尽くした上で卒業発表に至ったことは、大変素晴らしい配慮だと思います。

これを一般のビジネスパーソンに置き換えて考えてみます。退職をする権利は就業規則や法律上の権利として認められているわけですが、早目に退職の相談をして会社と調整を行うということは、社会人として望ましい配慮です。

確かに、次の仕事が決まっているとか、急な家庭の事情があるとか、ビジネスパーソンにも様々な事情があります。場合によっては急な退職の申し出となることもやむを得ないでしょう。

しかし可能ならば、退職を具体的に意識した時点で非公式にでも上司や人事担当者などに話しておくことが、最終的には円満な退職につながります。会社によっては引き止めの話があるかもしれませんが、退職の意思が固いことが分かれば、会社側としても新規採用を検討したり、人事異動を行ったりして後任者の目星をつけることができます。

重要なポジションに就いていた人ほどすぐに後任を見つけることは難しくなります。場合によっては西野さんと同じように、1年くらい時間をかけて会社と話し合って退職の準備を進めていくことが「立つ鳥跡を濁さず」につながります。

会社への配慮だけでなく、円満な形で退職すれば自分自身のためにもなります。退職後も引き続き元の会社と取引をするなど違った形で関係を持てるかもしれません。近年は「出戻り」を歓迎する会社も増えてきていますので、場合によっては将来元の会社に復帰ということも考えられます。

芸能界に話を戻すと、乃木坂46公式ライバルとされているAKB48や、系列は違いますがモーニング娘。などにおいても、円満に卒業をしたメンバーは、OGとしてメディアに出演したり、卒業後もしばしば現役メンバーとコンサートで共演したりなど、元のグループと関係を持ちながら活躍の場を広げています。

一方で、問題を起こすなどして解雇や解雇に近い形で卒業をしたOGは、OGコンサートなどに呼ばれていないか、呼ばれるようになるまでに長い時間がかかっています。円満な卒業がいかに大切なのかが分かります。

■卒業発表から卒業まで時間的猶予を持たせた
第2は、西野さんが9月20日付で卒業を正式に発表して、活動を年内いっぱいとしたことです。

わたくし西野七瀬は年内の活動をもって 乃木坂46から卒業いたします
乃木坂46 西野七瀬公式ブログ 2018/09/20


年内いっぱいということは、残りの活動期間は約3か月強ということになります。突然の卒業ではなく、公式な卒業発表から卒業日まである程度の猶予を持たせることで、ファンが気持ちを整理したり、握手会で最後のお別れを言えるようにしたりと、時間的な配慮だと考えられます。卒業後であるにもかかわらず、2019年中に卒業コンサートも企画されているということです。

一般のビジネスパーソンが退職を考えるにあたっても、多くの会社の就業規則で退職1か月前が退職届の提出期限になっています。法律でも退職日に労使で合意が成立しない場合、「月の前半に退職を申し出た場合は当月末、月の後半に退職を申し出た場合は翌月末」に退職が成立することになります。すなわち就業規則や法令上の権利としては、申し出から1か月前後で退職できます。

極端な形ですと、退職と同時に有給休暇を申請して退職日まで出社しないことも労働法では合法です。

退職や有給休暇の消化は働く人の権利ですから、当然尊重されるべきです。会社が本人の意に反して退職を妨害したり、有給休暇の消化を認めないようなことは、決してあってはならないことです。

しかし、配慮や思いやりという意味で考えると、充分な引継ぎを行うには1か月では足りないことも珍しくありません。とくに有給休暇を消化して退職する場合は、退職日より前倒して出社しない状態になってしまうわけですから、有給消化日数部分を含めて、余裕のある期間をもって退職届の提出をすることが円滑な引継ぎと円満な退職につながります。

また、社内的な引継ぎだけでなく、お世話になったお客様や取引先などにあいさつ回りをしたり、お礼の手紙やメールを送ったりなどということも考えると、やはり退職届の提出から退職日までは無理のない期間を設けたいものです。

■同期や後輩の成長を見届けての卒業発表であった
第3は、同期や後輩が成長したタイミングを見届けての卒業であったということです。

西野七瀬さんは、乃木坂46の中心的なメンバーであり、芸能メディアからもスリートップの1人として認知されています。

西野は、11年8月に乃木坂46の1期生オーディションに合格。柔らかい関西弁と控えめな雰囲気、はかなげな笑顔で人気を博し、握手会やグッズの人気は常にトップクラスをキープ。白石麻衣(26)齋藤飛鳥(20)とともに、スリートップを形成している。
西野七瀬が乃木坂46年内卒業を発表、絶対的エース 日刊スポーツ 2018/09/20


いわば「中心中の中心」である西野さんが卒業すればその影響は計り知れません。一般企業でいえば稼ぎ頭の営業マンや、凄腕のエンジニアが退職するようなインパクトに相当します。

乃木坂46は1期生から3期生で構成されていますが、なかなか西野さんや白石さんに並ぶ存在があらわれませんでした。

それが、ここしばらくの間で1期生の齋藤飛鳥さんがめきめきと頭角をあらわしてスリートップの1人に数えられる存在になりました。18thシングルの「逃げ水」では3期生の与田祐希さんと大園桃子さんがダブルセンターを務め、次世代の乃木坂46の顔として認知され始めました。

20thシングルでは、与田さんと大園さん以外にも、山下美月さんや梅澤美波さん、そして最年少の岩本蓮加さんといった他の3期生も選抜入りしました。2期生の鈴木絢音さんが初選抜入りを果たしたことも、20thシングルの明るいニュースの1つでした。このように、乃木坂46ではようやく世代交代が軌道に乗り始めたようです。

■西野さんが「先輩」になった日。
振り返ると、西野さんは「乃木坂46 真夏の全国ツアー2017」の皮切りとなった明治神宮野球場公演(7月1日~2日)後に更新したブログで、次のように述べています。

このライブで、わたし先輩なんだ?って改めて自覚しました。見守る心?が芽生えた後輩の存在のおかげです。ちゃんとしなきゃ!お姉さんしなきゃ!って思わせてくれる。
乃木坂46 西野七瀬公式ブログ 2017/07/24


今回の卒業発表から逆算すると1年ちょっと前のブログですから、タイミング的にこの頃から西野さんは卒業を意識して、自分が卒業した後も乃木坂46を任せられるよう後輩を育てていかねばと考え始めたのかもしれません。後輩が育ちつつあるのを実感できたからこそ、このタイミングで卒業を決断できたのではないでしょうか。

自分が退職するに先立ち、後を任せられる後輩を育てることの大切さということは一般のビジネスパーソンにも当てはまります。

社会保険労務士として企業経営者の方と話をしていても「先日退職した○○君は、後輩をしっかり育てて退職してくれたからとても助かった」とか、その逆で「○○さんは自分の仕事をブラックボックス化して誰もわからないようにしたまま辞めてしまったので頭が痛い」という話を何度も聞いたことがあります。

もちろん、会社を退職するにあたって「後輩を育てて退職しなければならない」とか「後任者が見つかるまで退職を待たなければならない」という義務はありませんし、会社が退職者にそのような義務を課すことは違法です。

ただ、お世話になった場所に恩返しをするという意味で、退職に先立ち自分がいなくなっても同僚や上司が困らないように後任者を育てたり、可能な範囲で退職のタイミングを調整するのは、ビジネスパーソンとして思いやりのある素晴らしい配慮ではないでしょうか。

■まとめ
西野七瀬さんの卒業発表は乃木坂46とそのファンへの配慮を尽くした上で行われたものでした。

芸能界とビジネスの世界、アイドルとビジネスパーソン、必ずしも同じ土俵で比べられるものではありません。しかしその「場所」を去るときに後ろ足で砂をかけて去るのではなく、お世話になった人に対して配慮をすべきという考え方は、どの世界でも同じだと思います。そういった配慮が周囲の信頼を得て、巡り巡って自分の将来にとっても決してマイナスには働かないはずです。

西野七瀬さんが卒業後益々ご活躍されることを祈念して、本稿の結びにしたいと思います。

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榊裕葵 ポライト社会保険労務士法人 マネージング・パートナー 特定社会保険労務士・CFP

【プロフィール】
上場企業の経営企画室等に約8年間勤務。独立後、ポライト社会保険労務士法人を設立。勤務時代の経験も生かしながら、経営分析に強い社労士として顧問先の支援や執筆活動に従事。近年はHRテック普及支援にも注力。

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