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先日、政府は新型コロナウイルスの感染者が現象している状況を踏まえ、来年1月下旬にも「GoToトラベル」再開の見通しを発表した。変異株の流行も懸念される一方、徐々にアフターコロナを迎えつつある。

コロナ禍で急速に拡大したテレワークについて、読売新聞の行った調査によれば、国内主要企業の過半数がテレワークを続行すると回答している。一部に縮小の動きはあるものの、コロナ以降もオンライン化に対する社会の需要は根強い(テレワーク、3割弱の企業が「縮小する」…出社を促す動き 読売新聞 2021/11/22)

そしてオンライン化の波は教育業界にも大きな変化を与えた。当初は感染防止を目的として広まった学校・学習塾におけるオンライン指導だったが、テレワークと同様に通学時間が不要で場所も選ばない利便性から、オンライン専門で指導を行う学習塾は増加傾向にある。

加えて、YouTuber等のインフルエンサーの台頭が教育業界にもたらした変化も大きい。今まで月謝を支払って校舎に行かないと受けられなかった授業が、スマホ1台でいつでもどこでも無料で受けられるようになった。

そこでオンライン学習塾の経営者として、コロナとインフルエンサーの時代における教育現場の変化、そして教育格差の変化について考えてみたい。

■コロナ禍で急速に拡大したオンライン指導の需要
「授業は対面指導で行うもの」この常識がコロナ禍で一気に崩れた。

30~40人が同じ教室に集まって受ける対面式の授業は、まさに政府が集団感染を防ぐよう呼びかけていた3密(密閉・密集・密接)のすべてに該当する。

緊急事態宣言の発令当初は従来の対面形式で授業を行っていた学校や学習塾も多かったが、都市部の学校でクラスターが多発した影響で臨時休校の策をとる学校や学習塾が相次いだ。収束の目途が立たない中で休校を続けていれば授業を進めることができない。この状況で急速に拡大したのがオンライン指導だ。

生徒は自宅、先生は教室で行う遠隔での授業は、当初はシステムの不具合や操作に不慣れなことによるトラブルこそあったものの、感染リスクが0で行える指導形態としてテレワーク同様急速に普及した。

■オンライン指導の拡大により問われ始めた対面指導の意義
新型コロナウイルス感染防止のためにある意味で仕方なく行われることになったオンライン指導だが、次第にその学習効率の良さが認知され始めた。

オンライン指導は場所を選ばず受けられるため、今まで通学にかけていた移動時間が不要になる。授業動画を撮影して生徒に配布することで、理解できなかった箇所を何度も視聴することができる。

もちろん、学校は授業を受けるためだけの教育機関ではない。クラスメイトと人間関係を育むことで集団行動のルールを学び、社会生活をおくるための練習といった意味合いも大きい。

だが、民間企業の経営する学習塾は必ずしもそうではない。特に志望校への合格を目的とする学習塾において、オンライン指導は対面指導に比べて優位な点も多かった。

前述の生徒側の利便性だけでなく学習塾側としても多数のメリットがある。

生徒と講師の男女間トラブルといった親や経営者にとって学習以外の部分で発生する問題も容易に回避できる。指導をすべてオンライン完結すれば教室の賃料削減にもつながる。さらに、従来は校舎近辺に住む学生しか集客できなかったが、オンライン指導であれば日本全国の学生が対象となり一気にターゲットとなる顧客が増える。

教室が無くても学習塾は運営できる。

ウィズコロナ、アフターコロナの時代、このような新しい常識によりオンライン専門の学習塾が増加しつつある。

■インフルエンサーの台頭により授業の価値が低下
コロナに加え、インフルエンサーの台頭も教育業界に大きな変化をもたらした。

かつては学習塾や予備校に通い、お金を払って授業を受けるのが一般的だったが、YouTubeを始めとする各種SNSの発達によりその文化も変化しつつある。スマートフォンで誰でもインターネットに動画をアップロードできる現在、教員採用試験に合格しなくても、学習塾に講師として雇用されなくても、自由に自分の授業動画を公開することができる。

いわゆる教育系インフルエンサーと呼ばれる人の中には、チャンネル登録者数が100万人を優に超えるような人もいれば、元予備校勤務のプロ講師が自身の授業を無料で公開しているチャンネルもある。予備校によっては年間100万円以上かかる授業料を、YouTubeでは0円で済ませることも可能な時代になった。

つまり、知識やノウハウといった「情報」そのものに対する経済的価値の低下を意味する。あらゆる情報が無料で手に入る現在、「無料化の波」が学習塾の世界まで来たともいえる。月に何万円もお金を払って時間をかけて塾に通う意義について、学習塾の経営者や関係者、そして顧客である生徒や両親も無関心では居られない時代になったといえる。

■情報を買う時代から「情報の使い方」を買う時代へ
授業そのものに多額のお金を払う時代は、着々と終わりが近づいている。

YouTubeの無料授業だけでなく、株式会社リクルートが運営する「スタディサプリ」というサービスでは月額約2,000円という低価格であらゆる教科の授業が見放題となっている。動画配信サービスで有名なネットフリックス等と同様に、定額で利用し放題のいわゆるサブスクリプションモデルだ。

では、情報そのものの経済的価値が低下した今、学生たちが求めるものは何なのか? それを私は「情報の使い方」であると考える。

授業は無料もしくは安価で受けられ、勉強法ややる気の出し方、進路の選び方はインターネット上で無料で見られるようになっている。そんな情報過多の現在において、学生たちは「何が自分に必要な情報なのか?」「どの情報をどう活用すれば良いのか?」が分からないのだ。

そのため近年は、勉強のやり方を指導する塾や、合格のための計画を立てる塾といった、授業以外のコンテンツをウリにする学習塾も大幅に増えている。

例えば筆者が運営する学習塾ではそもそも授業を行っていない。その場で勉強を教えるのではなく、日々の勉強の中で生じた問題を解決するアドバイスを行っている。講義形式の指導を行うのではなく、自学自習の効率を最大化することにフォーカスしている。

前述の通り、無料・安価に提供されている授業や情報がすでにあるのなら生徒はそれらを利用すればいい、不足しているのはそれらを「最大限に上手く利用する方法」ではないか? こんな発想がビジネスモデルの土台になった、という説明になる。

■消えゆく教育格差
昨今問題視されている生まれによる教育格差、これは両親の社会的・経済的地位が高いほど、住んでいる場所が都心部であるほど子どもの学歴も高くなる、というものだ。

しかし、オンライン指導の普及と情報そのものに対する経済的価値の低下により、この教育格差は急速に狭まる可能性もある。近くに有名な予備校が無くとも、高額な授業料を支払わなくとも、高品質の授業がいつでもどこでも受けられ、情報収集も容易になったからだ。

オンラインで薄れていくであろう教育格差が、今後の日本の教育に及ぼす影響は極めて大きくなる可能性を秘めている。学歴をお金で買う時代ではなく、個の力が強く求められている今、「蛙の子は蛙」ではなく、「トンビが鷹を生む」時代がもうそこまで来ているのかもしれない。

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吉村暢浩 オンライン学習塾経営 株式会社ポラリス代表取締役

【プロフィール】
2018年、京都大学工学部を卒業、同大学大学院に進学。2019年に京都大学大学院を退学し、受験コンサルティング事業「ポラリスアカデミア」を立ち上げる。2021年、株式会社ポラリスを設立。社会で勝ち抜くために必要な問題解決能力を大学受験を通じて身に付ける独自の指導を行っている。2021年11月現在、在籍生徒数は200名を超える。

HP:https://polaris-academia.co.jp/

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