昨今の厳しい経営環境の中、地域を牽引する企業を育成することは金融機関の社会的使命の一つです。金融機関のビジネスモデルとしてもそのような企業を育成できれば資金需要が増えるため収益の改善につながります。 少子高齢化が進む中でそのような長期的な見地に立った経営を行うのは難しいかもしれませんが、地域を牽引する新産業の創出に信用金庫が取り組むといった報道がありました。 1月に合併で誕生した浜松いわた信用金庫(浜松市)が合併効果を早く生み出そうと合理化を進めている。早々に店舗網の統廃合に着手し、効率化で捻出した経営資源により新産業創出や事業承継を支援して資金需要を掘り起こす。人口減や低金利で金融機関の経営環境が厳しさを増すなか、中長期で資金需要を生み出す新たな経営モデル作りに挑む。 浜松のいわた信金は合併に伴う合理化で150名ほどの再配置可能な職員を生み出し、15億円の資金で投資ファンドも作り、その経営資源を新たな資金需要を生む新産業を生み出すために振り向けるということです。つまりクビを意味するリストラではなく、本来の意味でのリストラクチャリング=再構築に乗り出したわけです。 ■経営資源を維持するために 金融機関が合併をすると同じ地域にある店舗は統合できますし 、統合すれば店舗の維持にかかっていた諸費用を抜本的に削減することができます。この場合、統合される店舗は同じ地域を商圏とする店舗になるため、店舗を統合し合理化してもあまり売上は変わらないとされます。 従来と同じことをより少ない経営資源を使って達成できればその分収益性は向上する。そのため合理化です。 一方で削減すべき費用と守らなければならない経営資源があります。特にそこで働いていた人の持つ貴重なノウハウは短期的なコスト削減のために人員削減をしてしまえば後から取り戻すことはできません。 そのため統合した後も、雇用を維持し組織が成長するための新しい仕事を作り出す必要があります。 ■地域を牽引する新産業とは 経済産業省が打ち出す「地域未来牽引企業」というコンセプトがあります。 「地域未来牽引企業」は、地域の特性・強みを生かして高い付加価値を創出し、将来、成長が期待できる分野での需要を地域内に取り込んで経済的な波及効果を及ぼすような、地域経済をリードする中核企業を指します。 企業は単独で存在するものではありません。地域全体で企業集積を構築したり、サプライチェーンを構成したりと、一つの目立つ企業の背景にはたくさんの企業が存在します。 逆に言えば 、ある特定の企業を応援することで、その企業が地域内で雇用したり、原材料を発注したり、外注を依頼したりすることで地域全体が盛り上がります。 地域の担い手となる企業を育成することも金融機関の重要な使命であり、浜松いわた信金の「お客様や地域に貢献するため、努力していきます」といった経営理念にも合致すると考えられます。 ■信用金庫のビジネスモデルにも合致 報道では比較的潤沢な自己資金を利用してファンドを立ち上げるということや、人員を活用して支援を行うことで、地域を牽引する新産業を育成するとのことです。 専門的な人員を活用して企業を支援したり、ファンドを組成して長期的な成長資金を投資することは資金面およびノウハウ面で力になるでしょう。加えて、信用金庫であれば当然のことながら日々の資金需要を金融面から支援することができるという強みを持っています。つまり地域のビジネスを活性化させることは信用金庫のビジネスモデルと合致した取り組みとなり得るのです。 ■企業が成長する時には、運転資金が必要 例えば卸売業の例を考えてみます。販売してから2ヶ月後に売上の現金を受け取るものの、仕入れにかかるお金は1ヶ月後に払わなければならないという状況はよくあります。もちろん仕入れてすぐに売れるわけではないので在庫も平均して1ヶ月ほど滞留すると考えます。 この場合原価率を7割とし、毎月の売上が100万円増えると考えると、「100万円×3か月×原価率7割=210万円」と言う計算となり、ざっくりと200万円ほどの運転資金が必要となります。 売上が増加局面にあってもお金の支払いと受け取りのタイミングがずれることで現金が足りなくなります。このお金はどこからか工面してこなければなりませんが、信用金庫はこの運転資金を手当てすることができるのです。 取引先の企業が成長すれば運転資金の需要は増えますので、信用金庫としては本業が盛り上がります。それに加えて、一社の業績が伸びることにより、その地域内にある他の企業の業績も改善すればさらに資金需要が発生します。仕入れ代金や人件費などの運転資金に限らず、場合によっては新たな設備導入などの大規模な資金需要も発生することが考えられ、 地域の信用金庫にとってこのような地域活性化の取り組みは本業と相性の良い取り組みであると考えられるのです。 このような取り組みは他業種でも考えられます。例えば卸売業が取引先の小売業を支援することで取引高の拡大を図ることが可能となります。 ここでのポイントは、新たな経営資源を調達してきたわけではなく既存の取り組みを整理統合した結果生じた経営資源で実施しているということです。 そのような抜本的な改善を考えることが経営トップには求められているのです。 【関連記事】 ■もはや巻き戻らない「働き方改革」ーイチ早く取り組んで先行者利益を得るべき http://keieimanga.net/archives/10000366.html ■今年の帰省で話し合うただ一つのこと。実家の事業について話し合うことの大切さ http://okazakikeiei.com/2018/01/02/kisei/ ■テレワークが普及しない理由は「誰が何をやるか」決めてないから。 (岡崎よしひろ 中小企業診断士) http://sharescafe.net/53950081-20180807.html ■小売業の正月休業は単なる働き方改革ではなく、経済合理性のある行動である(岡崎よしひろ 中小企業診断士) http://sharescafe.net/54512663-20181130.html ■地方で起業すると300万円!? 補助金で起業の成功率は上がるのか? (岡崎よしひろ 中小企業診断士) http://sharescafe.net/54081668-20180903.html 岡崎よしひろ 中小企業診断士 【プロフィール】 全ての事業者に事業計画を。2009年に中小企業診断士登録後、地に足の着いた事業者支援に取り組む傍ら、まんがで気軽に経営用語というサイトを運営。朝型生活を実践する2児の父。 シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |