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先日、人工の流れ星を発生させるための小型衛星が打ち上げられたことがニュースとなった。将来的には、夜間のイベントで有料での人工流れ星の演出を行うことを予定しているという。(JAXA、宇宙ベンチャー支援=人工流れ星など新事業創出へ 時事通信 2019/01/20)NHKニュース「おはよう日本」でもこの人工流れ星の話題が取り上げられた。アナウンサーからは「これまでのイベントよりも広範囲で多くの人が楽しめるようになる」と好意的なコメントもなされいた。

新しい技術でこれまでにないビジネスが産まれれば、考えるべきことは増える。これまで議論されていない「空」のビジネスについて、法律のな観点から考えてみたい。

■広がりが予想される「空のビジネス利用」
人工流れ星を開発する株式会社ALEの代表者・岡島礼奈さんは「オリンピックで盛り上がっている日の夜に、流れ星で夜空を彩れたら楽しいだろうと思う。上を向いて、願い事かけ放題ですし、みんながワクワクするとか、ドキドキするとか。宇宙に対しての思いを感じ取ってくれる日ができるといいと思う。」と話す(人工流れ星を夜空に! NHK 『おはよう日本 けさのクローズアップ』 2019/01/16放送)。

流れ星を作り出すという発想はとても斬新で、それを実現する技術は宇宙を身近にしてくれるものであると思う。

少し前には、ロシアの企業が人工衛星を使い、夜空を巨大なディスプレイとして企業ロゴを映し出すという報道もあった。技術の進歩によって、これまで想像もできなかった形で「空」がビジネスに利用されるようになるかもしれない。

■空に所有権はどこまで及んでいる?
空はいったい誰のものなのか?法律では「土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ」とされている。つまり土地の所有権があるからといって、無制限に空の権利の主張ができるわけではない。

空の利用については、実は様々な法律で規制を受ける。例えば「航空法」がある。空港の付近では、飛行機の離着陸を安全に行うことができるように航空法で空の利用に一定の制限がある。この制限を超えるような建物の建築は許されていない。土地の取引を行う際は、仲介業者から重要事項の一つとして説明がなされるところだ。

では「空」でももっと上空、空の限界はどこだろうか。これについては明確な法律はないようだ。JAXAでは地表より100キロ以上を「宇宙」としてと区別している。「宇宙」となると、もちろん、土地の所有者の権利だって及ばない、ということになるだろう。

では人の権利が直接及ばない公共の空間は先ほど触れたロシアの企業のように自由に利用してよいだろうか。

■宇宙では何をしてもよい?
ここで考えたい事例として、少し古い裁判例だが「とらわれの聴衆事件」といわれる裁判がある。大阪市営地下鉄において、乗車中に聞きたくない商業宣伝放送を聞かされるのは問題ではないかという点が争われた事件だ。

ポイントしては、公共の交通機関という日常生活の中で利用せざるを得ない、いわば「とらわれている」の状況の中で、聞きたくない音から逃げることができないという点にあった。

この裁判では、商業宣伝放送が違法とまでは言えないとして負けてしまったのだが「聞きたくないものを聞かない権利」は、どう定義するかは置いておいて、まったく検討の余地がないわけではなかった。

今後、空のビジネスが進んでいくと、夜空を眺めただけで企業ロゴをあちらこちらに見かけるようになるかもしれない。「見たくもないものを見せられる」と感じる人もいるだろう。

空を商業的に利用したいと考える人がいる一方、夜空くらいは自然のままであってほしいと考える人もいるはずだ。このような両者をどのように折り合いをつけることになるか、検討する必要はないのだろうか。

■路上広告にもルールがある
公共の場でのビジネスは現在においても例はいくつかあるが、例えば路上広告をあげることができる。路上広告をする際、もちろん、無制限に広告を出してよいというわけではなく、ちゃんとルールがある。

私は、司法書士として福岡市内に事務所をかまえ業務にあたっている。10年ほど前は、福岡市内ではヤミ金融の張り紙や看板などの違法広告が至るところにあふれかえっていたものだった。福岡市に登録をしてこのような張り紙や看板などの撤去活動をやっていたこともあった。違法な貸し付けを誘発するだけでなく、景観を損ね、看板が車や歩行者の死角を作り、事故を引き起こす原因ともなるものでこのような広告は規制されている。

いかに公共の場であるといっても、人の生活環境を守るために何でも自由に、というわけにはいかず、一定の規制があるということだ。

■独占的に使用できる空間でさえ制限を受けることがある
社会生活を送る中では独占的に使用できる空間でさえ制限を受けることがある。マンションの騒音問題がそうだ。

マンション暮らしをする際、自分の居住スペースでは本来何をやってもいいはずだが、様々な人が一つの建物の中で暮らすマンションでは、独占的に使用できるはずの空間でさえ調整が必要となる場面がある。

まったく無音で生活をするということは不可能なためある程度は我慢をする必要がある。しかし、夜中に楽器を演奏するような我慢の限界(受忍限度という)を超える音を出している場合は、ケースによっては損害賠償の対象ともなる。

■空の開発についてはその影響をしっかり議論するべき
居住空間のように基本的には自由に何でもできる空間であっても他人との関係の中で制限を受けることがあり得る。今回取り上げた空という公共の空間であっても、自由に開発してよいことにはならないだろう。それは路上広告の例を挙げたとおりだ。空のもとには多くの人の生活がある。受け止め方は人それぞれだ。

空については、これまで想像もできなかった開発の情報に目を奪われがちだが、夜空の無秩序な開発が進み、企業のロゴだらけ……なんてことは誰も望まないだろう。適切なルールとは何か、これからしっかりとした議論が行われることを期待したい。

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及川修平 司法書士

【プロフィール】
福岡市内に事務所を構える司法書士。住宅に関するトラブル相談を中心にこれまで専門家の支援を受けにくかった少額の事件に取り組む。そのほか地域で暮らす高齢者の支援も積極的に行っている。

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