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賃貸アパート大手のレオパレス21(以下、レオパレス)が物件の施工不良により、約7,700人を対象として補修のための退去を求めている。

この問題を受け、2月と3月に「レオパレス居住者110番」と題し、レオパレス物件の入居者を対象とした電話相談会が大阪と福岡の弁護士・司法書士の有志によって開催された。福岡で司法書士事務所を構えている私も相談員として参加した。

相談の中には、修繕のために転居が必要となる場合の補償の条件がはっきりしないという声があった。

レオパレスはオーナーに対する説明会については各地で開催し、修繕に向けた計画や補償などについて説明を行っている。しかし入居者に対する説明会は開催しておらず、補償についての報道も多くはない。入居者は不安に思っている方もいるだろう。

今、入居者に対するケアがしっかりできるか。これは入居者の保護という点からもそうだが、レオパレス物件のオーナーにとっても、今後入居者確保は極めて重要だ。入居者の生の声を聴いた経験も踏まえ、入居者への補償の視点からこの問題を整理したい。

■入居者は一時的な仮住まい? それとも転居?
当初は問題物件の入居者に3月末までに退去を求めるとのニュースが大々的に流れ大きなインパクトがあったが、レオパレスが公式ホームページで発表している入居者向けのQ&Aでは、実のところ入居者の対応を一律にするというわけではないことがわかる。

レオパレスはホームページでQ&Aを頻繁に更新し情報を発信しているが、入居者への対応として、補修箇所ごとに「一時的な仮住まい」「お住み替え」「一時的な住み替え」などの言葉を使い分けている(レオパレス21公式ホームページ よくあるお問い合わせ(当社管理物件の入居者様FAQ) 2019年4月11日時点)。

明確な定義がはっきり書かれておらず、この言葉の違いは非常にわかりにくいが、レオパレス物件の入居の契約を解除し、別物件の契約を新たにする必要があるパターンを「住み替え」と表記し、契約の解除まで必要ないものを「一時的な仮住まい」と表記しているようだ。

賃貸住宅で漏水事故があったケースのように、復旧が終わるまでは一時的にホテルなどの仮住まいに移る必要があるものの、工事が終われば元の部屋に戻れるということがある。レオパレスの説明では、このようなケースを想定しているかのように読める。

公式ホームページでは問題箇所ごとに施工不良による影響と改修工事期間の目安を記載していて、例えば界壁工事不備の修繕工事については、一部屋当たり数日、小屋根裏全体の補修工事は2週間程度を想定しているとの記載がある。このように工事期間が短いものについては、「一時的な仮住まい」を入居者に求めるという対応もあるようだ。

レオパレスが「一時的な仮住まい」で済むと判断したケースで、入居者が「住み替え」を希望した場合はどうなるか?

本来、レオパレスは入居者に対して安全な物件を提供すべき義務を負っている。建築基準法に違反し防火という身の安全に影響の出る重要な問題を抱えているものであれば、入居者としては契約を解除し、レオパレス以外の物件への転居を要求することも可能であると考えられる。

このようなケースで入居者の希望がどの程度受け入れられるか注意しておく必要があるだろう。

■入居者としてはどのような費用の請求ができるか?
転居をするとした場合、新たに契約する敷金や礼金などの一時金のほか、引っ越しに要する費用を要求できる。そのほか、同程度の物件に引っ越しをしたとして、引っ越し先で家賃が増加してしまう場合は、差額家賃の一定額を要求できるケースもあるだろう。

どのような費用の請求ができるかということについては個別のケースをよく検討する必要がある。

先ほど引用したレオパレスの説明からすると、住み替えが必要であったとしてもレオパレス管理物件への転居を求めるなど、条件が付けられることが想定される。出された条件が適正かしっかりと検討する必要があるだろう。

■休業補償の対象は?
3月18日、第三者委員会による中間報告に関する記者会見が開催されたが、その中で入居者の補償について触れた場面があった。

入居者が仕事を休んで平日に行う作業(住民票や運転免許書の変更など)があった場合の休業補償や、引っ越し先で家賃が増加してしまう場合の差額家賃の補償については、補償対象とならないと言われたと。

レオパレスの回答としては、「その点については個々のお客さまごとに状況が異なりますので、個別にご相談させていただいているというのが現状」という説明がなされ、明確に補償するという回答はなかった。だが補償対象になり得ると認識していることは明らかとなった。ここは今後の参考になるだろう。

■個別対応が必要になるからこそ、入居者に不利になってはならない
補償内容を決定するにあたっては、入居者に対してしっかりと提案することが重要だ。入居者の中には細かく情報収集を行い自ら交渉ができる人もいるだろうが、中にはレオパレスからの提案を受けるがままという人もいるかもしれない。

「入居者から要求がなかったから」という理由で、本来補償されるべき費用を補償せずに終わることがあってはならない。

今回の件ではオーナー側に注目が集まる場合も多いが、入居者に対する対応についても注視していく必要がある。

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及川修平 司法書士

【プロフィール】
福岡市内に事務所を構える司法書士。住宅に関するトラブル相談を中心にこれまで専門家の支援を受けにくかった少額の事件に取り組む。そのほか地域で暮らす高齢者の支援も積極的に行っている。

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