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前回の記事「コロナ禍で患者が半減した病院の実態」では、患者が激減し経営が苦しい病院の実態を説明しました。今回の記事ではコロナ患者を受け入れる病院が少ない根本的な理由について説明したいと思います。

■クラスターが発生すると大赤字に
1年以上続くコロナ禍で苦しい経営をしている中小病院ですが、コロナのクラスター(集団感染)が発生すると、大赤字になります。クラスター感染に限らず、病院の6割が赤字と、昨年6月に公表された調査データでも、コロナ患者を受け入れている病院の方がより赤字の割合が多くなっています。

赤字の病院は全体の66.7%、コロナ患者を受け入れていない病院は62.3%、受け入れている病院は78.2%と、相当に大きな差となって表れています。東京に限定すればコロナ患者を受け入れている病院の89.2%が赤字です。

なぜ、ここまで赤字になってしまうのでしょうか?

中小病院の外来には病院に訪れる患者だけでなく、救急車の受け入れ、クリニックや大病院からの紹介など、様々な経路から患者が訪れます。

仮に1つの病棟でクラスターが発生すると、患者、医師、看護師がPCR検査をおこない、陽性の医師や看護師は自宅療養する必要があります。加えて、濃厚接触者となった医療従事者も2週間ほど自宅待機になってしまいます。

このような状況になると病棟の看護師や医師が足りなくなるため、外来や救急車の受け入れは休止して、外来・救急に対応していた看護師や医師を病棟に配置転換することになります。加えて、クラスターの発生していない病棟の医師・看護師は、クラスターが発生した病棟に応援に行かなくてはいけません。

このように、1つの病棟のクラスターで空いた穴を埋めるために、外来の医業収入がなくなり、他の病棟からの医業収入も減る、つまり大赤字になるわけです。

中小病院の病院長として、コロナ患者を受け入れたいという気持ちがあったとしても、クラスター発生のリスクを考えると受け入れを断らざるを得ないという状況でした。

そしてクラスターが発生しなくとも、コロナ患者への対応は手間とコスト、加えて医療従事者側が神経も使う事から、前述のデータの通り、赤字に転落しやすくなってしまう傾向があると考えられます。

■クラスター発生した病院のリアル
筆者の知人の医師は東京都内の中小病院に勤務していますが、病棟内にクラスターが発生しました。入院患者にはPCR検査をしていたものの、感染経路不明で病棟に広がってしまったようです。患者、医師、看護師等が次々に感染し、数十名の陽性者が判明しました。

そのため、症状の重いコロナ患者はコロナ専用病棟のある病院に転院させ、1つの病棟をコロナ対応する病棟として外来を休止とし、他の病棟の医師や看護師の応援でどうにか規模を縮小させながら、病院を運営していると聞きます。

今回のクラスター発生により、数千万円以上の減収となり、経営的にも大きな打撃を受けています。

■PCR検査希望の患者が来ない理由
当クリニックではPCR検査も行っていました。一部のクリニックでは行列が出来るほど検査希望者が殺到しているようですが、当クリニックではそのような状況ではまったくありませんでした。

新型コロナウイルスがこれだけ流行しているのになぜ?と思うかもしれませんが、PCR検査希望の患者が非常に少なかったこともあり、現在は実施していません。

当クリニックはビルの5階にあり、発熱していない患者と発熱患者の導線を完全に分けることができません。そのため公費負担(患者は検査費用を支払う必要がない)で検査を行うための東京都の示す条件を満たすことが難しく、東京都と契約が結べない状況でした。

導線を分けられない場合、コロナ検査専用の時間帯を診察時間内に設ける方法もあります。ただ、診察時間の変更や短縮を知らずに来院した患者に迷惑をかけることになり、休憩時間中や診察終了後に別途時間帯を設けると、医師や看護師に毎回残業してもらうことになり大きな負担になってしまいます。

このような状況でPCR検査を公費で実施する条件を満たすことができないため、当初は無症状の方を対象に自費の25000円で行っていました。

■PCR検査、25000円は高い?
発熱患者は公費で検査を受けられるクリニックを、無症状者は費用の安い郵送検査を選ぶため、11月頃には当クリニックにPCR検査に訪れる患者は1日に平均数人と、費用面から希望者がほとんどおらず休止しました。

公費で行っているクリニックの場合は、行政が費用を負担するため患者の費用負担なしです。郵送の検査は15000円くらいが一般的です。

一方、当クリニックの場合、PCR検査は契約している外部の検査会社に1回17000円ほど支払う必要があります。25000円の料金設定は人件費を考慮すると採算ギリギリの値段で、街中のクリニックが法外な価格設定をしているわけではありません。

現在、発熱患者には外の廊下に椅子を並べて待って貰っています。換気のため窓を開けているので非常に寒くて申し訳ないのですが仕方のない状況です。

クリニックでもPCR検査をおこなっているところとそうでないところがありますが、PCR検査をしていないところは、コロナが怖いからという理由だけで検査しないというわけではない、ということなります。

■やっと充実してきたコロナ患者を受け入れる病院への補助
毎年冬になると病院内でもインフルエンザの院内感染が発生し、多くの方が中小病院で亡くなっています。

しかし、新型コロナウイルスのように、防護服を着る必要はなく、病棟内で一斉に検査がおこなわれることも少なく、濃厚接触者は自宅待機になることもありませんでした。同じ感染症でもコロナとインフルエンザでは全く扱いが違うわけです。

現在は大病院で治療し重症の状態から軽症から中等症まで回復した患者の受け入れ先がなかなか見つからない状況にあります。

このような状況を受けて、昨年末には厚生労働省から一床あたり最大1500万円の補助を行うと公表され、年明けの緊急事態宣言を受けて、1都3県では450万円、他の道府県では300万円をさらに上乗せすると公表されています。

これは病院で最も大きなコストとなっている医療従事者の人件費にあてることで人材確保を促すためであると報じられています。クラスターが発生した病院への補償も昨年12月に厚生労働省から公表されました(新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金など)。

昨年4月より重症患者の診療報酬が段階的に引き上げられてきた事と合わせて、徐々にではありますが環境が改善されていることは間違いありません。今後もコロナ患者の受け入れ態勢がより充実するように期待したいと思います。

【関連記事】
■著書『新型コロナを乗り越える』
https://www.amazon.co.jp/dp/486367581X/ref=cm_sw_r_apa_i_lcQ0Eb5KW3XX
■間違いだらけの病院選び:大病院の名医の選び方
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■コロナ禍で患者が半減した病院の実態を医者が自ら解説してみた。 (蓮池林太郎 医師)
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■新型コロナはいつ収束するのか? (蓮池林太郎 医師)
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蓮池林太郎 医師・新宿駅前クリニック院長

【プロフィール】
1981年生まれ。医師、作家。帝京大学医学部卒業。病院勤務を経て、2009年新宿駅前クリニックを開設。医療法人社団SEC理事長、新宿駅前クリニック院長。医者としてのキャリアとインターネット分野の知識を掛け合わせ、ホームページ、ウェブメディア、書籍などを通じて、クリニック開業、病院選び、生き方、婚活など独自の視点から情報発信を行っている。

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