0109_後藤かずや

新年を迎え「今年こそ資格を取ってキャリアアップを」と考えている人も多いのではないだろうか。筆者が保有する国家資格キャリアコンサルタントは、社労士や中小企業診断士と並んでビジネスパーソンに人気の資格だ。

しかしその人気とは裏腹に、キャリアコンサルタントの待遇は決してよいと言えない。政府も力を入れるキャリアコンサルタント職の現状とこれからについて考えたい。

■初任給より給料が安いキャリアコンサルタントの求人内容
先日、キャリアコンサルタントを応募条件とした有名大学の求人を目にして思わず椅子から転げ落ちそうになった。以下がその概要だ。

職務内容:
(1)就職ガイダンス、懇談会、説明会(セミナー、講習等を含む)、企業と院生との交流イベント、研究インターンシップ支援業務等就職・インターンシップ関連行事の企画・実施
(2)インターンシップを含むキャリア教育に関わる業務の企画・実施
(3)キャリア教育・キャリア支援に関する調査・分析と取りまとめ
(4)企業・官公庁等の人事担当者の来訪対応
(5)その他、グローバル女性リーダー育成研究機構及び学生・キャリア支援センターに関する業務
給与:
基本年俸270万円(基本年俸を 12 月で割った額を毎月支給)
「教員・教諭等公募」お茶の水女子大学HP 2018/01/08確認


本件は年度更新の有期雇用であり、雇用上限は最長3年であるという。一方、キャリアコンサルタント以外の応募資格として修士の学位や学部・大学院生へのキャリア支援の職務経験などが例示されており、職務内容を鑑みればかなりハードルが高い印象だ。

また、給与月額は270万円÷12月で20万円弱となる。実際は税金等が控除されるため、手取り額は10万円台になる可能性が高い。

■キャリアコンサルタントの多くは「年収400万円未満」のリアル。
厚労省の統計によれば、平成30年の大学院修士課程修了者の初任給は23万8,700円となっており(参照 厚生労働省「2018年賃金構造基本統計調査(初任給)」)修士課程修了者の雇用を想定する上記の給与月額はこれを下回ることになる。

「国家資格なのにこんなに給料が安いのか…」と愕然とした人もいるだろう。果たして上記の給与額は妥当なのだろうか。

キャリアコンサルタントの年収のボリュームゾーンは200万円以上400万円未満である(参照 独立行政法人労働政策研究・研修機構「キャリアコンサルタント登録者の活動状況等に関する調査」2018/03/16)。

また同調査によれば、キャリアコンサルタントの現在の就労状況として、正社員が38.9%、非正規社員が28.8%だ。以上を鑑みれば、上述の求人内容が劣悪なわけではなく、むしろ現状に即したものであることがうかがえる。

■キャリアコンサルタントが自分のキャリアを築けないのでは。
さらには「キャリアコンサルティングに関連する活動で主に生計を立てている者」が21.8%である一方、「キャリアコンサルティングに関連する活動以外で主に生計を立てている者」は41%に及ぶ(前掲調査)。属人的かつ工夫次第だろうが、キャリアコンサルタントの資格を取得しても4割の人は全く別の手段で生活しているのが現状だ。

一方で、国家資格キャリアコンサルタントの試験機関であるキャリアコンサルティング協議会は「企業の採用・人材育成・組織開発の現場で、就職・転職支援の現場で、就活支援・キャリア教育の現場で、キャリアコンサルタントの専門的なスキルが求められています。」と明言する。

かねてから介護業界の低賃金・重労働が社会問題となっているように、仕事の社会的ニーズと待遇は直結するものではない。とは言え、前述の厳しい現状に全く触れることなく資格の優位性を宣伝することは筆者は好ましいものだと思えない。政府のキャリアコンサルタント5万人計画によって誕生した肝いりのキャリアコンサルタント資格であるが、それから約20年経過した現在ですら、自らのキャリア形成も怪しい状況なのだ。

■キャリアコンサルタントの未来は暗いのか?
ただし、様々な社会の変化を想定すればキャリアコンサルタントの未来は必ずしも暗くはないというのが筆者の考えだ。

政府が推進する「Society5.0」では、多様な人材(女性、高齢者、障害者など)の活躍や副業・兼業の推進による、従来の正社員以外の働き方を目指している。そこには労働者が「気づき」の機会を得られるようキャリアコンサルティングを促進することが明記されている。

昨今政府は「生涯現役社会の実現」と称して、65歳以上への継続雇用年齢の引き上げを明言している。副業解禁や女性活躍推進なども推進され、老若男女問わず働くことを巡る状況は激変しつつある。

未曽有の状況変化に応じたコンサルティング能力を磨きつつ、キャリアコンサルタント自身もパラレルな活躍の場を持つことがマストになる。それにより、企業内のキャリア面談やキャリア研修、各種の相談対応など活躍のすそ野は益々広がるだろう。逆の言い方をすれば、これまでの慣習や働き方から脱却できない場合は箸にも棒にも掛からぬ状況になる。

また、これから社会で働く学生へのキャリア教育も重要である。筆者は現在短大でキャリア教育を行っているが、人生100年時代を見据えたキャリア支援を担える人材が圧倒的に不足しているのが実感だ。労働社会の実践知を論理的に教授できるキャリアコンサルタントが強く求められている。

社会の変化に適応しニーズに的確に応えていく中で、キャリアコンサルティングが社会のインフラとなり得たとき、結果として「キャリアコンサルタントの待遇は妥当なのだろうか」という社会的な議論につながるのかもしれない。激変する労働社会に適応できるキャリアコンサルタントの未来は非常に明るいのだ。

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後藤和也 大学教員 キャリアコンサルタント

【プロフィール】
人事部門で勤務する傍ら、産業カウンセラー、キャリアコンサルタントを取得。現在は実務経験を活かして大学で教鞭を握る。専門はキャリア教育、人材マネジメント、人事労務政策。「働くこと」に関する論説多数。

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