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実務家出身者を大学教員にキャリアチェンジさせる機運が高まっている。中央教育審議会は11月26日に文部科学大臣に答申を行い、実務経験がある教員の登用や、大学や企業など複数の機関に籍を置いて研究できる制度の活用などで、教員の多様性を高めていくことを求めている。

筆者はこの春、人事部門での実務経験などを活かし大学教員に転じた。大学教員への転職経験者として「ビジネスマンが大学教員になる」ことについて考えてみたい。

■なぜ大学で実務家教員が求められているのか
上述の答申は2040年ごろの社会を見据えた高等教育のあり方について提言したもので、キーワードは「多様性」と「柔軟性」だ。大学の顧客である18歳人口の減少やAI等の技術革新を見据え、大学の存在意義を高める狙いがある。

社会人のリカレント教育(就労に活かすための学び直し)や外国人の学びなどに対応した多様な大学をつくるためには多様な教員が必要ということだ。学生や保護者のニーズに応えた教育を行うための布石でもある。

先に「ビジネスマンから大学教員に転身する方法とは。」の記事でも書いた通り、従来大学教員になるためには大学を卒業後大学院に進学しアカデミックな業績を積むのが通例であった。研究分野にもよるが、研究職以外の職歴を持つ大学教員は少数派だ。

答申の背景には、未曽有の社会変化に対応するためにこれまで大学に関わらなかったタイプの人間が必要だと考えられている、ということに尽きる。イノベーションは異なる考えや視点を持った者同士が集まってこそ起きるものだからだ。

■ビジネスマンから大学教員になるとここが変わる!
大学教員の働き方の特徴は「(専門業務型)裁量労働制」であることだ。これは業務の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねるもので、労使であらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度である。わかりやすく言えば、出退勤を上司に管理されることもないし遅刻や半日休暇という概念も無い。もちろん、残業という概念も無くなる。

裁量労働制拡大を企図した法案を巡り国会が紛糾したことが記憶に新しいが、大学教員に限って言えば育児や家庭とのバランスをとりやすい運用が可能だ。

とは言え、当然ながら大学教員として授業や会議もあり、完全に自分の思い通りに業務を進められないのも事実である。また知人の大学教員は上司である教授から「朝の出勤が遅い」と指摘され、その教授より早く出勤するようにしているという。大学教員とて、働きやすさについては職場の風土や上司との相性といったインフォーマルなファクターに左右される。

また、大学教員の仕事の一つに「社会貢献」がある。これは市民対象の公開講座の運営など多岐にわたるものであるが、民間企業への技術的な指導や書籍の執筆など、いわゆる副業的な内容も含まれている。それらに堂々と従事できるのは、何かと制約の多いビジネスマン時代から比べれば自由度が増したと言えるのかもしれない。

■ビジネスマンから大学教員になって課題だと感じる点。
とは言え大学教員になって課題も多い。先に述べた裁量労働制も授業や研究活動が忙しくなれば、残業代なしの定額使い放題となり得る。

また「好きなことが仕事になって幸せだね」とよく言われるようになったのだが、自分の専門(≒好きなこと)が仕事になった結果、仕事とブライベートの区別が極めて曖昧になってしまっている。趣味のことを考えていたつもりがいつのまにか仕事のことを考えていることは日常茶飯事だ。もちろん誰かに強制されているわけではないのだが、両者の線引きができない現状は精神衛生上よくない場合もある。

他にも細かなことを上げればキリはないのだが、通常の異業種への転職に類する悩みは尽きない。大学教員への転身が必ずしもハッピーなことだらけではない。

■大学は斜陽産業である。では、どうすれば?
あえて過激な言い方をすれば、少子化の現在、大学はもはや斜陽産業だ。

日本私立学校新興・共済事業団の2018年度の私立大学の入学志願者動向の調査結果によると、私立大学のうち約36%が定員割れであったことが判明した。(中略)2000年以降に経営破綻を主な理由として廃止、または、民事再生法を申請した四年制の私立大学は14校にのぼる。
(忍び寄る「大学倒産」危機 2000年以降すでに14校が倒産している 2018/12/03 ニューズウィーク日本版 松野弘)


また、大学教員の採用条件は任期付きのものが圧倒的に多い。若手の教員は複数の大学を渡り歩きながら研究業績や教育実践を重ね、任期なしのポストを目指す競争にさらされている。大学教員とて自身のキャリアを見据え、専門家集団の中で抜きんでるくらいの業績を積み続ける技量や才能を持つか、何かあればキャリアチェンジして生計を維持する技能が必要とされる。

上述の実務家出身教員とて、経験談や自分語りをするだけの人材は早々に三くだり半を突き付けられてしまうだろう。あくまで実務で得た知見をベースとして、大学教育に相応しいだけの質が担保できなければダメなのである。

実務家出身教員が大学にイノベーションを巻き起こし得るか?については、彼らが謙虚に既存の教員から学びつつ、建設的な提案を地道に重ねる他はない。現場の実践知を社会の共有知にするために、実務家出身教員への期待はかつてなく大きくなっているのだから。

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後藤和也 大学教員 キャリアコンサルタント

【プロフィール】
人事部門で勤務する傍ら、産業カウンセラー、キャリアコンサルタントを取得。現在は実務経験を活かして大学で教鞭を握る。専門はキャリア教育、人材マネジメント、人事労務政策。「働くこと」に関する論説多数。

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