1122_野口俊晴

厚生労働省の最新資料では、60歳過ぎても何らかの形で継続して働ける制度のある会社は99.7%だという(平成29年「高年齢者の雇用状況集計結果」)。「何らかの形」というのは高年齢者雇用安定法(平成25年改正)による(1)定年廃止、(2)定年引上げ、(3)継続雇用のいずれかで働ける形態である。

60歳以降は大抵の場合、大幅に給料は下がる。再雇用に限らず他社への再就職ではなおさらだ。そこであてにされるものの1つが高年齢雇用継続給付(以下、「継続給付」)だ。60歳以上65歳未満の人の賃金が60歳到達時の賃金の75%未満に下がると、賃金の一定割合相当の給付があるというものだ(雇用保険被保険者期間が5年以上の者)。

「給料が大幅に下がっても、それを補ってくれる給付金がある」、この部分だけを切り取って安心しきってしまう人はいないだろうが、いくつか注意しておくべき点がある。目前に定年を控えている人だけでなく、40~50代の定年予備軍の人にも参考にしてもらいたい。

■60歳以降の雇用でもらえる給付とは
「継続給付」についてもう少し詳しく説明したい。 60歳以降の賃金が61%以下になると最高で賃金の15%の給付がもらえ、低下率が元の賃金に対して61%から75%に近づくほど給付率は低くなる。

ここでは上限給付率で見てみる。例えば60歳到達時の賃金が30万円で、再雇用または再就職時の賃金が18万円とする。この例では賃金が61%以下となるので上限給付の月額2万7千円がもらえ、賃金との合計は20万7千円となる(給付金は非課税)。
そもそもこの18万円という賃金額が低すぎるのでは、と思う人は近くのハローワークを覗いてみることを勧める。大手会社の元役職者でも再就職賃金はこのレベルでもいい方である。

ここで注意したいのは、どの賃金額に給付率を掛けるかということである。元の賃金30万円に上限給付率15%を掛けるならば、今後の賃金に上乗せして22万5千円(30万円×15%+18万円)になる。だが、そうではない。先の例のように給付率は下がった方の賃金額に掛けるのである。

これは60歳到達時の賃金が40万円だったとしても同じである。40万円が18万円になると低下率45%であるが給付額はやはり2万7千円で、給付込み賃金は20万7千円である。この給付は、元の賃金がいくらだったかよりも、今後いくらの賃金になるかが重要なのである。いずれにしても、低賃金を十分に補えるほど期待できるかどうかは個人レベルによる。

■給付はもらい損ねのないようにもらう
ともあれ、もらえるものはきちんともらっておくことだ。仮に月2万円の給付でも、5年間ともなると120万円になる。それだけに正しい知識を持っておいてほしい。会社の説明を受けた人でも、「継続給付」についてあいまいな知識のままの人がいるからだ。それに再雇用が約束されていても、いつ自分が再就職組になるかわからない。のちに見るように、再雇用より再就職の方が状況はずっと厳しい。

「継続給付」のもらい損ねのないように再就職の例で主に2つ説明しておきたい。1つは、定年退職して再就職先が決まるまでの間、雇用保険の基本給付(失業給付)をもらいきっていたとしよう。新しい職で賃金が下がっても、給付金で低下分を補えばいいと当てにしたりする。この人は、給付金がもらえるか?

給付金は、当然もらえない。失業給付をもらったら「継続給付」の受給資格はなくなる。これを知らないと、本人はあとでけっこう落胆する。「それなら、もう少し給料のいいところに入ればよかった・・・」と。

もう1つの基本的な勘違いは、「定年」の時期によるものだ。例えば早期退職したとする。59歳2カ月で辞めて60歳1カ月で再就職し、賃金は退職時の60%となった。この間の失業給付は受けていない。給付の算定元となる60歳到達時では、無職であったため対象賃金がない。この人は、給付を諦めるか?

この場合、給付金はもらえる。60歳到達時を挟んで離職と再就職が1年以内であれば給付対象となる。逆に、失業給付を受けていなくても離職から1年を超えていたら給付金はもらえなくなる。これらはいずれも基本的なことだが、制度を知らない人にはややこしく、見落としがちな点である。

■継続雇用を希望しない人も相当数いる
40代、50代の人にとっては定年後のことはまだ先だと思うかもしれない。また収入が比較的高い人は、今の会社に居残れば再雇用となるから心配ないと思うだろう。定年時の賃金が45万円(給付対象の上限賃金月額は47万2,200円)なら6割まで下がっても27万円、これに4万500円(27万円×15%)の給付が付く。これなら無理に他社へ再就職することはないという考えが出てくる。

しかし冒頭資料によると、定年退職者のうち15.8%が継続雇用を希望しなかった人である。希望したが基準に達しなかった人が0.2%いる。60歳から64歳の常用労働者数は約204万人おり、それからすると相当数の人が再就職している。また継続雇用となっても多くは1年契約で、何割かの人は更新せずに辞めていく人もいると考えられる。理由は、単純作業に回される、元部下の指揮下となる、役職のない「ただの人」になる、行き手のない仕事に追いやられる、などメンタル面の要素があるのは容易に想像できる。

メンタル面以外でもやむなく転職せざるを得ない人たちは、「特に収入にこだわらず働きたい」というのでなければ、「同一会社の再雇用」と「他社への再就職」の格差は覚悟しておいた方がいい。

賃金の価値は人にとって相対的である。月に50万円の収入で生活をしていた人にとっては、4割減の30万円でもきついと言うだろう。しかし同じ4割減でも、20万円で生活していた人が12万円で生活するとなれば現実の状況はかなり厳しくなってくる。「継続給付」については、給付対象となる低下後の賃金上限額(39万5,899円)をもっと引き下げ、低賃金層の給付率を上げてもいいように思える。

■給付をあてにしない働き方もある
老齢年金の受給年齢が将来70歳になると言われる中、65歳以上の雇用保険も拡充され、高齢者にとっては給付の種類も増えるかもしれない。低賃金の人たちにとっては少しでも給付がもらえるなら、それをあてにした方がいい。今の給付制度は「60歳定年、65歳年金受給」を前提にしている。年金や雇用保険との兼ね合いもあり、将来の中身は廃止も含めて変わっていくだろう。受給資格があった人が受給できなくなることも出てくるし、その逆もある。

しかし、給付の有り無しや給付額で揺れるよりも、40代、50代の今から給付をあてにしないですむ働き方ができるならば、その準備をしておく方が賢明ではないかと思う。

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野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー TFICS(ティーフィクス)代表

【プロフィール】
個別の金融資産の推奨・販売をしないアドバイザリー型のFP。個人のリタイアメントプランを実現するための運用設計およびトータルなライフプランの提案。ほかに働き方、お金に関するアドバイスの提供。

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