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働き方改革が叫ばれる現在、業務を効率化するという方針は、多くの職場で取られていることだろう。仕事のプロセスを効率化してムダを無くせば、働く時間を減らすことができる。この効率化という考え方は、トヨタの”カイゼン”などに代表され、日本では根強いものとなっている。

しかし実際には、仕事を効率化しても働く時間が減るとは限らない。

そのことを物語っているのが「残業ゼロのシステム開発会社」をうたい、2017年3月にホワイト企業アワードの労働時間削減部門で大賞を受賞した株式会社AXIAの事例だ。

この会社では、業務の効率化をしただけでは残業がまったく減らなかったという。

なぜ、業務を効率化するだけでは働く時間を減らすことができないのか? どうすれば、働く時間を減らすことができるのだろうか?

現在も大手金融機関に勤めており、タスク管理を見直すことで一日約14時間の長時間労働を改めることに成功し、2016年から残業ゼロを達成し続けているタスク管理の専門家の立場から、株式会社AXIAの事例を参考に、これらの問いについて考えてみたい。

■どんなに業務を効率化しても残業が無くならない原因
全社で残業ゼロを達成した株式会社AXIAも、最初は業務の効率化に取り組んだ。しかし代表取締役社長の米村歩氏は、自身のブログで「いくら業務効率化しても残業はなくならなかった」と語っている(参考:業務効率化すれば残業が減るというのはウソ 残業ゼロのIT企業アクシア社長ブログ 2017/05/31)。

米村氏によれば、AXIAも昔は「残業まみれの超絶ブラック企業」だったという。そんなAXIAだったが、2009年頃から残業削減を目指して業務効率化に取り組むようになり、2012年10月には会社単位で残業ゼロを達成した。

しかし米村氏によれば、業務効率化を図ってきた2009年~2012年の3年の間、残業は全く減らなかったというのだ。

業務効率化がうまくいかなかったわけではない。米村氏によれば、ムダな会議や資料を廃止して空き時間は生まれ、ソースコードの自動生成の取り組みでは大幅に製造時間の短縮に成功。マニュアル作成や教育によって仕事を標準化することで一人の人に偏っていた仕事の負荷分散にも成功した。それでも、残業は全く減らなかったのだ。なぜなのだろうか。

それは米村氏自身がそう語るように「会社の仕事は無限にある」という重要な視点を見落とし、業務効率化により空いた時間に別の仕事を入れてしまっていたからだった。

■空いた時間には無限に新たな仕事が入ってくる
たとえばムダな会議や資料を廃止して月に10時間空き時間を作れたとしても、その空いた10時間に別の仕事を割り当ててしまえば、働く時間は単純に減らないことになる。

たとえ業務効率化により時間を創出できたとしても、せっかく創出した空き時間に別の仕事を入れ続けてしまう限り、いくら業務効率化を進めても働く時間自体は減っていかないということだ。

なぜ、人はせっかく創出した空き時間に別の仕事を入れ続けてしまうのか。その原因こそ、「会社の仕事は無限にある」点を見落としてしまっていることにある。

会社が売上を伸ばそうとしたり、成長しようとし続ける限り、会社の仕事は無限に増え続ける。会社が目指す売上(目標)には上限がないし、成長にも終わりがないからだ。そうして会社は売上を増やすため、あるいは成長するために新しい仕事をどんどん作り出していく。

だからこそ、なんらかの「線引き」をしないかぎり、たとえ業務効率化により時間を創出しても、空いた時間に別の仕事を入れ続けてしまう。その結果、いくら業務効率化を進めても、「働く時間は減らない」という現象が生じることになるのだ。

■「時間を制限する」という線引きで問題を解決したAXIA
AXIAはこの問題に対しどのように対処し、残業ゼロを達成したのか。AXIAはこの問題に対し、最終的に「時間を制限する」というやり方で線引きをした。2012年9月30日、全従業員の前で米村氏が「明日から残業を禁止にします」と宣言したのだ。

この日以降、米村氏はとにかく残業を徹底的に禁止した。「たとえ仕事が終わらなくても、納期に間に合わなくても、お客さんに怒られても、とにかく定時で帰らせました」と、後に米村氏は自身のブログで語っている(参考:「残業ゼロ」を73ヶ月間続けた記録 残業ゼロのIT企業アクシア社長ブログ 2018/11/20)。

徹底して残業を禁止し続けた結果、初期の段階では一部の社員やクライアントから反発があったものの、残業を禁止してから約半年を経過する頃には社員は自然と定時に帰るようになっていった。

同社の売上は残業ゼロの取り組みにより下がらなかったのだろうか。米村氏によれば、残業を禁止した翌月から同社の売上は前月比で 27%増加し、その後も売上と利益は伸びていったという。

2009年~2012年の3年間、業務効率化を進めていったのに全く働く時間が減らなかったAXIAは、最終的に「時間を制限する」という線引きの仕方によって、売上と利益を下げることなく問題を解決したのである。

■段階的に時間を制限してみるという一つの解決策
AXIAの例から私達はどんなことを学べるだろう。それは、働く時間を減らすためには仕事を効率化するだけでは足りず、会社の仕事は無限にあるという問題に対する手当として、なんらかの線引きを合わせて行う必要があるということだ。

AXIAの場合は時間を制限することでその線引きを行った。残業を禁止し、働く時間を制限することで、売上や利益を減らさずに社員個人の働く時間を減らすことに成功した。

AXIAの例からわかる通り、時間を制限するという線引きのやり方は業務効率化を進めても働く時間が減らないという問題に対しきわめて効果的だ。

いきなり明日から残業ゼロを実践することは現実的にむずかしいだろう。しかし、少しずつ働く時間を制限していくことは誰にでもできるはずだ。

週刊少年ジャンプで40年間も連載し、単行本は全201巻にも及ぶマンガ『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(通称:こち亀)の作者である秋本治氏も、著書『秋本治の仕事術『こち亀』作者が40年間休まず週刊連載を続けられた理由』(2019 集英社)にて、時間を制限することで、成果(仕事量)を変えずに働く時間を減らすことに成功したエピソードを次のように語っている。

『終わる時間を24時、22時、21時と早めていき、最終的には19時に切り上げるという習慣ができあがりました。(中略)不思議なもので、終わりの時間を繰り上げ、マンガを書く時間を減らしても、できる仕事の量は変わりませんでした。(引用:同上)』

秋本治氏のように段階的に働く時間を減らしていくことで働く時間を減らす手法は、会社員でも実践できる。

たとえば普段20時に仕事を終えているのであれば、明日から19時半に仕事を終えるようにしてみる。そうして19時半に仕事を終えることが習慣化したら、次は19時に仕事を終えるようにしてみる。そうして少しずつでも、段階的に働く時間を制限していくことを続けていけば、無理なく働く時間を減らすことができるようになる。

■ 「仕事を制限する」というもう一つの線引き
一方で、たくさんの仕事を抱え「仕事が終わらない」というプレッシャーを抱える中、個人の意思だけで働く時間を制限するのはむずかしいと感じる人もいるかもしれない。

AXIAの場合は社長がトップダウンで残業を禁止し、社員からすれば強制的に働く時間を制限されることになった。そうした強制力がない中、自分一人で働く時間を制限するのはたくさんの仕事を抱える中むずかしいものだ。

その場合は、時間の代わりに「仕事を制限する」という線引きをしてみてはどうか。

具体的には自分が受ける仕事量を制限するのだ。

たとえば、ムダな会議や資料を廃止して月に10時間空き時間を作れたとする。そうして10時間空き時間を作ったら、10時間分あらたな仕事を引き受けないようにするのだ。そうすれば理論上、仕事の効率がよくなればなるほど、働く時間を減らすことができるようになる。

一方、たくさんの仕事がある中でどうやって仕事量を制限したらいいのか。その一つのやり方が仕事を断るという選択肢を自分の中にもつことだ。

■仕事を断っても必ずしも相手が傷つくわけではない
上司や同僚から仕事を依頼された時、それを断るのは相手の期待を裏切るように感じ、罪悪感があるという人もいるだろう。しかし実際には、意外にも多くの人が仕事を断られても、傷ついたりしないことがわかっている。

韓国で22万部も売れたイ・ミンギュ氏著の『「後回し」にしない技術 「すぐやる人」になる20の方法』(文響社 2021)にも、「断られたときにどう感じるか」を問うアンケートで65.9%もの人が「そんなこともあると思う」と答えていることが書かれている。

ニューヨーク・タイムズで1位を獲得した『「週4時間」だけ働く。』をはじめとした数々のベストセラーで知られるティム・フェリスも、「ノー」を言うことをテーマに本を書いている時、(本人曰く)驚くべき発見をした。

数々の親しい友人からの依頼を断ってみて、ガッカリされるかと思いきや、むしろ大半の人から「私も君と同じように仕事を断れたらどんなにいいだろう。すばらしいね!」といった思いのほか好意的な反応が返ってきたという。

このエピソードからも、仕事を断っても必ずしも相手が傷つくわけではないということがわかる。

■仕事を断る方法-シンプルに「ノー」を言う
次の問題は、「どうやったら仕事を断れるようになるか」だ。結論から言ってしまうと、仕事を断るコツはもっともらしい言い訳を語ろうとせず、シンプルに「ノー」ということになる。

全世界で累計1200万部を突破し、2010年にはジュリア・ロバーツ主演で映画化もされた代表作『食べて、祈って、恋をして』で知られる世界的人気作家エリザベス・ギルバートも、ティム・フェリスとの対談で「シンプルにノーを言う」ことの大切さを自身のエピソードとともに語っている。

エリザベスはある時、以前お世話になった仕事相手から「あたらしい商品のプロモーションのために、1時間のビデオインタビューに協力してほしい」と依頼を受けた。気の進まなかったエリザベスは、「ごめんなさい。今回はご期待に沿えそうにないわ」とだけ伝えた。

そうしたところ、相手から「なぜ今回の仕事をやってほしいのか、きちんと説明させて。コロナもあって、今の時期は商品を売るのがとてもむずかしいの。だから、あなたの協力がどうしても必要なの」と強いトーンで返信がきた。

それに対しエリザベスは、「あなたの言ってることはわかるわ。でも、ノーよ」とだけ返した。そうしたところ、相手からの返信は途絶えたという。

「3回返事がくることはまずないわ。ただノーとだけ言うことよ。言葉を足せば足すほど、話がもつれることになるから」とエリザベスはこのエピソードをふまえて語った。

仕事を断ることは簡単ではない。エリザベス自身もそう述べており、自身もこれから断る練習を積んでいく必要があることを強調している。

はじめのうちは仕事を断ることは簡単ではないかもしれない。でも読者にはぜひ、「シンプルにノーを言う」の練習を積むことで働く時間を減らし、理想の働き方を手に入れてほしい。

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滝川徹 タスク管理の専門家

【プロフィール】
1982年東京生まれ。慶應義塾大学卒業後、内資トップの大手金融機関に勤務。長時間労働に悩んだことをきっかけに独学でタスク管理を習得。2014年に自身が所属する組織の残業を削減した取り組みが全国で表彰される。2016年には「残業ゼロ」の働き方を達成。その体験を出版した『気持ちが楽になる働き方 33歳大企業サラリーマン、長時間労働をやめる。』(金風舎)はAmazon1位2部門を獲得。2018年に順天堂大学で講演を行うなど、現在は講演やセミナー活動を中心に個人事業主としても活動している。


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