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10月から消費税率が上がりました。軽減税率などという面倒なものも導入されました。誰だって消費税なんか払いたくないですよね。それなら「消費税をゼロにすれば良い」と考える人もいるでしょう。今回は、その可能性について考えてみましょう。

■消費税は他の税より優れているのか?
財務省が財政再建を目指すとして、なぜ他の税ではなく消費税が増税されるのでしょうか。

財務省の説明によれば、理由の第一は「現役世代だけではなく、広く負担してもらうため」だそうです。しかし消費税が上がると消費者物価指数が上がるので、高齢者に支払われる年金額は増額になります。

したがって、やはり消費税増税の負担は現役世代に重く、高齢者には軽くなるのです。

財務省による理由の第二は、「景気の波によって税収が左右されにくいこと」だそうです。消費税収が景気の波の影響を受けにくいことは確かでしょうが、それが望ましいことなのか否かは、議論のある所でしょう。

所得税等は景気が拡大すると税収が大幅に増えます。景気の過熱が自動的に防がれインフレが抑制される一方で、景気が悪化すると税収が大幅に減るので、景気の落ち込みが軽減されます。

これは所得税等の大きなメリットだといえそうです。何といっても、政府日銀が景気の変化に気づいて対策を採る前から税収が勝手に景気の波を平準化してくれるのですから。

消費税にはこのメリットが無いのだとすれば、それは消費税のデメリットといえるでしょう。

また、消費税は誰にでも同じ税率で課されます。所得税等は累進課税ですから、高額所得者には高い税率が課されます。一方、消費税は誰でも一律に10%(軽減税率の場合は8%、非課税品目もある。以下同様)です。

これは、平等といえば平等ですが、「低所得者の方が負担感が重いので、逆進的で不平等だ」と考える人も多いようです。

■消費税を廃止したら景気は良くなるのか
普通に考えれば減税は景気にプラスです。そこで消費税を廃止すれば景気が大いに拡大するだろうと期待する向きも多いようですが、過大な期待は禁物です。

超大型の減税を一気に行なうと、景気が加熱してインフレになりますから、日銀が金融を引き締めて景気を抑制します。

せっかく減税で景気を拡大させようとしても、その効果を日銀が打ち消してしまうのです。これは勿体ないことです。

加えて、廃止前の猛烈な買い控えと廃止後の反動増から経済が大混乱する可能性が高そうです。

そこで筆者は、どうせ消費税を廃止するなら何回かに分けて税率を引き下げていくべきだと考えています。たとえば2年に一度くらいの頻度で、2%ずつ消費税率を引き下げていくのです。もちろん、景気が絶好調の場合には延期することが必要ですが。

■財源は相続税と固定資産税で
消費税を撤廃しろという要求に対しては「財政赤字が巨額だから、減税など不可能だ」と財務省は言うでしょう。それに対しては「相続税を増税すれば良い」と筆者は考えています。

相続人が「たまたま金持ちの家に生まれただけ」で多額の遺産を手にするのだとすれば、汗水垂らして働いた人から税金を取るよりも相続税を取る方が公平でしょう。

しかも痛税感も少ないはずです。「棚からぼた餅が落ちてきたが、期待していたより小さかった」といった程度でしょうから。

配偶者が遺産を受け取る場合については、いろいろな要素がありますから、本稿では論じないこととしましょう。親が相続する場合についても、論じないことにしましょう。

子には高率の課税をして構わないでしょう。特に、被相続人に配偶者も子も親もいない時には兄弟姉妹が相続するわけですが、その際の相続税率は100%でも構わないほどだと考えています。

経済への影響も小さいはずです。自分で努力して稼いだ金に課税する所得税や法人税よりも、相続税の方が勤労意欲を損ねないでしょう。「子供に相続させるために懸命に働く人」より「自分の生活のために懸命に働く人」の方が多いですから。

消費への影響も相続税は少ないはずです。多額の相続財産を手にした人は、それを一度に使うのではなく、老後のために貯金しておく人が多いでしょうから「相続税の分だけ今年の消費が落ち込む」ということにはならないでしょう。

一方、所得税であれば「稼いだ分は老後のための数万円を残して全額使う」という人も多いでしょうから、税額がそのまま消費の減少につながりかねません。

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塚崎公義 久留米大学商学部教授

【プロフィール】
日本興業銀行(現みずほ銀行)にて、主に経済関連の調査に従事した後、久留米大学に転職。趣味は、難しい事を平易に解説する文章を書く事。SCOL、Facebook、ブログ等への執筆のほか、著書も多数。

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