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近年の人手不足から、多くの企業が値上げをしなければならない環境になりつつあります。
ヘアカット専門店「QBハウス」を展開するキュービーネットホールディングス(HD)が2019年度にも新型店舗の展開を始める。予約システムの導入などサービスを強化し料金を引き上げる。既存店も値上げを発表したばかり。理美容師の待遇を改善する原資を稼ぎ人手を確保する。
QBハウス値上げ二の矢 デフレ勝ち組、戦略修正 2018/9/28 日本経済新聞


……と報道されており、既存店の値上げに加えて、より高価格帯の新業態も開発することで人材確保の取り組みへ動き出しているとのことです。

この背景には『厚生労働省によると、美容師が含まれる「生活衛生サービス」の7月の全国の有効求人倍率は4.47倍。全業種平均の約3倍に達する』と同記事にあるように、理美容師の求人難が続いていることも要因です。

■簡単にサービスの値上げができれば苦労はしない
しかし簡単にサービスの値上げができればどの企業も苦労はしません。

特に企業規模が大きくなり、値上げの影響範囲が大きくなるほどそのリスクは増大します。大規模なチェーン店が値上げを実施したところ客離れが発生し、売上高が大きく下がるといった事を見聞きしたことがある人も多いと思います。

売上高は客数×客単価で計算ができるため、多少の客数減であっても値上げで客単価を増加することができれば売上高は増加します。

しかし客数と客単価は双方を増加させることが極めて難しく、基本的にはどちらか一方を上げればもう一方は下がるといった関係性となります。

そのため消費者が事前に想定したよりも価格の上昇に敏感であった場合、客単価の増加でも補いきれなくなるほど客数が減少してしまい、売上は減少してしまうのです。

■予想はあくまで予想です
値上げによってどれだけ客数が減少するか、ある程度見込むことは可能です。価格の変化が需要にどの程度影響するかといった統計資料もあり、個別の企業側もアンケートを取るな情報を蓄積しているはずです。

見込みが当たれば売上増加を達成することができるのですが、裏目に出てしまえば当然のことながら顧客離れを引き起こすリスクもあります。

■別のコンセプトをつくる
有名なお店がちょっとコンセプトと価格帯を変えて展開するといった事も行われています。この方法は、既存のお店に悪影響を与えずに、企業全体の売上を増やすことができます。

では一つの企業が複数の価格帯でサービスを提供する際に注意をすることは何でしょうか。それは、顧客へ提供する価値を変えることです。

顧客から見て、中身が同じで名前だけが違うような商品・サービスであれば、既存店の客を新しいコンセプトのお店と取り合うことになってしまい、最悪の場合共倒れになるリスクすらあるわけです。

■顧客から見て十分に違う必要がある
別のコンセプトを打ち出す場合は、顧客から見て違う価値を提供する必要があります。しかしQBハウスについてはこの観点から少し心配な報道がなされています。

サービス内容はQBハウスと同様にカットのみで、カラーやパーマ、シャンプーはない。料金はこれから決めるが1500円前後に設定する見込みだ。既存店も19年2月に現在の1080円から1200円に値上げする。
QBハウス値上げ二の矢 デフレ勝ち組、戦略修正 2018/9/28 日本経済新聞


新業態と現業態が顧客にとってどれだけ違うか少なくとも報道からは読み取れないのです。もちろん、すべてのことが報道されるわけではありませんし、記事のテーマは待遇改善のために値上げをするといった事ですので詳しくは報道されていないのでしょう。

■価格のアップは極めて有効な方策
待遇改善を行い、働き手を確保するためには単価アップを行い売上増を図るのは極めて有効な方法です。

客数の増加で売上増を狙うのではなく、単価アップでの売上増は粗利が増え、従業員へ配分するための原資となる付加価値額が増加します。

そのため、労働分配率を維持したままでも待遇改善に使える原資が増えます。このことにより、優秀な人材の確保や定着率の向上といった事でサービスの質を向上させ、顧客が増加するといった良いサイクルにつながる可能性があります。

しかし繰り返しになりますが価格のアップはとても難しい経営判断となります。そのため、新業態の打ち出し等様々な方法を用いて顧客に納得感を持ってもらいながら価格アップを行っていく方法を考える必要があるのです。

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岡崎よしひろ 中小企業診断士

【プロフィール】
全ての事業者に事業計画を。2009年に中小企業診断士登録後、地に足の着いた事業者支援に取り組む傍ら、まんがで気軽に経営用語というサイトを運営。朝型生活を実践する2児の父。

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