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新型コロナウイルスの第三波で感染者が増加した2020年から2021年にかけて、冬になると毎年流行するインフルエンザの感染者は異常なまでに少なかった。

その理由として、コロナ対策として多くの人々がマスクを着用し、手指の消毒など感染予防を徹底したことが大きいと考える。実際、筆者の病院でもインフルエンザの患者がゼロという、過去に経験したことのない状態となった。

執筆時点で新型コロナウイルスの感染者が大幅に減少する一方で、今後はインフルエンザが例年通り流行する可能性がある。それにもかかわらずインフルエンザへの警戒は弱まっており、筆者はそんな状況に危惧を抱いている。

医療的知識を持たない、いわゆる「一般の人」はインフルエンザとインフルエンザワクチンに対してどのような印象を持ち、どう行動するのか? 具体的には予防対策やワクチンの接種について、何に影響を受けてどのように対応するのか? 小児科医の目線でこれら行動の変化を読み解き、明確にすることで、最適なインフルエンザへの対応方法を考えてみたい。

■毎年1,000万人が感染していたインフルエンザはコロナ禍で1,000人に減少
インフルエンザに関する知識と情報をまずは簡単に確認しておきたい。

インフルエンザの流行期はおおむね11月から3月がピークで、年によっては5月まで流行が続く。日本でインフルエンザにかかる患者数は年間約1,000万人と報告されているが、新型コロナウイルスが流行した2020/2021年のシーズンは厚生労働省からの報告でもわずか1,000人程度だった。

インフルエンザの症状は、発熱やせきなどの症状が主となり、関節痛や時には下痢なども引き起こす。インフルエンザについて、一昔前まで検査キットやタミフルなどの治療薬はなく、「流行性感冒(かんぼう)」と言われ、発熱や症状などに対して服薬するなど対症療法で治療していた。

新型コロナウイルスの感染によって、周囲の認識が高まった「感染症〇類」という感染症の分類において、インフルエンザは新型・季節性を問わず、5類に分類されている。指定された医療機関(小児科3,000医療機関、内科2,000医療機関)で診断をした場合は、国に患者の発生件数を報告する。

■子どもと大人のインフルエンザの違い
国内外でインフルエンザが重要視される理由として、他の感染症との違いが大きく分けて2点ある。

一つは感染力と重症度の点で、インフルエンザが他の風邪を引き起こすウイルスと比較し、感染力が高く、高熱が出たり日常生活に制限がかかったりという症状が出やすい点である。

もう一つは、水痘(みずぼうそう)や帯状疱疹と同様に、ウイルスの増殖を抑えるタミフルなどの治療薬があり、早期発見して感染拡大を予防することが可能な点である。

また、筆者の専門である小児科で診断・治療をする子どものインフルエンザと、大人のインフルエンザには相違点がある。

それは子どもの方が重症化しやすい点である。成人の多くはインフルエンザにかかると発熱や強い倦怠感が発生するが、1週間もすれば日常生活が可能になる(免疫状態の低下している方や高齢者などは、インフルエンザに感染した際に、肺炎を併発したり、時には亡くなったりする場合もある)。

しかし子どもは肺の呼吸機能が未熟で、特に1歳に満たない時期から保育園に通園している子どもは、園で感染を繰り返すことで、気管支粘膜が自然に治る機能の低下が起こり、インフルエンザにかかると重症化することもまれではない。

インフルエンザは 脳や脊髄といった中枢神経に影響を及ぼしやすく、インフルエンザの罹患時に熱性けいれんを起こすこともある。インフルエンザが重症化して脳症を引き起こすと、時には後遺症としててんかんを合併し、複数年にわたりてんかんの治療を行う場合もある。

これらの点が子どもと大人のインフルエンザにおける最大の違いだと考える。

■2020/2021年、インフルエンザワクチンの接種率が大幅に上がった理由
先述した通り、2020/2021年シーズンはインフルエンザの流行は「ほぼなかった」と言っても過言ではない。その理由として様々な理由が考えられるが、一つ目は新型コロナウイルスの感染に対し、多くの人がマスクや手指の消毒など感染予防策を徹底した点だと考える。

二つ目はインフルエンザの流行と新型コロナウイルスの感染拡大が同時に起こる可能性が示唆され、国からもインフルエンザワクチンの接種が推奨された点だ。

三つ目は海外との渡航制限から、国内にインフルエンザの流入がほぼなかったことが考えられる。

二つ目にあげたインフルエンザの接種率が向上した点について、もう少し深堀りすると以下の4点が要因であると考えられる。

(1)人々のインフルエンザに罹患した時の不安
インフルエンザと新型コロナウイルスの感染が同時に流行した場合、症状が酷似しているため、多くの医療機関が発熱患者を受け入れない可能性があるなどの報道があった。そのため人々の間で不安が募り、さらに医療崩壊を回避する目的も含め、国がインフルエンザワクチンの予防接種を推奨して接種率が向上した。

(2)自治体からの接種助成金
自治体によってワクチン接種をした住民に一定額の接種料を助成したため、過去にインフルエンザの予防接種をしていなかった人も接種を検討し、実際接種した人も多くみられ接種率が向上した。

(3)インフルエンザワクチンの供給不足
インフルエンザのワクチンは国内のいくつかの製薬会社が製造し、販売している。年間にインフルエンザワクチンを接種する人数はおおむね一定であるため、ある程度の接種人数を想定して製造するが、製造過程の不備や効果などの影響で予定していた出荷本数から割り引いて出荷されることもある。

2020/2021年シーズンは多くの人がインフルエンザワクチンの接種を希望したにもかかわらず、従来通りの接種本数しか出荷されず相対的にワクチン不足となった。

このような供給不足により、有名アーティストのプレミアチケットかの如く、人々の間だけでなく医療機関の間でもワクチン争奪戦が10月初旬から開始された。

この「プレミア価値」が付加価値となり、結果的に接種率が向上したと考えられる。筆者の病院でも予約開始初日に12月末までの予定していたワクチンの予約枠がすべて埋まってしまうという前代未聞の事態が起きた。

(4)子どもを保育園に預けられない
特殊な例ではあるが、インフルエンザの予防接種をしていなければ園で預かってもらえない、また、インフルエンザと新型コロナウイルスの症状が酷似しているため、発熱等の症状が出た場合に医療機関側の受け入れの問題から、受診すらできないことも想定された。家族の仕事に影響が出る可能性があり、少しでもインフルエンザの感染リスクを減らそうと考える家庭もみられた。

■インフルエンザワクチンの接種率に影響することは?
2020/2021年シーズンのインフルエンザの少なさは異常であったとしても、海外渡航が再開され、新型コロナウイルスの感染の落ち着きから、2021/2022年シーズンは、昨年よりもインフルエンザの患者数は増加すると想定できる。

一部の人は2020/2021年シーズンは、自身の周りにインフルエンザの患者がおらず、感染予防策も継続しているという認識から、インフルエンザは流行しないだろうと考えてインフルエンザの予防接種を控えている人も散見される。

実際、当院でも2020/2021年シーズンと2021/2022年シーズン(10月31日現在)では接種率は20%減少している。

インフルエンザの流行が元に戻ると想定される中で、人々のインフルエンザワクチンの接種に対する考え方は、以下の3点に集約できるのではないかと私は考えている。

1・インフルエンザに対し不安を感じているか?

2・自身や家族がインフルエンザにかかった際に、仕事を休まなければならないなど、家族を取り巻く環境。

3・新型コロナウイルスとインフルエンザの同時流行を懸念し、自治体等が接種費用を助成するなど、インフルエンザワクチンの接種費用。

つまりインフルエンザが流行するかどうか?という直接的な要因ではなく、むしろ直接的には関係のない要因によって、インフルエンザの接種率が上下しているのではないかと考えられる。

■アフターコロナのインフルエンザ対策
少なくとも2022/2023年シーズン以降、インフルエンザの流行は新型コロナウイルスの感染以前に戻るであろうと私は予想している。根拠として、乳幼児はマスク、手指消毒が徹底できない状況で、例年流行するRSウイルスや手足口病といった感染症による患者数に変化がみられない。

したがってアフターコロナとなり、海外との往来が活発化し、インフルエンザウイルスの海外からの輸入と、人々の間で感染予防の意識が低下した際は、インフルエンザは間違いなく例年通り流行するだろう。

子どもたちのインフルエンザの重症化を防ぐためには、日々の手指消毒、うがい、マスク着用などの感染予防策を今後も継続するとともに、インフルエンザワクチンが有効な予防手段であると啓蒙していくことが、私たち小児科医の役割でもあると考えている。

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竹綱庸仁 小児科医 たけつな小児科クリニック院長

2004年、愛知医科大学医学部卒業。同大学で臨床研修終了後、小児科に入局。2013年、奈良県の病院で小児科の立ち上げに従事。2017年、たけつな小児科クリニックを開設。「すべては子どもたちのために」をモットーに、一般的な疾患からてんかんなどの神経疾患、食物アレルギーや喘息、日本でも数少ない小児頭痛を専門とするなど幅広い診療を行う。現在は病児保育室バンビを運営する他、児童発達支援施設「のびいく」で言語発達遅延の子どもに言語訓練を行う。陰陽師を目指し、易学を勉強中。

HP:http://www.taketsuna-kojika.com/

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