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シェアハウス「かぼちゃの馬車」をめぐっての、スルガ銀行(以下、スルガ)による不正融資が社会問題化している。そんな中で11月27日、ある住宅建設会社が東京地裁に破産申請を提出した。かぼちゃの馬車の建築工事を多数請け負っていた株式会社ホーメスト(以下、ホーメスト)だ。

建築工事請負会社とオーナー、そして渦中の株式会社スマートデイズ(以下、スマートデイズ)はいま、シェアハウスの所有権をめぐって対立している。3者は互いにどのような主張をしているのか。カオスともいえる複雑な状況を整理したい。

■ホーメストの破綻
ホーメストと聞くと「ホーム♪ ホーマー♪ ホーメスト♪」のCM曲を思い浮かべる人もいるかもしれない。ホーメストはそのCMで有名な殖産住宅相互株式会社(現「殖産住宅株式会社」)の新築住宅事業部門を源流に持つものの、同社とは別会社だ。

ホーメスト破綻の経緯は、以下の通りだ。

破格の家賃保証を約束していたスマートデイズが経営困難であるとシェアハウスのオーナーが知り、残りの工事代金の支払いをストップしたことがきっかけだ。

ホーメストはその後、支払いを中断したオーナーに代金を払うように東京地裁に提訴したが、破産申請により裁判は中断した。今後は破産管財人に引き継がれる。(参照・「かぼちゃの馬車」建築のホーメストが破産、注目されるオーナーへの訴訟の行方 東京商工リサーチ 2018/11/28)

■詐欺的シェアハウス商法の仕組みと建物の所有権
今回起きている建物の所有権をめぐる対立と、その背景にある契約関係について整理しておこう。スマートデイズが企んだ詐欺的シェアハウス商法は、概ね以下のような複数の契約関係によって構成される(金額は例として仮の数字。矢印は金銭が支払われる向きを示す)。


A.土地売買契約 6000万円 オーナー ⇒ スマートデイズ関係業者等(市場価値3000万円の2倍)
B.土地購入資金ローン契約 6000万円 スルガ ⇒ オーナー(Aの支払いに充当)

C.建築請負契約 4500万円 オーナー ⇒ 請負業者(3回に分割、相場の2倍、半額をEの支払いに充当)
D.建築資金ローン契約 4500万円 スルガ ⇒ オーナー(3回に分割、Cの支払いに充当)

E.コンサルティング業務委託契約 2250万円 請負業者 ⇒ スマートデイズ(キックバック)

F.建物一括借上契約 月額100万円 スマートデイズ ⇒ オーナー(賃料相場月額50万円の2倍)


A・Bは土地購入時の融資と契約、C・Dは建築時の融資と契約、そしてEがキックバックでFが家賃保証、という形でこれが一連の契約となる。

最後の契約F、いわゆる家賃保証を著しく高く設定することで、投資の収益性をオーナーに誤認させるのがこの仕組みの肝だ。そもそも持続可能ではない、事実上のポンジ・スキームである。ポンジ・スキームとは、支払いのために新たな投資を繰り返し募る、自転車操業のような詐欺や詐欺まがいの仕組みをいう。

つまり、契約Fを反故にされたオーナーがさかのぼるようにFの前提となるDの借入とCの支払いを同時に中断させたため、ホーメストがCの残額の支払いをオーナーに求めたのが、上述の訴訟である。未払いの工事代金が完済されるまでシェアハウスの所有権は請負業者にあるというのが同社の立場だ。

一方オーナー側は、適正な取引が行われていたならば工事代金は完済しているはずと考え、シェアハウスの所有権も主張。さらに、多額のキックバックをスマートデイズに渡していた請負業者も一連の詐欺的シェアハウス商法の一端を担っていたとして、徹底抗戦の構えである。

引き渡しに関して係争中のシェアハウスは、建物を新築した際に行われるべき「建物表題登記」(建物の登録)や「所有権保存登記」(所有権の登録)が行えないため、登記上は存在しない建物として存在し続けることとなる。建物自体が幽霊の幽霊屋敷みたいなものだ。

登記には建築計画が適法だと確認されたことを証明する「確認済証」や、建物・敷地が実際に適法であることを証明する「検査済証」が必要となるが、これには建築請負業者の協力が不可欠なのだ。

■破綻したスマートデイズも参戦
シェアハウスの所有権をめぐるカオスな状況は、オーナーと建築請負業者の間の係争に限らない。ここに何故か、建築請負契約には直接関係のないスマートデイズが絡んでくるのである。

10月下旬、東京地方裁判所に「かぼちゃの馬車」競売物件の入札が公告された。競売対象は中野区南台五丁目の土地だが、その上に未登記のシェアハウスが建っている。この建物の所有権を土地所有者であるオーナーと争っているのが、破綻したスマートデイズの破産管財人だというのだ。破産管財人の主張はこうだ。

建物建築中にスルガ銀行の融資が止まってしまうトラブルが生じてしまい、建築施工会社が困っていたため、(株)スマートデイズが間に入り立替払いをして建物を完成させました。この建物については(株)スマートデイズも一部所有権(共有)があると考えています。(参照・平成30年(ケ)第384号-② 期間入札の広告 現況調査報告書 東京地方裁判所 2018/10/24)


未払いの建築代金をスマートデイズが立て替えたので所有権の一部はスマートデイズにあるとの主張だが、経営が傾いていたスマートデイズが工事代金を現金で支払ったとは考え難い。おそらくは、契約Eによってスマートデイズが請負業者に対して持っていた債権で、オーナーが支払いを停止したCの債務を勝手に建て替えて相殺したことにより、工事代金を支払った、だから所有権がある、ということではないか。

スマートデイズ破産管財人が未登記物件の一部所有権を主張するケースが競売によって偶然判明したわけだが、当然ながらこの件に限定した主張ではないと考えるべきであろう。筆者の聞き及ぶところでも、建築途中や引渡しが終わっていない物件は少なからずあるようだ。それらの物件に対して、今後スマートデイズ破産管財人が同様の主張を展開する可能性は十分考えられる。

スルガは中間期決算でシェアハウス融資関連の貸倒引当金を大きく積み増し、11月30日には業務改善計画も提出した。大幅な元本減免も視野に入る中、未登記シェアハウスの所有権をめぐる係争が、一部のシェアハウス・オーナーにとって問題解決の足枷となるかもしれない。

スマートデイズらが主導した、詐欺的なシェアハウス商法の「被害者」であるオーナーは、これまで主に、顧客が被る損害の可能性を認識しながら不適切な融資を行ったスルガの責任を追及してきた。だが、最終決着を見るためにも、やはり最後はスマートデイズらと対峙することになるのではないか。引き続きこの問題の行方に注目したい。

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本田康博 証券アナリスト・馬主

【プロフィール】
現役JRA馬主の証券アナリスト。米系金融グループの統計・データ分析スペシャリストとして、投資の評価やリスク推計を担う。日本初の住宅ローン担保証券等、組成した案件の受賞歴多数。京都大学MBA首席。

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