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まもなく3月。経団連のルールによる就職活動(就活)解禁日である。筆者の前職は採用担当者であり、現在は短大でキャリア支援について研究している。この時期は様々な就活本に目を通すが、なかには面接がコミュニケーションの場であることを軽視した「奇策」ととれるものも少なくない。

多くの就活生は不安を抱えながら就活に臨んでいる。その不安につけこみ煽るような就活ビジネスに対して、筆者は警鐘を鳴らしたい。本稿では採用担当者の目線も交えつつ就活における面接について少々考えてみたい。

■「オロナインをつけたソイジョイ」は正解なのか?
先日とある就活本がTwitterで話題となっていた。6万件以上の批判的な内容のリツイートがなされていたことから早速購入して読んでみたところ、思わず口にしたコーヒーを吹き出しそうになってしまった。主に面接での一問一答を指南する内容なのだが、正しいとされる解答例が筆者から見て明らかに問題がある。以下が一例だ。

Q:自分を物にたとえると何ですか
OK例(大塚製薬・合格者の場合):‘‘オロナイン‘‘をつけた‘‘ソイジョイ‘‘です。私はサッカーが趣味で、筋肉をつけるために、よくソイジョイを食べます。この足の筋肉は、ソイジョイの大豆たんぱくのおかげです。しかし、激しい練習で擦り傷が絶えず、いつもオロナインのお世話になっています
工夫のポイント:常識を打ち破る発想で言葉を考えないと、その他大勢から抜け出せない
イッキに内定! 面接&エントリーシート[一問一答] 2021年度版 (「就活も高橋」高橋の就職シリーズ) 坂本直文 高橋書店


たしかに、この回答を最初にした就活生であれば、ユニークな発想を持っていると評価される可能性はある。このケースでは、企業側がユニークな人材を求めていて、そこにフィットしたために採用につながったのだろう。しかしこの内容を真に受けた就活生が「オロナインをつけたソイジョイ」と自称し始めたとしても、内定につながるかは甚だ疑問である。

面接はコミュニケーションの場だ。就活生の職場へのフィット感など、筆記試験などではわからない部分を採用担当者が唯一観察できる場と言って良い。その本質を捉えていなければ、ただ奇抜な回答をすればよいと就活生が表面的に受け取る危険性がある。

■面接はコミュニケーションの場である
面接では会話のキャッチボールを通して就活生の人となりを判断する。端的に言えば、採用担当者は就活生がどんな人なのかを知るために、活発に言語的なコミュニケーションを図ろうとしているのだ。

もちろん、先ほどのOK例の内容は実際に内定者の実例なのだろう。しかしそれは、この内定者のキャラクターと、それまでのやりとりという文脈の中における「一回答」にすぎない。その一言があったから内定したわけではないはずだ。そもそも面接が時間をかけた言語的なコミュニケーションである以上「このように回答すれば即内定!」などということ自体あり得ないのだ。

また前掲書には次のような回答例も掲載されている。「今日はここまでどのように来ましたか」という質問に対するOK例として、経路の説明が5行にわたり長々と続き、地下鉄の車内では御社の広告を見つけ、うれしい気持ちになりました、とヨイショするような内容まで含む。

「乗換案内サイトのような説明を心がけた」回答だそうだが、来場手段の質問は面接冒頭で就活生の緊張をほぐすために行われるケースが多い。そのような意図に対して延々と経路や所要時間の説明を回答するのが果たして良好なコミュニケーションといえるのか。

さらに言えば、面接での立ち居振る舞いは、将来自社の一員として関係者とうまくやっていけるか判断する格好の材料となる。仮に取引先から世間話で同様の質問をされた場合、上記のような回答は信頼関係を生むだろうか。

■採用担当者が知りたいのは「職場へのフィット感」だ。
経団連の『高等教育に関するアンケート』によれば、企業が学生に求める資質・能力・知識は「主体性」「実行力」「チームワーク」などである(一般社団法人日本経済団体連合会 『高等教育に関するアンケート』主要結果 2018年4月)。如何様にも解釈できる能力であるが、これらを念頭に設定されるのが「自社の求める人材像」だ。そして、目の前の就活生がそれにフィットするか否かを見極めるのが面接ということになる。

面接はコンテストやオーディションの場ではない。採用担当者は自社にフィットする人材、さらに言えば自分の部下として使えそうな人材を求めているのであって、決して奇をてらったりする人材を欲しているわけではないのだ。あくまで「この人だったら一緒に働ける」と判断された就活生のみが採用される仕掛けであり「優秀な人」や「目立つ人」から順に採用されるのではない。

筆者は、学生たちに面接で盛った表現をしたり事実を偽ったりしないよう口酸っぱく指導している。そのようなことがあると、人柄が採用担当者に伝わらなくなるのだ。キャラが伝わらなければそもそも会社にフィットするかが判断できないことになる。

■コミュニケーション軽視の奇策は無意味
こうした就活本の内容は、面接が職場とのフィット感を測るためのコミュニケーションの場であることを軽視していると筆者は考える。しかしこうした「奇策」が出回るのは今回だけの話ではない。

就活業界では有名な話だが、かつて広まった就活にまつわる都市伝説がある。

一つ目は「納豆人間」。これは自己PRの際に「私は納豆のような人間です!なぜならば…」とどんなことにも粘り強く取り組むことをアピールするというものだ。

二つ目は「ここでリクルートスーツを脱いで帰ります!」というもの。これはこの会社に就職することを決め、以後就職活動は行わないという宣言であるという。

両者とも当時就活サイトや就活本を中心に「面接におけるベストな解答例」といった広まり方をしたものだが、あまりにも同旨の回答をする就活生が続出したため軒並み採用担当者からの評価を下げてしまったという。

これまで述べた通り企業が求める人材は非常に曖昧だ。採用プロセスには多数のバイアスがかかるため、採用担当者でさえ論理的に自社が内定を出した(出さなかった)理由を説明するのが難しい。

「プロセス自体が不透明なこと」や「成功や失敗について論理的な説明が難しいこと」が就活の大きな特徴であり、それが就活ビジネスによる成功体験や奇策の押し売りが横行する要因となっている。内定さえ得られればどんなロジックでも正解となり得るため、過度に人目を惹くような方法論が叫ばれがちで、「オレはこうして内定した」という切り口に多くの不安を抱えた就活生がすがってしまうという構図になるのだ。

しかし、面接は対人コミュニケーションであるという基本に立ち返れば、表面的な奇策は意味をなさないことがわかるだろう。就活ビジネスを含めた我々支援者は就活生に対し、面接という場の意味を含めた正しい知識を提供すべきではないか。

■就活に唯一絶対の解はない。ではどうすれば?
繰り返すが企業が求める人材像は多様で曖昧だ。人が人を選ぶ以上、面接官個人の価値観が加わる部分もある。冒頭のような自己PRも上手くいく可能性はゼロではないだろう。

逆に言えば、唯一絶対の解もありはしない。一つ確かなことは、一問一答ではくくれない「あなた」という人間を語れるのは紛れもないあなただけということだ。借り物の表面的な言葉で語り切れるほど、あなたの人生は薄っぺらいものではないはずである。

そのために必要なことは、まずは奇策に踊らされることなく面接がコミュニケーションの場であることを自覚すること。そのうえで自己理解や企業研究といった地道な努力を欠かさないことだ。そうした基礎がなければ堂々と他人に自分自身を語ることはできない。

就活というキャリアの節目で真剣に自分自身と向き合い、自分なりの職業観について採用担当者にぶつけてみてほしい。あなたの本気を採用担当者は心待ちにしているはずだ。

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後藤和也 大学教員 キャリアコンサルタント

【プロフィール】
人事部門で勤務する傍ら、産業カウンセラー、キャリアコンサルタントを取得。現在は実務経験を活かして大学で教鞭を握る。専門はキャリア教育、人材マネジメント、人事労務政策。「働くこと」に関する論説多数。

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