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昨今売り手市場と言われるようになった就職活動(就活)。しかし、内定を得るのは容易ではない。元採用担当者である筆者にも、学生からの面接指導の依頼が続いている。

学生と面接練習を繰り返す中で、彼らが就活を誤解していることに気が付いた。それは「就活では優秀な人が採用される」と思い込んでいる点だ。今回はその誤解について論じてみたい。

■就活は優秀な人が採用される?
ある学生は「集団面接で他の就活生の自己PRに圧倒された。私はあんなに語れません……」と肩を落とす。就活はオーディションであり、頭がよくスター性のある人が勝ち残っていくと言わんばかりである。

筆者はかつて採用担当者として数多くの就活生を評価していた。その経験から言えば、就活では必ずしも優秀な人だけが採用されるわけではない。

■企業が重視するのは「コミュニケーション能力」や「熱意」。
学生が自分に不足していると思う能力として「語学力」「業界に関する専門知識」「簿記」等のスキル面と回答しているのに対し、企業側は「主体性」「コミュニケーション能力」「ねばり強さ」等のマインド面を重視しているという調査がある(参照・Benesse教育研究開発センター「社会で必要な能力と高校・大学時代の経験に関する調査」(2010年))。

別の調査では、人事担当が面接時に特に注視するところとして「明るさ・笑顔・人当りの良さ」「入社したいという熱意」といった「印象」と「入社意欲」を中心に選抜する傾向が強かったという(参照・株式会社マイナビ「2017年卒マイナビ企業採用活動調査」2016/11/28)。

上記から、企業は就活において必ずしも優秀な人、頭の回転が速い人や知識量が多い人ばかりを求めていないことが分かる。スキル面は採用後に育成すればよく、あくまで採用時に評価するポイントは「コミュニケーション能力」や「熱意」といった、非常にあいまいな能力なのだ。

■なぜ、あいまいな能力が重視されるのか
特に、昨今の売り手市場では「コミュニケーション能力」と「熱意」が欠ければ内定獲得は厳しいだろう。この2つは職場に適応するのに不可欠な能力だからだ。

職場は異なる年代・性別・志向の人が集う異質な集団だ。新入社員の仕事は、まず職場に適応しうまくやっていくことに尽きる。仮に苦手な人がいてもそれ相応に付き合っていく。本来のコミュニケーション能力は、そうした異質な人たちとも円滑に業務を進めることができる力なのだ。

この点を勘違いする就活生は非常に多い。筆者の見聞きする限りでも、グループディスカッションで延々としゃべりまくる人や、個別面接で自分のシナリオ通りのやりとりに終始し会話のキャッチボールができない人が後を絶たない。これでは「自己主張が強い人」という評価しかできないことになる。

また「内定式に台風直撃?!その時、採用担当者はどうすべきか?」の記事でも述べた通り、企業にとって一番悩ましいのは内定辞退だ。

それゆえ、自社に対して勤労意欲が高い学生に内定を出したいのが本音となる。ポテンシャルは高いが志望度が低い学生よりも、少々能力は劣るが自社への熱意が高い学生を取りたいのが売り手市場の実態だ。

就活において企業研究や自己分析を行いエントリーシートの完成度を高めるのも、自分の熱意を企業側に伝えるためのテクニックなのだ。自社への志望度が高ければ細かい情報まで調べているはずというロジックになる。

■内定が得られないからといって過度に落ち込む必要はない
加えて、面接は相性の問題もある。筆者とて面接官が別の人だったら違う職についていた可能性が高い。

さらに言えば、企業の想定以上の能力を持った人も内定を得られないことが多い。非常に高い学歴が「プライドが高く職場に馴染まないのでは」と逆に敬遠される場合だ。いわゆるオーバースペックにより内定に至らないケースと言えるだろう。

そのようなあいまいな戦いであるがゆえに、未だ内定を得ていない就活生も過度に落ち込む必要はない。内定を得られない理由は能力が劣るからではなく、面接官に分かりやすく「熱意」を伝えられていないだけの話かもしれないのだ。

人手不足で採用意欲が高い企業は依然として多い。自身のキャリア志向を見直しつつ、自分自身をどのように企業に伝えればよいか、戦略を練り直してみてはどうだろうか。

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後藤和也 大学教員 キャリアコンサルタント

【プロフィール】
人事部門で勤務する傍ら、産業カウンセラー、キャリアコンサルタントを取得。現在は実務経験を活かして大学で教鞭を握る。専門はキャリア教育、人材マネジメント、人事労務政策。「働くこと」に関する論説多数。

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